第7話

「ウルは今回頑張ってくれたし、ご褒美をあげたいんだけど、何か欲しいものあるか?」

「クゥクゥクゥ」


 目の前でインベントリにあるものを出すと、ウサギ肉から目が離れない。


「分かった。でも、ウサギ肉以外にも美味しい食べ物はあるはずだから、探しに行くか」

「クゥ!!」




「いらっしゃい」


 街に繰り出した俺たちは、ウルの鼻に導かれて美味しそうな匂いのする串焼きの屋台の前で足が止まった。


「いくつか種類の違うものをお願いします。あとこの子に食べさせたいから、串から外してお皿にもらえるとありがたいです」

「あいよ」


 1000G渡したので少し量が多くなるかと思ったが、ウルの体型も見て選んでくれたのかそれほどではなく、なかなか高級そうな肉が多かった。


「ありがとうございます」「クゥ」


 店主にお礼を言い、近くの座れる場所で食べることにする。


「うぉっ、ほへはうはいは(これは美味いな)!」

「クゥクゥ!」


 1000G出しただけのことはあり、味はとても美味しい。何の肉を食べてるのか分からないが、ウルも満足そうだ。


「やっぱり高かっただけあって美味かったな。流石にいつもは無理だが、たまにはこういうのも食べような」

「クゥ!」


 序盤はお金が色々と必要で、とにかく貯めるか稼ぐための道具に投資しがちだ。

 まさか1000Gも払ってただのご飯に変える人は今この段階で俺たち以外いないだろう。


「ウルは満足か?」

「クゥ!」


 それじゃあ後回しにしてた依頼の報告に行きますか。




「依頼達成の確認ができました。報酬をお受け取りください」


 冒険者ギルドに来て、指名依頼の報告をした。

 こちらから討伐対象のドロップアイテムを見せることなく討伐の確認ができたのは、ゲームだからだろうか。


 受付の人が言うには、今回の指名依頼によって少し受けることのできる依頼が増えたらしい。

 

 おそらく難易度が少し高めで報酬額の高い依頼が増えたんだろうが、まだしばらくは焦らずのんびりやってこうと思う。

 好き勝手自由にやってお金がどうしても必要になったら、その時受注させてもらう感じでいいかな。


「それじゃあ今回はちゃんと依頼を見て、受けてから行くか」


納品依頼

内容:オランジの実10個の納品

報酬:1000G

期限:5日間(必要数集まり次第依頼取り下げ)


