第50話

『─…楓に抱き着いた時に…もう既に失礼なこと言っちゃったし。それについて謝っただけだよ。─…いい人だね、副社長サマ。楓のことを凄く考えてくれてる人で…良かったよ』





──そう、ほんと怖いくらいにね





「……美羽が専務のことを"クソ"って言わなくなるなんて…嬉しいよ、俺」






見たことがないくらい、優しく微笑んだ楓を見て─…私の心臓はひどく傷んだ





ねぇ、楓…私いま嘘ついてるよ?





副社長がいい人─…なんて、思ってない。






──…怖い人、関わりたくない人、会いたくない、絶対に二度と…顔を合わせたくない






そんなふうに、思ってるんだよ?





「好きな人に…自分の尊敬してる人のことを知ってもらえて、凄く嬉しい…美羽ありがとう」






ねぇ笑わないで、楓─…私どんどん嘘つきになるよ。楓が嫌いな嘘をつく人間になってしまう







「─…お風呂、すぐ済ませるから…起きて待っててね…美羽?」






ごめんね、楓…嘘つきでごめん。




私ほんとは大嫌いだよ、楓の尊敬してる上司のこと。凄く憎いって…思ってるよ。





『起きて待ってるね─…かえで、』






だから早く、私のこの嘘を見抜いてよ。
















「──…美羽、香水…変えた?」

『……え?変えてないよ?』

「あー…そっか、ならいいんだ」

『なんで?急にどーしたの?』

「うん、リビングに置いてあった

マフラーが…いつもの美羽の匂いと

少し違う気がしたから─…」




嘘がバレるのは時間の

問題かもしれません。

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