第105話

『っは、はぁぁあぁっ?!何、何の冗談っ?!優香が亡くなったからって勝手にそんなこと言ったらバチが当たるよ、凪砂っ!今すぐ取り消してっ!』





なんとも馬鹿げた凪砂の発言に、早く取り消せと迫ると、




「いや、だから付き合ってなかったんだよ俺たち。それに優香には他に本命の男がちゃんと居た。亡くなった時も・・・一緒にダイビングしてたのはその男だ。」




─…どういうことっ?




もしそれが本当だとしたらっ、何のために付き合ってるなんて嘘をついたの?






「俺は学生の頃からずっとお前が好きだった。でもお前・・・他に好きなやつ居ただろ?だから優香の友達だったお前が休み時間とか放課後、俺たちと一緒に居られるように・・・優香に彼女のフリをしてもらってた」




待って待って・・・凪砂は優香が好きだったんじゃないのっ?!いや、それに優香だって凪砂が好きだったんじゃっ、、




そう思って学生の頃の優香を思い出してみる。でも、優香が私に対して凪砂のことが好きだとか、惚気話をしてくることは一切無かった・・・ように思える。




それより、優香は昔から担任の先生を推しているとか言って、その話ばかりをベラベラしていた記憶しかない。




─…え、いや…まさか、、




「優香、担任だった奴とデキてて・・・たまたまそれを知ってしまった俺は、黙ってて欲しいと頼み込む優香に、黙っててやる代わりに恋人のフリをしてくれって…頼んだんだよ。」





驚愕の事実に、言葉を失う。




優香はどうして…何も言ってくれなかったの?




「優香としても、担任のことがバレねぇカモフラになるし・・・ってことであっさり承諾してくれた割に・・・アイツは俺に、早く萩花に告白しろってしつこく言ってきたけど、、お前に好きなやつが居るって知ってたから・・・俺はずっとお前に本当のことを言えなかった。」




あの、、さっきから凪砂が言ってる"好きなやつ"って一体誰のことを言っているのだろう。





私はその頃からずっと凪砂一筋だったけど。




「─…バスケ部の"中嶋"のこと、お前ずっと好きだっただろ?卒業してからもお前、中嶋と同じ専門学校通ってたし。その話聞くのが嫌で、俺は遠い広島に進路決めたんだよ。」






ちょっと・・・これは・・・とんでもなくすれ違って生きてきたのか?私たちっ!!



いやいやいやいや、そもそも中嶋って誰っ?!





私、凪砂以外の男子はアウトオブ眼中だったから、ほとんど記憶に無いんだけど!!






「─…で?今だから聞くけど・・・お前中嶋とはどうなったんだよ。優香が死んでから俺に会いに来るようになったけど・・・それまではアイツと付き合ったりしてたんじゃねぇの?」





──…優香、全部知ってたんだね




優香はどうして私に教えてくれなかったの?私が凪砂を好きだって知ってたんじゃないの?




もしかしたら─…先生との禁じられた恋をしていた優香は、私と凪砂が結ばれることに対して嫉妬とか…妬みのような感情があったのだろうか?




それとも本当は私に、全部打ち明けたかったけど…凪砂と付き合っているという立場を自分の恋愛のために上手く利用したくて…罪悪感を抱きながら、私と一緒に居てくれたのだろうか?




─…何もかも…全てすっきり、ハッピーエンドとはいかないらしい。



居なくなってしまった今では、もう知ることは出来ないけど・・・こうして巡り巡って凪砂と向き合うことが出来たのは、優香のおかげのような気がする。




そうなると、とんでもない勘違いをしている凪砂が、少し可笑しくなってきて、思わず笑ってしまった。





「お前、何笑ってんだよ。俺は真剣にっ・・・


『─…ねぇ、中嶋って誰?』





率直に思ったことを凪砂にぶつける。




『中嶋って誰っ!?私そんな人好きだった覚え一度も無いんだけどっ!ってか専門一緒だとか知らないよっ?!美容師免許とは別で私が専攻してたのエステ科だったから、私のクラス女子しか居なかったし!そんな人知らないんだけど!』




美容学校で選べる専攻コースで、エステ科を選択していた私は普段のクラスもずっと女子だけで、女子校のように過ごした日々が懐かしい。



だからほとんど男子と関わることは無かった。



「は?お前、高校の時"中嶋"がカッコよすぎてヤバいって騒いでただろうが。今更そんな嘘、通用しねぇ」



いやいや、飛んだ嘘つき男に言われたくないけど!!っと思いながら、当時の記憶を頭の中で探り回して、一つ思い出したことがあった。



『っえ、もしかして"中嶋"って・・・あの、中嶋くんのことっ?!え・・・そうだとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいっ//』




おそらく・・・いや、絶対に"あの"中嶋くんのことだと分かってしまった私は、恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってくる。

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