第29話 監禁 その1


 ゆっくりと意識が浮かび上がり、視界に光が入ってくる。見知らぬ天井。ここは……と、ぼんやりまぶたをひらいたときに、耳に聞いたことのある声が入り込んできて、俺は目を開けてそちらを見た。


「起きた?」


 少女……美女が、俺を見つめていた。その姿が、徐々にはっきりとしてくる。


 裸……だった。なにも……きていない。服も、もちろん下着もなにもかも……。きれいな女性のふくらみと、滑らかな体躯の曲線に刺激され、意識がはっきりしてくる。


「ここは……。俺は……」

「ここは、学園のある港南市の隣、港北市の郊外にある一軒家。周囲には特になにもないから、声を上げても通報される恐れはないわ」


 その女性の言葉で、はっと意識が目覚めた。俺は確か、タワマンの一室でホットミルクを飲んで……。


 そして、その裸の女性が、美由紀だと理解した。そうだ。この美由紀と一緒にリビングで話をしていて……。


 と、俺は、自分がベッドに寝ていることに気づいた。大の字の態勢で四肢を手錠のようなもので固定されている。しかも、俺も美由紀と同じように、服を着ていなくて、真っ裸。信じられない思いで美由紀に目をやると、その美由紀が不敵さを感じさせる笑みを浮かべて答えてきた。


「軽い睡眠導入剤だったんだけど……。どう? 意識ははっきりした?」


 頭を振る。まだぼんやりとして、意識は完全にははっきりしないが、だんだん状況がつかめてくる。窓があって、外は暗くて、時間はいつなのかわからない。部屋の中央にベッドが一つあって、俺はそれにくくりつけられている。


「乱暴な手を使って悪かったわ。でもどうしても、貴方を手に入れたかったの」

「俺を、手に入れる……。これが……か」

「そう。まだわからない? 貴方は私に監禁されたの」


 監禁。


「別に金目的の誘拐だとか、暴行目的じゃなくて、これが私のやり方だってだけ」

「これが、君……お前の……やり方なのか?」

「そう。そして、これから私は貴方を手に入れるわ」


 美由紀が、俺に近づいてきた。近寄りながら、言葉をかけてくる。


「私は、四人がかりで貴方を束縛したりしない」

「澪たちは俺が選んだことだ。束縛されてるわけじゃない。俺を監禁してるのはお前の方だろ?」

「貴方が私のものになってくれれば、監禁する必要なんてなくなるわ」

「乱暴な上に、勝手なことを言うんだな。もしかしてお前、ホワイトリリーとかいうやつ……」

「違うわね。むしろ私は、『あの子』から貴方を守りたいの」


 美由紀は一言のもとに、自分がホワイトリリーであることを否定してきた。そして、逆に俺が想像もしていなかったことを言い放ってきたのだ。


「私は晴斗と同じ世界線から来たの」


 思考が一瞬止まった。え? 今なんて……? その俺の止まった顔を見つめて、美由紀は再び言い放ってきた。


「私は晴斗と同じ、若者が結婚しないで子供を作らない世界線から転移してきたの」

「な……」

「だから、女性が不特定多数の男性に注いでもらうのが当然という価値観には染まってないわ。ホワイトリリーでもない。さて……」


 美由紀が俺の脇にまで達した。


「晴斗。私のモノになってもらうわ」

「俺は、お前のものにはならない!」

「そうはいっても、人間は肉体をもつ生き物だから」

「どういう……意味だ………」

「人間とは弱いものよ。苦痛や欲望、そして快楽には耐えられないようにできているの。晴斗を虐めたくはないんだれど、そうしないと手に入らないなら」


 美由紀が俺に手を伸ばしてきた。感情のよめない顔。じっと俺の見つめる、漆黒の瞳。そして、その手が俺に触れる。これから何をされるのか。乱暴され、暴行され、犯されるのだろうか。


 四肢を拘束されている俺にはどうにもならない。俺は、何かに祈りながら、その目をつむった。

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