怖い昔話短編集
MKT
桃太郎
「鬼の声が聞こえる」
小さな村に住む桃太郎は、誰もが知る英雄として称えられていた。鬼ヶ島に渡り、凶悪な鬼たちを退治し、村に平和をもたらしたその功績は語り継がれている。しかし、彼の帰還から数ヶ月が過ぎるころ、村では不穏な噂が囁かれるようになった。
夜な夜な、桃太郎の家から聞こえてくる奇妙な音があるという。重々しい足音に、かすかに響く低い声。誰もが鬼たちは滅びたと信じていたが、村の年寄りたちは「鬼の呪いが彼に取り憑いた」と不安げにささやき合っていた。
ある夜、村人たちはとうとう耐えかねて、桃太郎の家を訪れた。静まり返った家の前で、彼の犬、猿、そして雉たちが不気味なほどじっとこちらを見つめていた。村人たちが声をかけても、動物たちは何も答えず、その瞳には生気が失われていた。
家の中に足を踏み入れた瞬間、重苦しい空気が彼らを襲った。部屋の奥には桃太郎が座っていた。だが、彼の顔にはかつての輝きはなく、深い闇に包まれているように見えた。
「鬼が……」桃太郎が口を開く。その声はかすかで、苦しげだった。「まだ、俺の中にいる……聞こえるんだ……夜になると、鬼たちの声が……」
村人たちは凍りついた。彼の背後の壁には、鮮やかな血の跡がついていた。よく見ると、それは鬼たちの顔の形をしているようにも見えた。かすかに、耳を澄ますと、誰かが囁くような声が聞こえてくる。「返せ……返せ……」
その日以降、桃太郎は村の前から姿を消した。彼を追って山へ向かった者は、二度と戻ってこなかったという。村人たちは、彼が鬼たちの呪いに囚われ、鬼ヶ島で取り憑かれたまま消えたのだと噂している。
ただ、夜になると時折、風に乗ってどこからともなく聞こえるのだ。
「返せ……俺たちの……魂を返せ……」
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