第45話 後宮
翌日、ベッドで目を覚ましたときには、美咲はすでにいなかった。昨晩の、情熱を激しくぶつけあった結果のあとが、シーツを湿らせていた。
前の世界で俺との接点があったという美咲。俺は覚えていないのだが、今の今にいたるまで、ため込んできた想いがあるのだろう。
◇◇◇◇◇◇
やがて、侍従長が寝室に入ってきた。
「お勤め、ご苦労様です、晴斗さま。女王陛下は次の予定の為にすでにこの王宮をお立ちになりました。晴斗さまとのまたの逢瀬を心待ちに励みます……との伝言です。つきましては、女王陛下からのご命令があった晴斗さまの後宮についてですが……」
美咲が後宮のことを反故にしないでくれたことに安堵、感謝しつつ、そのあとに続く侍従長の言葉を聞き。
◇◇◇◇◇◇
「たたいまー」
俺は、その翌日の夕方、自宅の港南市マンションに戻ってきた。
「澪ー。ナナミー。いるかー?」
みんなをさがしながらダイニングに入って中を見回すと、ソファに座っていたナナミが俺を見て、持っていたカップをポトンと落とした。
「晴……斗……」
「おす。戻ってきたぞ」
「は……」
ナナミはしばらく呆然としていたのだが、やがてふらふらと立ち上がり、俺の胸に飛び込んで、しがみついてきた。
「晴斗、無事だったんだ! サリーは戻ってきたけど、ひどいことされてるんじゃないかって心配で!」
「無事だ無事。丁寧な扱いをうけてる。これでも女王の婚約者だからな」
「もう、会えないんじゃないかって……」
「たしかにその可能性はあって、座敷牢に閉じ込められて、一生種馬暮らしの不安はあったんだが。なんとか、策略をめぐらして戻ってきた」
「晴斗ぉ!」
ナナミが声を上げて泣き始め、澪やサリーや沙夜ちゃんも俺たちの騒動を聞きつけたのか「どうしたの?」と顔を見せて……。三人とも、かけよってきた。
「晴斗さま!」
「晴斗センパイ!」
「お義兄さま!」
四人に囲まれ、俺はもみくちゃにされる。その四人は、まだ事態は解決には程遠いというのに、ハッピーエンドを迎えたような顔。俺は、四人の興奮がひと段落したところで、説明に入った。
「これからここは俺の後宮になる。女王のはからいで、週に一度だけ、自由な外出が認められて……」
「まってください、晴斗さま。ここではなんですので、服を脱いでください」
「え?」
「私たちも脱ぎますので、一緒におフロに入りましょう」
澪の言っていることがわからなかった。戻ってきて、後宮だといったとたんにこの言動。しかし、今の澪にはエロい雰囲気は微塵もなく……。俺たちと四人は澪に言われるがままに、脱衣所で服を脱ぎ捨てて、浴室に入ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
フロに入るなり、澪が俺の手を取って説明してきた。
「もう大丈夫です。ここには発信機、盗聴器等がないことをうちの警備会社に確認させてあります。家中となるとなかなかですが、おフロだけなら確認可能ですので」
「そういう……ことか……」
「はい。晴斗さまにもおそらく盗聴器が仕掛けられていたのだと推測いたしました」
「多分……な。女王の命ではないだろうが、侍従長や十二騎士たちの一存だろうな」
「十二騎士……? 聞いたことがありませんね」
「それなんだが……」
俺は、立っているのもなんだからと、四人とともに広い湯舟につかって、ゆるゆると説明を始めた。
頂点に女王。それを補佐する、十二騎士と呼ばれる『騎士』の身分を持つ最高幹部が十二人。女王はお飾りとまではいわないが、象徴的な意味合いが強く、その女王に正体不明の十二騎士を加えた最高会議が意思決定機関。
つまり、権威は女王が持っているが、権力は女王と十二騎士に分散している。その十二騎士の中には、俺と女王の結婚に反対、もっというと現女王の体制に不満を持つ分子もいるらしい。
「で、俺は女王に、後宮を持つことを認めさせた。あそこに閉じ込められてては何もできないしな。週に一度ここに戻ってきて、食べて寝てゆっくりしてから、また王宮に戻る生活になる」
「いったいどんな方法で認めさせたの、その女王とやらに。なんか、サリーさんから聞いて話だと、女王ってすごく偉そうだって」
「それはええと……。お願いしたら、許してくれた」
「ほんとに?」
俺はナナミの問いにお茶を濁した。そのナナミは、何やら感じたものがあるのか、俺を探るような目で見つめてきた。
「ほんとうに? なんか私たちに内緒で、女王に妥協、しちゃったんじゃない?」
「ナナミさんもそのあたりで。つまり、お義兄さまの側室として、私たち四人は認められたということですね?」
「ホワイトリリー内ではそうなる。ただ、不満というか、俺と女王の結婚自体を認めてない勢力もいるっぽいから、警戒はおこたりなく」
「わかりました」
そこまで話して、ふぅと四人で息をつく。こまごましたところはあとで話すとして……。俺は、久しぶりに会った正面の澪を見つめる。
俺が初めてカラダを重ねた女性。信頼しているし頼りになるし、一緒にいると安心する。今まで王宮で敵に囲まれていたので、感慨もひとしおだ。澪も、俺の意図をくんでくれたらしい。俺が、澪に身体をあずけると、頭を撫でてくれた。
「澪……」
疲労した心を吐き出すように、名前を呼びながら、身心を癒す。澪も、その俺を受け入れてくれて、優しく愛撫してくれた。
「澪、ずるい!」
「晴斗センパイ! アタシとも!」
「ナナミさん。サリーさんも。時間はたっぷりあるので、焦らずに」
澪に包まれている俺に、沙夜ちゃんたちも絡んできた。詳しい話はこのフロ場ですることになるだろうし、フロ場なのでエロいこともすることになるだろう。今夜は長い夜になりそうだ……と思いながら、疲労した心身をいやしてもらおうと、今は澪に身をゆだねる俺なのであった。
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