第31話
「ご馳走様でした」
「クゥ」「アウ」
フカさんの家で食事をさせてもらい、デザートまでいただいてしまった。
急な訪問だったはずなのに、前からご飯の約束をしていたかのようなおもてなしをしてもらって、フカさんにもこの家の人にも感謝しかない。
「うん、決めた。ユーマくん達にしか出来ないことだね」
フカさんはずっと食事の間も考えていたのか、いきなり立ち上がるとそう言って依頼書を見せてくる。
捕獲依頼
内容:ライドホース2体の捕獲
報酬:10000G
期限:1週間
俺達にこの依頼を達成出来るかは詳しく聞いてみないと分からないけど、依頼内容としては良さそうだ。
「俺としてはこの依頼を受けようと思うんですけど、俺達にしか出来ないってのはどういうことですか?」
「食事中マウンテンモウを捕まえたユーマくん達の話を聞いて、これだと思ったよ。優しいユーマくん達に捕まえてもらおうってね」
大きなモンスターが捕獲対象だと、どうしても弱らせて縛る必要があるため、捕獲したあとは人との信頼関係を築く時間が必要だ。
しかし、マウンテンモウを捕獲した時の俺達は、攻撃や脅しなど信頼を失うような行動をほぼ取らずにここまで連れてくることができたため、今回の依頼でもそういった方法で捕まえてほしいらしい。
「絶対に傷つけないでとは言わないよ。それにあんな事は言ったが捕まえ方だって任せよう。本当に少しだが、にんじんを与えたら懐いたという話も聞いたことがあるし、自由に試してみて欲しい」
「分かりました。捕獲したらそのままここまで連れてくればいいですか?」
「そうだね。私のところに連れてきてくれてもいいし、ユーマくんのところに置いておいて私を呼んでくれてもいいよ」
こうしてフカさんからの依頼を受けた俺は、早速ライドホースを探しに外へ繰り出すのだった。
「居ないなぁ」
「クゥ」「アウ」
かれこれ1時間位はライドホースが居るとされている場所で探しているのだが、出会うのは好戦的なモンスターばかり。
「やっぱりライドホースの立場は弱いんだな」
他のモンスターに倒されないように群れでいるらしく、1体見つけると何体も見つかるとは聞いたが、本当にその1体がなかなか見つからない。
「他のモンスターなら見えるんだけどな」
ワイルドドッグに、ポイズンベアーに、レッドスライム。
見えるモンスターの種類からして、このあたりにライドホースがいてもおかしくないとは思うのだが、ウルもルリも見つけることが出来ていないので、俺が見落としているわけではないだろう。
「それにしても探す場所が広すぎるな。これで逃げられたりしたら、また1から探すのはちょっとしんどいかも」
はじめの街ではカシワドリを、この北の街ではマウンテンモウを捕まえたが、少しずつ依頼の難易度は上がっている気がする。
「さっきから襲いかかってくる敵が捕獲依頼にしては強いな」
これまでの捕獲依頼では、捕獲するモンスターがあまり強くないというのもあるのか、周りに強いモンスターがいることがなかった。
なので今回色々なモンスターに戦闘を仕掛けられて探す時間が減っているというのも、まだライドホースを見つけられていない理由の1つかもしれない。
「クゥ!」
「ん、ライドホースを見つけたのか?」
やっと見つけたのかと思ってウルの指す方を見てみると、そこにはポイズンベアー1体とワイルドドッグ3体が睨み合っていて、その中心にはライドホースが2体。
「うわ、あれって餌を取り合ってる?」
このゲームはグロい描写は無いはずなので、外からずっと様子を見ていてもライドホースが食べられるようなことはないと思われる。
だがライドホースがどこかに連れて行かれて、プレイヤーの見えない場所で食べたことにしたり、そもそもモンスター同士で戦って、相手を倒したら食事をしたということになる可能性もある。
「とりあえずせっかく見つけたし、助けるしかないよな。ポイズンベアーは俺がやるから、ウルとルリでワイルドドッグを頼む!」
「クゥ!」「アウ!」
ポイズンベアーの目の前に飛び出し、武器を構える。
ポイズンベアーの攻撃をもらえば毒状態になると思われるが、俺の装備の毒耐性は高いほうだし、指輪のおかげで状態異常無効なので何も恐れることはない。
「ちょっと強くなったワイルドベアーと変わらない、なっ!」
『グアウゥゥ!』
腕を振り回して爪で攻撃してくるが、俺に当たることはない。
もし毒が俺の身体に付着していて、ウルやルリを毒状態にしてしまっても嫌なので、完璧に相手の攻撃を避ける。
「まぁ1体だとこんなもんか」
ポイズンベアーを倒したので後ろを見ると、ウル達も丁度倒し終わったところだった。
「お疲れ様。じゃあ早速ライドホースを捕まえようと思うんだが、怪我してるのか?」
1体が倒れており、それを庇うようにもう1体が前に立ち塞がる。
『ヒ、ヒヒーンッ』
「ん〜、なんかいじめてるみたいで嫌だな。俺達はお前らを捕まえに来たんだが、痛いことをしようってわけじゃないんだ」
『ヒン、ヒ、ン』
