第27話 周防美由紀 その2
「昨日、元気なかったよね?」
新居であるタワマン最上階のダイニングルーム。澪が用意してくれた朝食、スクランブルエッグに英国風パン。サニーサラダに温かい紅茶という食事を五人で仲良く食べている最中に、ナナミが声をかけてきた。
「昨日のベッド。なんか気もそぞろというか、他に気を取られているというか、情熱がなかったよね。そういうの、楽しくないし嬉しくないからなんとかしてほしいかなって。何か問題を抱えてるんだったら、話してほしいよね」
澪も、はさんできた。
「わかります。晴斗さま、昨日帰宅してから様子がおかしいとは思っていました。私たちはもう他人の関係ではないので、遠慮する必要はないかと思います」
「あ。アタシもわかる! 晴斗センパイを交えた竿姉妹ってやつ!」
「朝から下ネタはご遠慮ください、サリーさん」
会話を続ける四人に俺は答えないでいたが、食事はそのままわいわいと続き……。と思っていたところに、玄関のチャイムがピンポンとなった。
はーいと、ナナミが席を立ってダイニングから出て行ったのだが、しばらくしても戻ってこない。おかしいと残りの四人で玄関に出向くと、扉の前で固まっているナナミがいて、その前に、周防美由紀その人が立っているのであった。
「おはよう、晴斗。私、このマンションに引っ越してきたので、その挨拶。これは、つまらなくはないものだけど」
そういって、美由紀が俺に包みを差し出してきた。
「引っ越してきたって……」
「隣にね」
「この最上階って、7LDKが二部屋だけじゃなかったっけ?」
「そう。だから私の部屋もここの間取りと同じ7LDK。住んでるのは私一人だけど」
「…………」
俺は言葉もなかった。ここの部屋の価格は一億ではとても効かない。賃貸だとしても、いくらかかるだろう。美由紀は、澪と同じような資産家の娘なのだろうか。わざわざここに越してきたのは、まさかとは思うが俺目的……。
「晴斗目的だから」
美由紀が、俺の心を見透かしたように続けてきた。
「晴斗に近づいて接近してその人となりを知り互いに交わり、最終的にともに手を取り合う仲となる。それが私の目的だから」
「え……?」
時間の止まっていたナナミが、疑問の発声をした。察しのいい沙夜ちゃんたちもあとに続ける。
「お義兄さまの様子が変だったのはそのせいだったんですね……。氷姫と呼ばれている美由紀さん。念頭にはありましたが、想像の斜め上でした」
「クラスで晴斗さまに興味がないご様子だってので……。うかつでした」
「マジ? ありえないっしょ!」
驚きを隠せない四人。美由紀は、ふっと笑って、言い放ってきた。
「真剣で深刻で真摯で真実の話よ。今日私は、貴女たち四人に宣戦布告にきたの。晴斗を私のモノにするわ。ここにそれを宣言する」
美由紀は、両腕を広げて自分をアピールする。俺は黙ってその美由紀が持ってきたあいさつ品を受け取ってから、手短に返した。
「好意は嬉しいんだが、申し訳ないけど答えられない。もう俺には澪たちがいるし、この子たちを悲しませるようなことはしないって決めたんだ」
「にべもないのね。でもそれでこそ奪いがいがあるというところでもあるわ」
「悪いが、もう俺にはかかわらないでくれ。これが最後の返事になる」
「そう。気にしないけど」
そこまで会話して、俺は部屋のドアを閉めた。澪たちが俺に「どういうこと?」と説明を要求してきた。答える義務があると思ったので、俺も端的に美由紀に好意を寄せられていることを説明した。四人に負担をかけたくないから、キスを奪われたことだけは黙っておいたのだが。
そして興奮冷めやらぬうちに時間がきて、四人で学園に向けて家を出た。学園の氷姫とまで呼ばれる、絶世の美女、美由紀。美由紀に誘われて断る男など、学園にはいないだろう。つまり、美由紀からしたら選びたい放題ってやつだ。だからそっけなく対応していれば、いつか俺に飽きてもっといい男に目移りしてくれるだろうと期待していたんだが……。俺の想像は、たぶん、いやものすごく、甘いことだと思い知らされることになった。
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