第11話
「じゃあ依頼だけ受けるからちょっとだけ待っててくれよ」
「クゥクゥ!」
「出来るだけ急ぐから」
ウルがこんなにも興奮して俺を急かしてくるのには理由があった。
これは10分くらい前のことだ。
「え、ユーマじゃない?」
「おお、オカちゃんか。久しぶりってほどでもないけど、久しぶり」
目の前の女性の名前はタピオカで、よくオカちゃんってみんなには呼ばれていた、最前線攻略組の1人だ。
「ユーマのことみんな気にかけてたよ。でも、その様子だと楽しんでるっぽいね」
「まぁね、今はやってみたかったテイマーで楽しんでるよ」
「まぁ魔獣は流石に戦力的にうちにはいないからね〜。珍しいモンスターをテイムしたら教えてよ」
まぁ攻略組は魔獣は連れてないよな
「でもそんな暇あんのか?」
「あはは、確かにしばらくは無さそう。てか、1回くらい一緒に狩りとか行っとく? 最初のうちじゃないとレベル離れて行けなくなると思うし」
「俺は今4だけど」
「あ、うちは9」
やっぱりレベル差はもうこんなにあったか。
「思ったより離れてるな」
「無理そうだね。ユーマだけなら7くらいだと思ってたけど、魔獣と一緒だとそうもいかないか」
「狩り以外も案外楽しくてな」
「じゃあこれから魔獣も増えるともっと離れちゃいそう。まぁ狩り以外でも遊べることはありそうだし、ってあんまり話してる時間ないんだった。じゃ、またね!」
オカちゃんはそう言って走り去っていったが、途中からウルの機嫌がすこぶる悪い。
「ウル、俺はお前がいたから楽しめてるんだぞ。それに1人だったとしても、いろんなことに挑戦してただろうし、なんなら鍛冶師とか錬金術師とかになってもっとレベル低かったかも」
「グゥ゙ゥ゙」
こりゃ何言ってもダメそうかな。
「まぁ機嫌直せとは言わないけど、1つだけ言っておくぞ。オカちゃんは悪気があって言ったわけじゃないし、ウルを弱いとも言ってない。ただ、事実としてオカちゃんはウルより強いし、そもそも競争相手とも思ってない。オカちゃんは攻略メインだからな。もし俺達も攻略メインにするとしたら、もうケーキも串焼きもしばらく食べられなくなるぞ」
「ク、クゥ」
「だから、レベルが低いのはウルのせいでもないし、そもそも俺が上げようとしてないだけだ。オカちゃんの言い方は悪かったけど、ウルもそんなに気にすんな。あと、ウルはこれから経験を積めばまだまだ強くなるしな。だろっ?」
「クゥ!」
よし、これでウルの機嫌はある程度良くなったし、オカちゃんのフォローも出来ただろう。
といった事があった後、ウルがずっとモンスターを狩りに行きたいと俺にアピールしてくるので、せめて依頼は受けさせてくれと冒険者ギルドに来て、最初の場面に戻る。
納品依頼
内容:イノシシ肉5つの納品
報酬:1500G
期限:5日間
討伐依頼
内容:ポイズンスライム5体の討伐
報酬:1500G
期限:3日間
調査依頼
内容:北の湖の調査
報酬:1000G〜
期限:3日間
「まあとりあえずこれくらいかな」
ウルを待たせるのも良くないので、毒消しポーションを買って、すぐに北側の湖のある森へ向かう。
「依頼の報酬が高くなった分、危険度も増してそうだから、ウルは十分注意するんだぞ」
「クゥ!」
街の近くにはまだパーティーがちらほら見えるが、少しずつ外側に行く人も増えているようだ。
俺とウルは角ウサギを倒した時の獲得した経験値を考えると、そろそろ5レベルになって、今回の依頼で6になったらいいなって感じかな。
「そろそろ森に入るから、注意しろよ」
「クゥ!」
近くの角ウサギとスライムが俺達に気が付いて襲いかかってきたのだが
「クゥ!」
ウルがそれをすぐに倒してしまった。
実力的にはウルの方が強いのは当たり前なのだが、何か違う。
「ウル、なんか強くなってね?」
確実に戦い方が前のものと変わっていた。
「感情が高ぶるほど強くなるとか?」
「クゥ?」
いや、そんな曖昧なものじゃない。もっとこれまでの身体能力に任せたものとは違った強さがあった。
「ウルは何か強くなった理由はわかるか?」