倒れている方がもう1体に逃げろとでもいうように声を出している。
「どうしろってんだこれ。倒れてるやつもなんで倒れてるのかわからないし、どうにか出来ないか?」
「クゥ!」「アウ!」
すると立ち塞がっていたライドホースの横を通り抜け、ウルとルリが倒れている方に近寄ると、インベントリから食べ物を出して、分け与えている。
『ヒヒーン』
「まぁこっちに敵意がないことを分かってくれただけいいか」
まだこちらを警戒しているが、ウル達の行動によって近寄ることは許してくれたらしい。
「クゥ」
「見たところ怪我もなさそうだし、なんでこんなに弱ってるんだろな」
本当は途中から他のライドホースを探そうとも思っていた。
こんなに弱っているライドホースを渡しても困るだけだろうし、この1体だけ捕まえるのも悪い気がしたからだ。
「でもまぁ一旦連れて行くか」
このまま置いて行ってもずっと気になるし、何よりこのままここで放っておいたら、せっかく助けたのに他のモンスターにまたやられそうだ。
「ウルとルリにそっちは任せる」
「クゥ」「アウ」
歩くのも辛そうなライドホースを2人に支えてもらって、俺は襲ってくるモンスターを倒す。
『ヒヒーーン!』
「いや、お前は戦わなくていいからそいつの側にいてやってくれ」
やる気を出してくれたところ申し訳ないが、モンスターの処理は俺だけでいいから、出来るだけ離れないようにして欲しい。
『ヒヒン』
話しかけたところで伝わっているのかも分からないが、何度も襲ってきたモンスターを俺1人で処理している内に自分は必要ないと分かったのか、今はウル達と一緒にもう1体のライドホースを支えて歩いている。
『ヒ、ヒン、』
「よし、あともう少しだぞ。ゆっくりでいいからな」
何度も途中で休憩を取りながら、北の街の家へと向かうのだった。
「到着!」「クゥ!」「アウ!」
無事ライドホースを連れて来ることができた。
今はマウンテンモウ達に見つめられながら、池の近くで休んでいる。
「さて、どうしよう」
連れてきたはいいものの、また他のライドホースを探しに行かないといけない。
「でもその前に医者に診せないとな」
ということで、全く知識がない俺はフカさんの家を訪ねることにする。
「すみません。ユーマです」
「はい、ユーマ様どうされました?」
家から出てきたのはセバスさん
「あの、モンスターをお医者さんに診てもらいたいんですけど、どうすればいいですかね?」
「分かりました。まずは私が状態を見てみましょう。モンスターに詳しい者も連れていきますので、その者には一時的な立ち入りの許可をお願いします」
そう言って家の中に入ると、しばらくしてセバスさんが白髪の人を連れて出てきたのだが、そのさらに後ろには
「私も行こう」
「今は急ぎますので何も言いません」
セバスさんはフカさんにそう言って、俺の家へと早足で来てくれた。
「おや、もうライドホースを捕まえたのかい?」
「そうなんですけど、襲われていたところを助けまして、もしかしたら何か病気なのかなと」
「呼吸は浅いですし、明らかに異常状態ではありますが、怪我は無いですね」
セバスさんはそう言って、白髪の人とライドホースの症状について調べている。
「フカさんすみません。ライドホースはまた探しに行くので、あの子の倒れている原因が分かるまでは捕まえに行けそうにないです」
「いや、期限は1週間だし、急いでるわけでもないから大丈夫だよ」
それからライドホースを厩舎の中に連れていき、セバスさん達はその後も一生懸命調べてくれた。
「ユーマ様、原因がわかりました」
「え、どうでしたか?」
「ライドホースのお腹の中に子どもがいます」
セバスさんからそう言われて、納得がいく。
「なのでユーマ様はしばらくあの厩舎には近付かないようにお願いいたします」
「分かりました」
今まであの厩舎を使っていたのはマウンテンモウだけだったが、ライドホース達とも仲良くしてくれることを願う。
厩舎に近づくことを禁止された理由としては、母体にストレスを与えないためだそうだ。
既にセバスさんと白髪の人が居るのに、そこに俺まで入っていったら安心して寝ることもできないのだとか。
セバスさん達がいない時は行っても良いらしいが、出来るだけやめてくれと言われたので、控えることにする。
数日以内には生まれると思います、と言ってセバスさんはまたライドホースのいる厩舎へと戻っていった。
「いやぁ、やっぱりユーマくんはもってるねえ」
「見つけたのはウルですけどね」
俺ではなく、ウルとルリがもってるんだと思う。俺はどちらかと言うといつも巻き込まれている側だ。
「ライドホースはセバス達に任せるといいよ。ユーマくんの家なのに、行ったら駄目な場所があるのはすまないが、あれは仕方のないことだと思って欲しい」
「気にしてませんよ」
厩舎に入れないことは気にならないが、ライドホース達の様子は気になるのであった。
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