第16話
それでも表情一つ変えない凪砂は、黙って私の次の行動を待っている。
この異常な私の行動に、近くにいたスタッフや周りで傍観していたお客さんがザワザワと騒ぎ始める。
「っお、お客さま・・・大丈夫ですかっ!?いま、おしぼりをっ、、」
「ー・・・いえ、結構ですので下がってもらえますか」
慌てて声をかけてきたスタッフの顔を見ることもなく、凪砂はあっさり追い払うと、手元にあったナフキンでそっと自分の頬を拭った。
ーー・・・本当は平手打ちしてやりたかった
【⠀俺と別れてくれ⠀】発言から、今までの流れ全てが腑に落ちていなかった挙句、【 似合うと思ったから⠀】っと言われて、もう黙っていられなかった。
気性の荒いところが嫌だと言われたばかりだけど、どうせ何を言っても別れることになるなら別にいいやと思った。
平手打ちしなかったのは、大事な凪砂の顔に傷をつくりたくなかったから。ケーキをクッション代わりに着けてあげたことを、むしろ感謝して欲しいくらいだ。
『ここのケーキの味、どうだった?凪砂には少し甘かったんじゃない?』
私は何も無かったかのように、凪砂にそう問いかけて、目の前の不格好になったケーキにフォークを突き刺して口に運ぶ。
周りの傍観者たちの目には、完全にサイコパスな女に映っているだろうと思った。
ーー・・・手を出した方が負け
これは私の中の人間関係の最低限のルールみたいなもの。何があっても暴力だけはいけない事だと思って生きてきた。だから今、私がしてしまったことは、人間として間違っている。
こうなった以上認めるしかない。別れたいと言っている凪砂に従うしかない。私は凪砂に手をあげてしまったのだから。
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