教育プログラム
ある日、ジョニーは自室にて、インターホンの音を聞き取った。
「おや、誰だろう」
当然、彼は来客に心当たりなどない。それでも客人を門前払いするというのも考えものだ。とりあえず、ジョニーは玄関へと足を運んだ。彼が扉を開くと、そこには三人の銃を構えた警官がいた。
「動くな!」
「お前を国家反逆罪で逮捕する!」
「手を上げろ!」
妙な話だ。あの内通者には、ジョニーを裏切る理由などない。否、彼の身の安全を案じていたあの内通者に限って、まさか裏切るはずはないだろう。ジョニーは警官に取り囲まれ、手錠を着けられた。警官たちは、困惑する彼をパトカーの後部座席に投げ入れる。そして彼は、目隠しの装着を強いられる。おそらく、目的地に着いた際に、彼にその所在地を知られないためであろう。それからパトカーは、すぐに発進した。突然の事態に、ジョニーはただただ唖然とするばかりだ。そんな彼に対し、警官は話を切り出す。
「防弾ホスティングサービスは確かに優秀だ。少なくとも、それが信用に足るものである限りはな」
どうやらこの男は、ジョニーが防弾ホスティングサービスを利用していたことを知っている様子だ。
「どういうことだ……?」
そう訊ねたジョニーは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。警官の口から、衝撃的な真実が語られる。
「防弾ホスティングサービスを釣り餌に情報屋をやっている輩もいるということだ。匿名性を高める必要のある情報には価値がある。将軍様はそれをお買いになられたんだ」
ダークウェブも、結局は人の管理しているものだ。匿名性を高めたからといって、秘匿性が確約されるわけではない。その事実を知るのが、ジョニーはあまりにも遅すぎたのだ。
「そんな……!」
ジョニーは唇を噛みしめた。彼が信じた安全性も、検閲をかいくぐれるという傲慢も、全ては幻想にすぎなかった。警官の一人が、不穏なことを言う。
「ジョニー・ドロップ……お前には『教育プログラム』を施す」
元よりレジスト国は、独裁国家だ。そんな国で行われる教育プログラムとやらは、おそらく真っ当なものではない。その言葉を耳にした瞬間、ジョニーは青ざめた。
やがてパトカーから降ろされたジョニーは、船に乗せられた。無論、目隠しを着用している彼には、自分の置かれている状況の半分も理解できていない。ガソリンの匂いや、船の揺れ、潮風の匂いなどが、かろうじて海を渡っていることを物語っている。ジョニーが目隠しを外されたのは、それから約一時間後のことであった。
猛暑に見舞われた離島に着いたジョニーは、目隠しを外された。彼が見渡す限り、その場所は高い防壁に囲まれている。そこにいる者たちは穴を掘らされ、それを埋めさせられ、徒労としか思えない作業を繰り返させられている。それを監視しているのは、制服に身を包みながら鞭を手に持った男だ。囚人たちの目に、もはや恐怖など宿っていない。その眼差しが語るものはただ一つ――無力感だ。中には、呪文のようにうわごとを呟き続けている囚人もいる。この施設に身を置けば、まともではいられなくなるのだろう。
さっそく、他の看守がその場に駆け付け、ジョニーの手錠を外した。直後、看守は彼の着ていたタンクトップを剥ぎ取り、それから近くにある柱に目を遣った。その後すぐに、ジョニーは柱に拘束されてしまう。柱の後方で手錠をかけられた両手は、必死の抵抗を見せている。無論、これも無意味だ。往生際の悪い彼の素肌に、看守は砂利を擦り付け始めた。
「お前が最初に学ぶのは、無力感だ! 抵抗が意味を持たないことを知り、将軍様を崇拝するんだ!」
それからのジョニーの生活は酷かった。不衛生な牢屋は天井が低く、そして狭い。立てば中腰になることを強いられ、横たわれば膝を曲げることを強いられる――彼はそんな空間で毎晩眠り、日中にはいたぶられるという生活を送っていった。
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