第10話

「なんかウル、強くね?」

「クゥ?」


 絶賛レベル上げ中の俺とウルは、冒険者ギルドで受けたオランジの実10個の納品依頼を達成するついでに、アポルの実の時と同じようなことが起こるか試していた。


 結果は大成功で、今回はスライムが大量発生して、今の今までウルが氷魔法でほぼ全てを倒し尽くしていた。


「流石にあれを見るともはや違うゲームみたいだったし、魔法が使いたくなるな」

「クゥクゥ!」


 それは良い案だとばかりに魔法を勧めてくるウルをおさえながら、ステータスを確認する。


《ユーマのレベルが上がりました》

《ウルのレベルが上がりました》

《ウルのレベルが上がりました》

 

名前:ユーマ

レベル:4

職業:テイマー

所属ギルド :魔獣、冒険者

パーティー:ユーマ、ウル

スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』

装備品:鉄の片手剣、皮の服、皮のズボン、皮の靴


名前:ウル

レベル:4

種族:子狼

パーティー:ユーマ、ウル

スキル:勤勉、成長、インベントリ、『子狼』『氷魔法』

装備品:青の首輪(魔獣)


 俺もウルも4レベルになったのでレベル上げとしては最高だ。


 オランジの実もできる限り回収して、この前のアポルの実のあった場所まで行く。


「来た来た」

「クゥ!」


 最後に実を取った時点からのクールタイムなのか、決まった時間にリポップするのかは分からないが、アポルの実もモンスターも、どちらも出てきた。


「さっきもずっと休憩無しで戦ってたが、今回も行けるか?」

「クゥ!」


 俺のインベントリの中には、ウルが氷魔法で倒したスライムの核とスライムゼリーが大量に入っている。


 そしてまた角ウサギを全滅させる戦いが始まるのだが、レベルが上がったことでもう相手にならなさそうだ。


「危なくなったら俺がカバーするから、魔法もスキルも無しでいけるか?」

「クゥ!」


 氷魔法で足止めしたところを、スキルの爪強化や脚強化を使って倒していたのが、魔法とスキルを禁止されると、全然倒しきれなくて苦戦している。


「いいか、まずは攻撃を受けないことを優先だ。それが出来てから初めて攻撃を考えろ」

「クゥ」


 さっきまで敵を近づかせないようがむしゃらに攻撃していたのが、ピタリと止まって避けることに集中している。


「こいつは倒さないと避けるのが難しくなる、と思った奴を優先して倒せ」

「一対一の状況を何回も作り出すんだ。同時に複数体相手にしないように気を付けろ」


「クゥ!」


 どんどんウルの立ち回りが良くなっている。敏捷に差があるのか、ウルに角ウサギの攻撃は当たる気配がない。


 火力不足こそ感じられるが、スキルを縛っている素の状態でこれは良い方だ。


「よくやったぞ。あとは俺がやるから見て勉強してくれ」

「クゥ……」


 ウルは最初に比べると随分と戦えるようになったが、まだまだ自分の敏捷値に頼っている部分が大きい。

 ウル自身もそれを感じているのか、後ろから俺を見て学ぼうとする視線がビシビシと伝わってくる。


「今回はウルのためにもリーチのない短剣でやるか」


 俺もレベルが上がっているため、余裕を持って倒せるのだが、出来るだけ動作を遅くして、無駄のない動きを意識する。

 これだけ動きが遅くても、ウルよりも余裕を持ってモンスターを倒せると証明するため、俺はしばらく角ウサギを倒し続けるのだった。




「ふぅ〜、どうだ、出来そうか?」

「クゥ!」


 何やら興奮している様子で、俺に飛びついてきた。


「そんなに喜んでくれたなら良かったよ」

「クゥクゥクゥ」


 頭を擦り付けてくるウルを両手で抱きかかえ、アポルの木の根元に座ってしばらくウルを可愛がるのであった。


「じゃあアポルの実もいっぱい取ったし、一旦冒険者ギルドに行くか」

「クゥ」


 そして街に向かっている途中で、先程助けた女性プレイヤーが、仲間らしき同性のプレイヤーと一緒にモンスターを狩っているのが見えた。


「仲間がいるのならナンパはもう大丈夫そうだな」


 少しあの女性プレイヤーが心配な気持ちもあったので、今知ることができて良かった。


「お、丁度あそこら辺に薬草がいっぱい生えてるから、取ってこうか」

「クゥ!」


 街に向かっていた足の方向を変えて、薬草集めに勤しむ。


「ウルって薬草も取れるんだな」

「クゥ!」


 ウルもインベントリを持っているため、俺から少し離れたところで薬草集めをしてくれている。


 俺とウルのインベントリは繋がっていて、ウルは俺のインベントリに干渉できないが、俺はウルのインベントリに干渉できる。

 俺よりも薬草集めが上手いのか、どんどんと回収した薬草が増えていく。


「もう良いかも、ありがとな」

「クッ」

「ぐはっ……か、可愛い」


 またピシッと片手を上げて返事をするウルに、俺は胸を抑えて悶える。


「ハッ、危ない危ない。冒険者ギルドに行こうか」


 ウルだけでもこれなのに、次の魔獣が手に入ったら、俺はどうなってしまうんだと考えながら歩いていた。



 