「クゥ!」
俺に飛びついて、いつも通り尻尾を振りながら頭を擦り付けてくる。
「クゥクゥ!」
「ん?……俺?」
「クゥ!」
俺は何もしてない気がするが、やったことと言えば角ウサギ相手に戦ったくらいか。
「え、まさか俺の戦い方見て強くなった?」
「クゥクゥ!」
そんなことあり得るか? 流石に見るだけでそこまでの成長は期待してなかったんだが。
「あ、勤勉と成長のスキルか」
おそらくタマゴ時代に進化して付いたであろう勤勉、成長、氷魔法のうち、前の2つがとても怪しい。
というか間違いなくこいつらがウルの強さの理由な気がする。
「よし、なんとなく分かった。ウルはこのままいっぱい戦ってくれ」
「クゥ!」
今はウルの戦い方を見てやりたいし、ウルのガス抜きもしてやらないといけない。
これはちょうどいい機会だし、適当にモンスターをいっぱい狩る計画から、とことんウルを鍛える方向に切り替えよう。
「お、あれはワイルドボアっぽいな」
名前の通りイノシシのモンスターなのだが、なかなか迫力があって、身体が大きい。
『フガッ、フガッ、プギーッ』
ウルに狙いを定めたのか、ワイルドボアは一直線に突進してくる。
ウルはそれをギリギリのタイミングで横に避けると、そのまま追いかけて後ろから攻撃を仕掛ける。
「クゥ!」
『プギャーーッ』
ワイルドボアは、またウルめがけて突進しようとするのだが、ウルが木の後ろに隠れてなかなか突進できず、結果木の前まで歩いてきた。
そこをウルはワイルドボアの死角から飛び出し、鼻先にクリティカルな爪強化攻撃を一発お見舞いした。
『プギャー、フガッ、フガッ』
「クゥ!」
そこからは一方的で、その場で暴れるワイルドボアにウルは冷静に攻撃を何度も当て続け、暴れる体力もなくなったところを氷魔法でとどめを刺す。
「ウル、お疲れ」
「クゥ」
ウルの戦いはなかなか良かったんじゃないだろうか。
動きに無駄が減って、俺の真似をしてくれたんだと思うと、弟子の成長を見れたようで嬉しい。
「ほんとに戦い方が上手くなったよ。ウルは最初よりもすごく強くなってる」
「クゥクゥ!」
ただ、やっぱりまだ俺から言わせてもらうと、指摘したい部分は山程ある。
一撃が軽い攻撃が多いし、せっかくギリギリで避けるならカウンターはしたいし、暴れてる相手を氷魔法で攻撃してほしかったし、鼻を攻撃した時のワイルドボアの痛がり方を見て弱点だと気づいて欲しかったし、木の裏に隠れて時間が経っちゃうと他のモンスターが来る可能性が高くなるからそれをするなら周りも注意してほしかったし、相手が突進してきた時はそのまま木にぶつけて欲しかったし、と、言い出したら止まらない。
もし今これを全てウルに伝えたらどう思われるだろうか。
絶対嫌われるだろうけど、教えてやりたいし、でも嫌われたくない。
俺には上手い伝え方が思い浮かばなかったが、運良くもう2体のワイルドボアがやってきてくれた。
これだけすごい成長が見られたし、ウルのスキルに期待するか。
「ウル、お前がすごく成長したのは分かったから、次はまた俺が教える番だ。ちゃんと見ていてくれ」
「クッ!」
ぐはっ、このタイミングでこの可愛い返事だと、やりおる。
なんて馬鹿なことを考えながらも、既にこっちに突進してきた後ろの2体に俺は集中していた。
「ウル、5秒だ」
「クゥ?」
先に突進して来た1体を振り向きざまにスキルの片手剣強化を発動し弱点の鼻にカウンター、遅れてきた1体が俺に突進を当てる瞬間、俺は飛び上がって相手が木に激突したのを空中から見下ろす。
「次はこうやってウルにも倒して欲しいな、なんて」
どちらも強い衝撃を受けてその場でうずくまっているため、どんな攻撃でも仕掛けられる状況。
空中にいる間にクリティカルソードのスキルを発動し、降りてきたと同時に最初の1体を倒す。
そして木に衝突した方には更にフィジカルのスキルを発動して、弱点の鼻に渾身の一発をいれると、あっという間に戦闘は終了した。
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