あふぃあめいしょん!‣re/answer

神に捨てられた者編

re:プロローグ

 視界が明滅している。

 僕は死にかけの壊れた人形だ。


 体中に繋がれたチューブ。やせ衰えた手足、明らかに病人と言った風体の30歳。

 現在も集中治療室にぶち込まれている。

 数年前から急速に体調を崩し、病院に入院した結果、出られぬまま今に至る。

 病名はハッキリとしない。医者も分からないというのだ。


 あちこちで看護師や医者の声が聞こえている。

 体に大量の薬品が投与されている。感覚はないがそんな気がする。


 多分僕はもうすぐ死ぬ。思えば悪い人生だった。


 僕はエリート引きこもりだった。

 最初の頃の成績は良い方だった。だが。出来のいい兄妹が僕の心を苛んだ。

 親は事あるごとに僕と比較し、僕がいかに終わっている存在かを高らかに話すのだ。

 地獄だった。誰も僕を見てくれない。

 小学校ではいじめられ、中学でもいじめられ、高校も途中で退学している。

 そのまま、引きこもりニートコースの出来上がりだ。


 家では基本部屋の中で暮らしていた。食事は妹が持ってきてくれる。

 仕方なしといった風で部屋の扉を蹴られ、食事が置かれる。

 親はこんな僕に正しい食事を出す気はなく、ひどいときはカロリーメイトと水だけの時もあった。

 元来、平和主義で気弱だった僕は壁ドンや床ドンを覚えることもなく、座敷牢のような生活をおくっていた。生殺与奪の権が握られている以上、下手なことは出来なかった。

 そういえば、兄からの虐待じみた折檻もあった。

 部屋に入られ、頬を張られる。そしていつも決まっていうのだ。


「お前の人生は無意味だった」と。


 そのまま時間が過ぎていき、いつの間にか26歳になっていた。

 最低限の食事と日光に当たらないため、瘦せたからだと白い手足といった、今思えばこのころから病人風だった。笑えて来るな。

 ある日の午後。強烈な体の痛みを覚え、部屋の床に倒れ込んだ。視界は明滅し、体が動かせない。呼吸はどんどん浅くなり、息が詰まる。

 そこで初めて僕は床ドンを決行した。叩けるだけ床を叩く。

 死にたくなかった。

 しばらくして兄が上がってきた。床に倒れ、苦しそうに息をする僕を見て。

 その時の表情は今となっても忘れない。


 笑っていた。


 兄はそのまま至極冷静に救急車を呼び、僕はそのまま病院へ行くことになった。

 救急車に同席した親は、僕にだけ聞こえる声で、


「やっと厄介払いができるわ」


 と言った。


 多分最初の診断は栄養失調とかだと思ったが、親が何かをしたのか不明だが、医者からは病名不明という謎診断を受け、病室に担ぎ込まれた。


 それから30歳になるまで入院しているが、親も兄妹も見舞いには一度も来なかった。


 病室で考えていることはいつも決まっていて、


 やりなおしたい。いい環境に生まれ変わりたい。でも死にたくない。


 これだけだった。


 どうせ病気が治っても、待っているのは地獄の生活だというのに。

 僕はそれでも情けなく生きたいと願ってしまうのだ。


 そして最期の時は来た。

 あれは冬の月だった。窓から見える街の景色は白く染まっている。


 容体が急変し、体が完全に動かなくなった。

 意識はまだある。でも、肉体の損傷具合がどんどん悪化していく。

 声を出そうと口を開く。だけども声は出なかった。

 ヒューヒューという弱弱しい呼吸音だけがあたりに響く。


 死にたくない。


 しかしいつだって、終わりは唐突に訪れるものだ。

 視界はついに灰色に染まりだし、心臓の鼓動が遅くなっていく。


 ああ、終わりなんだな。そう思った。

 無価値で無意味な人生だった。

 もし、生まれ変われるなら。今度はもう少しマシな人生を送りたい。

 天国があるなら、天国に行きたい。


 こんな僕でもこれくらいのことは思っていいはずだ。


 ついに目の前が真っ暗になった。

 意識が徐々に消え失せていく。これが死ぬってことか。


 そのまま僕の意識は暗転し、人生を終えた。

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