第6話
「じゃあ指名依頼に行く前に、商人ギルドと魔獣ギルドに寄るから、ウルはもう少し戦うのは待ってくれな」
「クッ」
か、かわい、すぎる!
片手を上げて返事をするウルに癒やされながら、商人ギルドで余りの素材を売る。
今のところ商人ギルドへの登録はしていない。
店を出したり、知らないプレイヤーに対して物を売りたいならするほうが良いらしい。
今後モンスターのドロップアイテムや宝箱からレアなものが出てきて、オークション形式でプレイヤーに売りたいというようなことになったらその時登録しよう。
「さてと、ウルの種族は狼系統だし魔獣用のアクセサリーがあれば嬉しいな」
商人ギルドで売ったあと、すぐに魔獣ギルドに来て魔獣用の装備を探している。
流石に最初来た時より人は減っていて、ゆっくりと中を見れそうだ。
「お、これなんかどうだ?」
「クゥ!」
名前:青の首輪(魔獣)
効果:防御力+15、敏捷+2
ウルも良さそうなので購入するが、これを付けるとさらに犬に見えてしまうな
「よし、似合ってるぞ」
「クゥ!」
俺の武器より高かったが、魔獣装備を作るプレイヤーが出てくるまでは時間がかかるだろうし、良いものを買っておきたかった。
それから俺達は魔獣ギルドを出て指名依頼のレッサーウルフを探しに行くのだった。
「じゃあようやくお前の実力を見せてもらう時が来たな」
「クゥ」
今俺達はレッサーウルフがいる場所の少し手前におり、道中でモンスターに出逢わなかったので、一度この辺りでウルの戦闘を見ようとしているところだ。
「あのスライムと角ウサギはどうだ? いけるか?」
「クゥ!」
元気よく返事をし、ウルが2体のモンスターに向かっていく。
流石に狼なこともあってか素早い移動ですぐに近づき、角ウサギに対して前足の爪で攻撃をする。
「クゥ!」『ギュッ』
おそらく爪強化のスキルでも使っているのだろう。引っ掻き傷のようなエフェクトが見える。
角ウサギも自慢の角で反撃しようと飛びかかったところを、さらにカウンターの爪攻撃で倒した。
「クゥ」
「やるなぁ」
特に最後のカウンターはウルがまだタマゴだった時、俺が300匹くらい角ウサギを狩り続けたやり方にそっくりだった。
親バカなんて言われるかもしれないが、うちのウルは天才かもしれない。
というか自分と似たような動きをされると、本当に親の気持ちになってしまう。
「クゥ!」
まだ戦闘は終わっていない。近くのスライムがウルに気付き、ウルもスライムと向かい合う。
「クッ!」
ぷるぷる……
スキルで高く跳躍し、上から攻撃を仕掛ける。それはスライムに最も有効とされる魔法攻撃だった。
「クゥー!」
ぷるぷ……キンッ
氷魔法がスライムに当たると、スライムは凍って固まってしまった。
スライムは身体のほとんどが水分でできているため、全身が固まって全く動いていない。
「クッ」
パリンッ
凍ったスライムはウルの一撃で割れてしまい倒された。
「よくやったぞー」
「クゥクゥ」
じゃれついてくるのを両手で受け止め、頭よりも高く持ち上げてやる。
「動きも良かったし、攻撃も魔法も全部良かった。これなら一緒に戦えるぞ〜」
「クゥ〜」
これなら安心して一緒に戦える。
「おっと、こんなこと言ってたら向こうから来てくれたな」
『ガゥ』『ガウガウ』……
5体以上は居そうなので、このままここで戦うことにしよう。
「ウルは俺の近くで自由に攻撃してくれ。危ないと思ったら俺の後ろに隠れろよ」
「クゥ!」
ここは森に近いが草原のため、周りに障害物はない。
相手が多く隠れるところがなければ、周りのどこからでも攻撃が来るため不利だが、森の中は森の中で木が邪魔で相手が見えにくいという問題もある。
今回はウルの戦闘能力も高いので、真っ向からの勝負でも大丈夫だと判断した。
ウルがもう少し弱ければ、森に入って障害物の木を使いながら戦うことになっただろう。
「右側を頼む、正面と左は俺がやる」
「クゥ!」
角ウサギとは比べ物にならない圧をレッサーウルフに感じながら、倒す手段を考える。
『ガウッ』『ガゥッ』
左からくるレッサーウルフ2体を、片手剣を大きく振ることで退かせ、正面の1体にこちらから攻撃を仕掛ける。
「おらっ!」『ギャウッ』
