第33話
「これでよし」
晩御飯を食べるお店を探しに行く前に、忘れないうちに商人ギルドで3000万Gを払っておいた。
これで何にも縛られることなく、自由にできる。本当にウルとルリが居たおかげだ。
「じゃあ今回は何処で食べるかルリに決めてもらうとしようか。好きなところを選んでいいぞ」
「アウ!」
色んな場所からいい匂いがしているが、ウルはどうするんだろうか。
「アウ!」
「お、ここか。じゃあ早速入ってみよう」
「クゥ!」
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「いや、食事だけです。おすすめをお願いします。あと、魔獣が食べやすいようにお皿も」
「はいよ」
ルリが選んだのは宿屋と一緒になっているごはん屋さんで、地元の人が通うような雰囲気のあるところだった。
「兄ちゃんは最近ここに来たプレイヤー様か?」
「そうですね。でも、プレイヤーは皆最近じゃないですか?」
「ははは、違いねぇ。ここは飯がうめぇからいっぱい食えよ」
「そうします。プレイヤーはいくらでも食べられますからね」
「不思議だよな。それにプレイヤー様はうん「汚い話をここでするんじゃないよ。戻りな!」」
謝罪とともに頭を下げ、酔っ払った男性は仲間の待つテーブルに戻っていった。
「お客様ごめんね。あの人もプレイヤー様がこの街に来て嬉しいのよ。でも、プレイヤー様に話しかけるタイミングがないから、酔っ払って変な絡み方したんだわ。今度馬鹿なことしないよう言っとくから。はい料理!」
「あはは、ありがとうございます。お、このサラダの入ってるお皿、器も大きいし量も多いですね」
「この街でおすすめの料理頼むなら、たんまり入ったサラダは食べないとね」
サラダだけでお腹いっぱいになりそうな量だな。ウルとルリには少なめに取り分けてあげよう。
「で、これが野菜の天ぷらの盛り合わせ。こっちはお肉が好きそうな魔獣さんも満足してくれると思うわ。後でデザートも持ってくるからね」
「分かりました。じゃあ、ウルもルリも一緒に。いただきます!」
「クゥ!」「アウ!」
ウルとルリがよだれを垂らしているのを見て安心したのか、店員さんはキッチンの方に戻っていった。
「じゃあ最初にサラダから食べようか。その後天ぷらを取り分けてやるからな。味も塩とつゆの両方あるから、好きに食べていいぞ」
「クゥクゥ!」「アウ!」
2人ともお肉にはすごい反応をいつも見せるけど、その野菜にもいつもの反応をするのは素材が良いからかな?
「おいおい、後でデザートあるって言ってたからな」
「クッ!」「アウ!」
ルリはデザートの言葉に反応して少しセーブしていた。たぶんベラさんの店で食べたケーキの時の反応からしても、甘いものが好きなんだろう。
ウルは身体が大きくなった影響がもろに食事量に出ていて、すごい食べっぷりだ。
「あんたらいい食べっぷりだね。プレイヤー様のお口にあって嬉しいよ。はいこれデザートね。少し多めにしといたから」
「アウ!」
次は私の番だと言わんばかりに、ルリはデザートを味わって食べている。
そんなルリを見て自分の分から少し分けてあげるあたり、ウルも良いお兄ちゃんしてるな。
「ウルもルリも俺の食べてくれていいから。足りなかったらまた頼めばいいし、2人とも遠慮せず食べて」
「クゥ!」「アウ!」
こうしてお店を出る頃には、2人は満足そうな表情になっていた。
「ご馳走様でした。値段も4000Gではじめの街よりは少し高くなったけど、量は多いし美味しかったな」
「クゥ!」「アウ!」
「あのっ、そこの魔獣を連れてる方!」
「俺かな? どうしました?」
「プレイヤーですよね? 北の街に泊まってるんですか?」
「あぁ、まぁ泊まってるっちゃ泊まってるな」
「この街で泊まる場所のオススメってありますか? はじめて仲間とボスを倒してここに来たんですけど、せっかくなら泊まってみようって」
うーん、答えてやりたい気持ちはあるが、どうしようか。
「今出てきたとこは宿もやってるしご飯が美味かったぞ。野菜が多いから、嫌いな人がいるならオススメはしないけど」
「なるほど、仲間を連れて行ってみますね。ありがとうございました」
「あ、これあげるよ。こっちは俺も中身は知らないから。ログアウトする前に宿の中でみんなで楽しんで」
そう言ってカジノトランプとカジノボックスを渡す。
「あぁ、今日イベントのあったカジノですよね。行きたかったなぁ」
「まぁまたやるんじゃないか?」
「そうですね、本当にもらっていいんですか?」
「いいよいいよ。俺は十分楽しんだし、お裾分け。カジノを出る時に全員もらえるやつだから、そんなに期待はしないでね」
「ありがとうございました!」
そう言って声をかけてきたプレイヤーと別れた。
「そう思うとカジノのイベントって結構初心者には厳しかったんだな」
ゲーム内では5日目だが、現実だと2日も経ってないのに、ボスを倒した先の街でイベントなんて、今考えると初心者プレイヤーには優しくない。
「こういうことに備えて、色んなイベントに参加できるようにレベルは定期的に上げないとな」