配達依頼

内容:街中の3箇所、指定された場所まで荷物を運ぶ(配達物はインベントリに入らない)。

報酬:200G

期限:1日間


 オランジの実の納品依頼はどこかアポルの実と似たような雰囲気を感じるため要注意で、配達依頼は街の中で危険はないが時間のかかる依頼って感じか。


 今思うと魔獣ギルドの依頼をまだ見ていないため、今回は配達依頼を受けてすぐ終わらせてから魔獣ギルドの方へ行こう。


「ウルは今回は手伝うのは難しいかもだけど、ちゃんとついてきてくれよな」

「クゥ」


 配達依頼を受けると冒険者ギルド横へ案内され、そこで配達物が受け取れた。


「にしても、商人ギルドと職人ギルド、魔獣ギルドなのはありがたいな」


 最初に商人ギルドへの配達物を選ぶと、荷車に荷物を積むところから始まった。

 現実だとこれだけで肩と腕、腰なんかも筋肉痛だろうし、これから引っ張っていくことを考えると足も無事では済まないだろう。


「そこに乗ってるのが楽しいならよかったよ」

「クゥッ!」


 荷物の上に乗ってるけど、ウルは軽いし荷物は丈夫そうだから良いかな。


 禁止事項として荷物を開けたり盗んだり落としたりすることがあったけど、ウルも荷物を傷つけたら駄目って分かってるだろう。


「すみませーん」


 商人ギルドの横に受け渡し場所があり、積荷を下ろしてまずは一箇所完了。

 その後も職人ギルド宛の荷物を同じ様に完了し、魔獣ギルドの方が受け渡しまで終わって、荷車を持って帰ったら終了というところまで来た。


「ちょっとだけウルにこの荷車見ててもらっていいか?」

「クゥクゥ!」


 ウルに見張りを頼んでそのまま魔獣ギルドに入る。


「すぐ戻らないといけないし、ちゃちゃっと見て決めよう」


 魔獣ギルドの依頼掲示板の前は冒険者ギルドと比べてガラガラで、俺以外いないと言っても過言ではなかった。


捕獲依頼

内容:カシワドリ5体の捕獲

報酬:3000G

期限:1週間


 ちょっと面白そうな依頼だったため、受けることにする。

 道具をもらい、カシワドリという生物の見た目と居場所だけ聞いて、ウルの待つ荷車に戻った。




「配達依頼の達成を確認しました。報酬をお受け取りください」

「ありがとうございました」

「配達依頼を受注される方が少ないので、また受けていただけると助かります」


 冒険者ギルドの配達窓口に報告して、すぐに捕獲依頼に行こうと思ったのだが、どうやら配達依頼があまり受けられていないそうだ。


「一旦依頼掲示板見てみるか」


配達依頼

内容:職人ギルドまで荷物を運ぶ(配達物はインベントリに入らない)。

報酬:200G

期限:1日間


配達依頼

内容:魔獣ギルドまで荷物を運ぶ(配達物はインベントリに入らない)。

報酬:200G

期限:1日間


配達依頼

内容:商人ギルドまで荷物を運ぶ(配達物はインベントリに入らない)。

報酬:200G

期限:1日間

 

配達依頼

内容:街中の3箇所、指定された場所まで荷物を運ぶ(配達物はインベントリに入らない)。

報酬:200G

期限:1日間


 確かに配達依頼を受注したくなるかと言われると、他の依頼よりも報酬は少ないし、配達先も目新しくない場所だ。

 街中の3箇所へ運ぶ依頼もさっき受けたが、結局はどこかしらのギルドへの配達だろうし。


「ウルはさ、配達依頼どう思う?」

「クゥ?」

「なんか冒険者ギルドのお姉さんが配達依頼やって欲しいって言ってたのは聞いてたと思うけど、ウルが退屈じゃないかなって」


 色んな依頼を受けてみようと思ってるけど、楽しくないのに何度も受けるのは苦痛だし。


 何度も同じ依頼を受けるのはどうしても作業感が出てきてしまって、ゲームで何してるんだろうって気になるんだよな。


 これは集中しなくても倒せるボス周回だったり、デイリークエスト、ウィークリークエストなんかに縛られる感覚に近い。


 まだボス周回の方は楽しさやアクション感があるが、今回の配達なんて時間さえかければ誰でもできる。

 ウルの機嫌次第ではお姉さんには悪いけど、やめようかなとも思っているのだが。


「ウルは配達依頼受ける方が良いと思うか?」

「クゥ!!」

「そうか、じゃあとりあえず一気に受けて何度もここに来る必要の無いようにしよう」


 優しさの神ウル神様が降臨なされたので、受けられる配達依頼を全て受注した。


「ウルはいつも通り荷物の上で周りの警戒よろしくな」

「クッ」


 荷車の上に乗るだけでもウルにとってはなかなか楽しいらしい。


「俺のこの身体は荷物の上げ下げで疲れることは全くないから、NPCの代わりにやるのは全然ありだな」


 配達依頼は全て往復3回で終わる量だったため、合計12回冒険者ギルドと配達先を行ったり来たりした。

 そしてこの依頼を受けて何よりも感じたのが、NPC、いや、このゲームの住人の心だ。


 今までNPCだからと乱暴な言葉遣いや非人道的な行動はしていないが、心の何処かで相手がプレイヤーかそうでないかの線を引いていた。

 

 俺はウルに対しては全くそういった線を引かなかったし、むしろ愛情を持って接したからこそこの短い間でも懐いてくれたと思っている。


 改めて考えるとNPCとプレイヤーを分けて考えることが悪いこととは思わない。

 ただ、心の中で線引きせずに同じ様に接すると、それはそれでさらに面白いプレイができそうだと感じた。


 まだ冒険者ギルドのお姉さんとしかほぼ話していなかったときは、仕事の顔をしたお姉さんにNPCっぽさを感じていた。

 だが、行く場所行く場所で荷物の受け渡しをしていると、配達のお礼や世間話なんかもして、今では普通の人間と話すように接している。

 ゲーム世界ではあるが、ここまで人間の気持ちが表現できるNPCには恐怖すら感じ、AIの進化をこれでもかと感じられた。


「お前が俺の魔獣になってくれてよかったよ」

「クゥ!」


 その後も冒険者ギルドの配達窓口のお姉さんに止められるまで、配達依頼をやり続けた。



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