まさか攻撃を仕掛けた仲間の2体より自分を先に攻撃されると思ってなかったのか、避ける素振りも見せずに倒れた。
『ガゥ、ガオーーン』
「え、まじで。流石に仲間とかこれ以上増えないよな?」
遠吠えをレッサーウルフの1体がしたことにより、最悪のビジョンが浮かぶ。
流石に角ウサギの時みたいな量は無理だぞ
レッサーウルフは角ウサギの何倍も強く、ウルはもちろんのこと、俺ですら捌き切るのは難しいと思われる。
数レベル上がれば身体能力も少し上がって余裕はできるだろうけど、全方位囲まれたらほぼ詰みだ。
少し戦う場所を誤ったかと後悔し始めたとき、ウルの方からいくつもの氷魔法が見えた。
「クゥ!」
『ガウ』『ガゥ』
跳躍して近づいて来る敵を氷魔法で攻撃し、近づいて来ない敵は全て無視をして、俺達の後ろに相手を回らせない様にしていた。
「クゥクゥ!」
「よし、お前を信じるよ」
こちらは任せとけと言わんばかりの頼もしい鳴き声が、俺の不安を薙ぎ払ってくれた。
どうしてもウルのいる右側をずっと警戒していたので、なかなか敵を倒しにいけなかったのだが、そこは抑えてくれると信じて前に出る。
「さっき2体で襲って倒されなかったからって、今回もまた倒されないとは限らないぞっ!」
『『ギャウ』』
完全にウルのいる右の警戒を解いてからは動きやすくなった。ここは開けた場所だが、ウルが敵を引き付けてくれるおかげで、ウルの場所がある意味障害物のような役割を果たしていた。
ひたすら跳躍して氷魔法で相手を止めているウル、襲いかかってくる敵とウルの氷魔法で動きが鈍くなった敵を倒す俺、ギリギリの戦いながらもお互いの連携が深まっていくことに俺達は楽しさを感じていた。
「ウルも『ガウッ!』そろそろ『ガウッ』倒して『ガゥガゥッ』こい! 魔法を当てたやつだ!」
『『『ギャウッ』』』
「クッ!」
敵も焦ってるのか、同時に攻撃を仕掛けることが少なくなってきて、逆にこっちが同時に複数体倒す場面が増えてきた。
「クゥ!」『ギャ、ギャウ』
よしよし、ウルも順調に倒せてるし大丈夫だな。さっきの遠吠えでレッサーウルフの数は増えたが、そこから更に増える気配は今のところない。
アポルの実と同レベルの依頼だとすると、これ以上は増えないだろう。
というか受付の人に事前準備をしてくださいって言われたのに、正面から戦い過ぎている気がする。
アポルの実の時は不可抗力だが、このレッサーウルフだって数の少ない群れを狙って倒せば良い話だった。
自分のやりたいよう自由にしていたら、危機管理能力まで少し鈍ってしまったようだ。
「クゥ!!」
ただ、最後の1体を倒し終わって満足気なウルを見ると、これで良かったのかもしれないと思わされる。
「よくやったぞ!」
「クゥクゥ!」
これほど満たされた気持ちになるのはウルのおかげなんだろうな。
結局俺はどこまでいっても攻略することを無意識に考えてしまうが、ウルと一緒ならこの世界を存分に楽しめる気がしている。
「ありがとなウル」
「クゥ」
おそらく今の戦いを褒められたと思ってるんだろな。それはもちろんそうだけど、それ以外にもほんとに助けられてるよ。
《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
「ちょっと確認するから待ってくれな」
名前:ユーマ
レベル:3
職業:テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』
装備品:鉄の片手剣、皮の服、皮のズボン、皮の靴
『片手剣術』を押すと
片手剣術:片手剣強化、クリティカルソード、フィジカル
名前:ウル
レベル:2
種族:子狼
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『子狼』『氷魔法』
装備品:青の首輪(魔獣)
今回の戦闘で俺もウルもレベルが上がったので、相当経験値は美味しかった。
あと、片手剣もスキルは使わなかったがなかなか良かった。やはりリーチがある程度長いとやりやすいな。
「よし、帰りますか」
「クゥ」
想定外の苦戦を強いられたが、無事に依頼を達成することができた。
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