そのまま家まで戻って、厩舎に居るライドホースの様子をみてみる。
「すぐ出てくから安心してくれ。どうだ、体調は大丈夫か?」
『ブルルルッ』
ライドホースは顔を横に振り、勢いよく息を吐き出す。
「良くはなさそうだな。これ置いとくから、よかったら食べてくれ。食べたくなかったら残していいからな。あとお前らの分もあるから心配するなよ」
インベントリからテイム用骨付き肉を出し、ライドホースとマウンテンモウに1つずつ配る。
肉だからもしかしたら食べないかもと思ったが、テイム用なだけあって美味しいのだろう。ここで俺が名前でもつければ本当にテイム出来てしまうんだろうが、そのつもりはないのでここを出る。
「これで少しでも元気になってくれればいいけど」
1つ50万チップで交換した肉だ。ウルとルリは今お腹いっぱいだから特に反応しなかったが、少しでもお腹が空いてたら、飛びついてでも食べようとしただろう。
「あとは魔法の万能農具を畑の近くのここに置いとくか」
本当はこのまま畑に種と苗を植えたいが、それは明日の朝にするとして、家の中に入る。
「じゃあ、持ち物整理からしてこう。まずは工房(鍛冶・錬金用)1部屋の権利書だが、これはガイルとメイちゃんの2人に使ってもらおう。正直チップが勿体なくて交換したが、俺はそもそも家にあるし、魔法の錬金釜・魔法の手袋と魔法の金鎚があれば、やりたくなったらいつでも出来るからな」
ということでガイルにチャットしておく。たぶん寝てるから、起きたら連絡が来るだろう。
「で、次が中級魔法習得本だな。これはどうしようか。俺が使うつもりだったが、魔法を覚えずにこのまま剣士としてステータスを上げていくほうが良いのかも、とも思うな。一旦保留にしよう」
使わないの? というような視線をウルから感じるが、ステータスを自分で上げることができない仕様上、手広く色々なものに手を出すと、後で必要なステータスが足りなくてどうしようもない状況になったりするのが怖いのだ。
「次は魔法のツルハシと、魔法の手袋かな」
ツルハシは鉱石を掘る時に使うんだろうけど、魔法の手袋は錬金の時しか使わないかもしれないから、やっぱり置いとこうかな? いや、これくらいなら持っててもいいか。
「で、次が魔法の羽根ペンと魔法のメモ帳ね」
メモ帳にペンで文字を書くが、別に普通だ。特に他のものと変わらない気がする。
「え、羽根の部分で文字が消える。うわ、消した部分を元通りにするか選べる。色も変えられるし、付箋も出てくる。なにこれ」
めちゃくちゃ便利なペンとメモ帳だった。たぶんまだまだ色んな機能があるんだろう。意外とメモしたいことはあるから、どんどん使っていきたいと思う。
「で、魔法の包丁ね。これもキッチンに置いててもいいけど、山の中でご飯食べることもあるし、色んな場所で使う可能性があるから、今は持っておくとしよう」
まだ俺は料理上達を諦めていない。色々楽しいことが多すぎて、こんなに料理の練習時間が取れないとは思わなかったけど、まだ諦めてないぞ。
「うわ、鍛冶職人カヌスの全身オーダーメイド(素材持ち込み)か。これは早めに使ってもいいかもな。はじめの街でアンさんに作ってもらった今の装備も、ダンジョンでドロップする装備と性能は近いし、装備の更新をする時な気がする」
商品になるくらいだから、カヌスさんは良い腕の持ち主なんだろう。
「この、第一回オークション特別席は、なんだろう、楽しそうだな。オークション中飲み物とか食べ物が無料だったりしそう。うん」
勢いで交換しちゃったけど、今思うとこれで500万の価値があるのだろうか。いや、あるのだろうな。
こんな機会二度となさそうだから、忘れずに参加しよう。
「で、力のブレスレットと、知力のブレスレットと、速さのブレスレットか。力のブレスレットは筋力と頑丈+10で、知力のブレスレットは知力と精神が+10で、速さのブレスレットが敏捷と器用が+10と。正直めちゃくちゃ強いけど、幸運の指輪とはかえられないな」
アクセサリーがいくつもつけられるようになれば、このブレスレット達も活躍する日があるかもしれない。
「で、万能空き瓶とかテイム用骨付き肉とか、不思議な種、苗でインベントリの中にあるカジノで交換したものは全部か」
よくこんなに交換したなぁ。ゴールドにすると10分の1になるからって景品交換したけど、ゴールドに換金したほうがよかったものもあるかもしれない。
「あとははじめの街から次の街へ行く間のモンスターの素材がほとんどだし、これも今度ガイル達に渡そう。あ、装備のための素材は残しとかないとな」
せっかくだしボス素材はカヌスさんで使っておきたい。使うのがあとになればなるほど素材としての価値が低くなると思うし。
「よし、じゃあ一旦ログアウトするから、自由にしてていいぞ」
「クゥ!」「アウ!」
こうして一度休憩のために俺はゲームからログアウトするのだった。
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