文章の練習

椿生宗大

第1話

 本やら参考書やらチラシやらを床に散りばめた自室の床に友達を寝させ、僕は自分のベットで悠々と長めの仮眠を取ってしまったようだ。時計の一つも掛かっていない部屋に漂う西日の名残りが時間を教えてくれていた。未だにミイラのような格好で頭を硬い床に付けている友人な顔には、2時間以上もフローリングに寝そべって、返って疲れの色が現れたように感じる。僕は洗面台に移動してうがいをした後に彼に「おい。」と声をかけた。すんなりと目を開けた様子からも眠りが浅かっただろうことが察せられた。くっきりした二重瞼がこちらの顔を覗くと、直ちに起きてスマホの画面を確認する。「19時近いじゃないか。」と軽く絶望を帯びた彼の大人しい声が耳に届く。そして既に暗い色に変わっている窓のほうを見て伸びをする彼に「散歩しに行こう。」と僕は例の如く誘った。覚醒した彼は二つ返事で僕の呑気な提案を受け入れた。持ってきたリュックなどは床に放置したままで、僕らは二人スニーカーを履いて秋風で涼しくなった街に出た。

 地方都市だから隣駅までは案外時間がかかるのだが、それでも40分弱で隣のT駅まで着いた。これと言った目的地を設定しないで歩き出すのは僕らの悪癖の一つであった。若い時間を正に浪費してる実感があり、軽やかな足もいつの間にか焦燥感により乳酸が百倍増しで生産されているかのように重くなった。元々日中に熟睡をかましてしまう程には僕らは疲労が溜まっていた。言うまでも無く僕らがlibidoの発散を毎日飽きずに行っているためで、この悪習により普段のパフォーマンスの低下があるのは認められずにはいられなかった。惰眠からの目覚めというのは常に背徳感を伴い不快な目覚めであるのに我々はこれを中毒者の如く繰り返しているのである。T駅までの道のりは微妙な上り坂が多くあり存外足裏が疲れた。横に目をやると彼も少し足に来ているようであった。3kmしか歩いていないと言うのに音を上げてしまう情けない男二人の影はは閑散とした駅のホームの上に移動した。つい3分前に電車は発車してしてまったようで、次の電車まで20分の空きができた。金曜日の夜に外出するというのは夏休み期間で無ければあまり無いことであった。21時過ぎの夜の街というのは僕らの興味の対象であった。其々の持ち金を合わせたところでオトナの遊びに参加することなど出来やしなかったが、仕事終わりのサラリーマンや花街で働く綺麗なお姉さん、ホームレス、酔っ払いなど色々な人が探す手間もなく大通りで観察できる環境が好きだった。僕らはN駅行きの電車に乗り、手前のH駅から街に向かって歩くことを取り決めた。

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