「依頼の達成が確認できましたので、報酬をお受け取りください」


 オランジの実10個の納品に加えて、ウサギ肉を150、角ウサギの角を50、スライムゼリーを100、スライムの核を40納品した。


 角ウサギの角は前の依頼がなくなっていたので5本で200Gだったが、何度も行き来せず一気に納品出来たので良かった。


「これで2万Gは貯まったな」


 ウサギ肉も50は確保してあるし、スライムゼリーも50、スライムの核10は残して、薬草も売らずにとってある。


 今のところ急いで必要なものはないし、本当にどうしよう。


「さすがにまだ武器は強くないだろうな」


 ガイルに連絡して武器の更新をとも思ったが、まだ武器を買ってから10時間も経ってない。


 あれだけプレイヤーから武器を買いたいと言っておいて、今更NPCの武器を買うのも申し訳ないので、ここは我慢しよう。


「今の武器だと強いモンスターを倒すのは効率が悪いし、魔法でも覚えに行くか?」


 ただ、今魔法を覚えに行くと、ウルを長時間暇にさせてしまう。魔法を覚えるには魔法使い以外は時間がかかるのだ。


「ウルが暇にならなくて、今までやってないことか」


 少し考えたあと、テイマーのプレイヤーと交流することにした。


 他のテイマーがどんな事をしているかも知りたいし、単純にどんな魔獣があのタマゴから出てきたのかも知りたい。


「じゃあ魔獣ギルドに行ってみようか」

「クゥ!」




「こんにちは」

「こんにちは。どうしましたか?」


 魔獣ギルドの中で魔獣と一緒に休憩しているプレイヤーに話しかける。


「ちょっと自分以外のテイマーの人がどんな魔獣を連れているのか知りたくて」

「あぁ、なるほど。ちょうど休憩してただけですし、パーティーメンバーが来るまで時間はありますよ」

「ありがとうございます」


 了承を得たので隣に座る。


「俺の魔獣は子狼のウルです。敏捷値が高くて、魔法も使えますね。攻撃力はあんまり高くないんですけど、これから育っていくとそれも解消される気がしてます」

「へぇ魔法なんて珍しいね。僕の魔獣は子羊のしーちゃん。こっちも攻撃力はないけどある程度の敏捷性はあるかも」


「他の人の魔獣を見てもみんな小さいのはタマゴから生まれたからですかね」

「たぶん? 小さい馬を連れてる人もいたけど、随分大きかったよ。でも馬にしては小さかったかな」


 しーちゃんとウルが目の前で遊び始めたので、それを見ながら魔獣について話を続ける。


「戦ってみたけど、やっぱりプレイヤーで固めるほうが慣れてる人達は強そうでした。でも、事前に言われてたほどテイマーで戦えないとは感じなかったですね」

「それは僕も感じたかな。むしろ慣れてない僕からすると、実力もちょうど同じくらいで楽しいよ」


「期待した魔獣が出なくて不満を持ってる人とか居なかったんですか?」

「それはもう全然いないよ。むしろその逆、良い魔獣を引いた人以外が、転生して冒険者ギルドで初回登録特典スタートって考えてたパーティーが、みんな魔獣を気に入って解散せざるを得なかったとか」


 たぶん魔獣ギルドに来たとき言い合ってたパーティーかな。


「それはすごいですね」

「たぶんある程度プレイヤー好みの魔獣をくれてるんじゃないかな。どうやってるのかは分からないけど」


 そういうことならテイマーは意外と多いのかもしれない。

 

「まぁ、魔獣がこれからどれだけ強くなるかが重要になってきそうかな。噂では10レベルで進化って聞いたけど、ずっと戦い続けてる人は今頃5レベルくらいにはなったんじゃない?」


 まあテイマーだとそれくらいかな。たぶん最前線は8か9、なんなら10いっててもおかしくない。


「あと、タマゴからじゃなくて、テイムするのも重要になりそうですね」

「あぁ、それはそうだね。僕はもうイベントとかでタマゴをまた貰えるのを待ってようかなって思ってたからテイムは選択肢になかったよ」


「テイムした人はいないんですか?」

「角ウサギをテイムした人は聞いたよ。なんか家を持っていれば5体以上テイムしてパーティーメンバーを入れ替えることも出来るらしいし。プレイヤーとは組めないけど、動物好きにはたまらないかもね」


 そんな事を話し合っていると、パーティーの人たちが来たらしく解散した。


「そういえば名前言ってないし、聞いてなかったな」


 お互いの魔獣の名前だけ知っていて、プレイヤー名はどちらも聞き忘れてしまった、テイマーらしさの溢れた時間だった。



 

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