第46話

優香と話し終わって、来た道を戻る。





万が一に備えてかなり早朝に来たとはいえ、8月の灼熱の日差しは妊婦の私にとってなかなか辛いものだった。






ーー・・・この先の石の階段を降りれば、少し影のある道まで出られる。







っと、少し油断した時だった。







グラッと視界が揺れて、一瞬めまいがした。






ーー・・・倒れるっ







ヤバいっと思い咄嗟にお腹に手を回したことで、手に持っていた荷物が音を立てて座面に落ちる。





ギュッと目を瞑り、お腹に回した手に力を込めた。






「──あっぶねぇ!」






力強く肩を掴まれて、後ろから誰かが支えてくれた。そのおかげで私は何とか体勢を崩さずに、しっかり立つことが出来た。






徐々に鮮明になる視界に、一時的な立ちくらみだと安心してホッと息をついた。








「あの、大丈夫ですかっ?!」






ふと後ろから聞こえたきた声が、よく知る声だったことに気がついてサァーっと全身の血の気が引いていく。







「あのっ・・・良かったら下まで荷物持ちま・・・す、、って・・・っは?っえ・・・おまっ!」






親切で荷物を持とうと私の前に回り込んできた彼は、私の顔を見て分かりやすくテンパる。






『っあ・・・ありがとう、"洋平"』





気まづくて苦笑いを浮かべながら、感謝の言葉を述べた私に、洋平は一瞬目を見開いたものの、すぐにいつものようにふざけた調子の洋平スマイルを私に向ける。







「っよ、萩花!つかお前、朝早すぎんだろっ!こんな時間に墓参りとかして、幽霊に遭遇しても知らねぇぞ」






なんてふざけながら、さりげなく私の持っている荷物を奪い取る。






「俺、腹減ってんの!今の時間なら、まだモーニングやってんだろ?ちょっと付き合えよ!」





そう言って、荷物を持っていない空いている方の手で私の腕を掴むと、先の石段を降りようと足を進める洋平。







『っえ・・・洋平、優香のお墓参り来たんじゃないのっ?!今来たところじゃないっ?もう帰っちゃうのっ?』






来たばかりの洋平が帰る素振りを見せることに違和感を覚えてをかけると、







「俺は明日も凪砂たちと来るからいーんだよっ!ほら、お前言ってただろ?前日に墓参りしてから京都に出張行くって・・・だから朝からここで張ってたら、お前に会えるかと思って来てやったんだよ」





そういえば、洋平から電話が来た時に話したような気がした。






ってことはまさか、凪砂も一緒だったり!?






「……俺一人だから、余計な心配するな」






エ、エスパーですか?





私の気持ちを読みよった洋平は、後ろに見えている墓石の方に向かって手を上げると、、







「優香〜・・・また明日来るわっ!じゃあなっ」







なんて、大声で叫ぶと再び私の腕を取り「行くぞ」っと言って足を進めた。

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