第56話
第九ゲームの屋外ステージを仮初めの太陽が照らす。十六番と書かれた赤いハチマキを右腕に巻き付け、結月はテントの張ってある待機スペースへ移動した。そして改めて自分の格好を見やる。
小学校の体育授業で使用されているような体操服に、いつものローファーではなく動きやすそうなスニーカー。あらかじめ衣装が設定されているゲームをプレイするのは結月にとって初めての経験だ。
「失礼ですけど、結月さんって本当に体操服似合いませんね……」
と、同じく赤いハチマキを腕に結びながら紗蘭が結月に声をかける。
「まぁ、自覚はあるよ」
多少改善されたとはいえ、陽の光を嫌って夜間に出歩くことの多い結月の肌は白いを通り越してもはや青白い。はっきり言って幽霊のようですらある。
「それに比べて……」
「莉乃は現役小学生って言われても違和感ないくらい似合ってるね」
「そ、そうですか……?」
話を振られた莉乃は恥ずかしそうに用意されていた椅子に腰を下ろした。実年齢は十四歳らしいが小柄かつ華奢な莉乃は完璧に体操服を着こなしている。
『大変お待たせいたしました。これより【殺人運動会】を開催いたします』
進行役と思われるNPCがゲームの開始を告げた。今回は紅組と白組に分かれて複数の競技の勝敗で点数を競う。ルールは競技開始前に伝えられ、出場するプレイヤーは抽選で決められるようだ。ハチマキにそれぞれ番号が割り振られているのはそのためだろう。
第一種目は定番とも言える百メートル走。NPCの横に設置されているモニターにそれぞれ四名ずつの番号が映し出される。結月の隣で紗蘭が息を呑んだ。
「紅の二十五番。私、ですね。行ってきます」
「うん。頑張って」
「き、気を付けて下さい……」
校庭を模したフィールドに四名の選手が二列になって並ぶ。どうやら紗蘭は二列目のようだ。様子見ができるという観点から言えば一列目の選手よりも有利だろう。
「紗蘭さん、大丈夫でしょうか……?」
「紗蘭はもうベテランだから、そこまで心配しなくてもいいと思うよ。それより競技に集中して。特に足元とか、罠が仕掛けてありそうなところを重点的に見てね」
スタートの合図と共に競技が始まった。四名が一斉に走りだし、一歩出遅れたプレイヤーの走る少し先の地面が隆起する。
(あれは……?)
食い入るように競技を見つめる結月の前で、そのプレイヤーは出現した壁を飛び越えられず派手に転倒した。同時に壁が爆発し、プレイヤーの身体を吹き飛ばす。
「ひっ……」
莉乃が隣で悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
そんな莉乃を気遣いながらも、結月の頭は冷静に状況を分析する。恐らくあの壁に足が引っ掛かると中に仕込まれた爆弾が衝撃で爆発する仕組みなのだ。吹き飛ばされたプレイヤーの身体は爪先から徐々に崩壊していく。今回はフィールドの都合上、失格となった時点で身体も消失するらしい。
壁はさほど高くなく、あると分かっていれば飛び越えることは誰でも可能だ。だが突然現れ、いつ来るかも分からない壁を飛ぶとなれば話は全くの別物。
「これ、思ったより難しいね」
紗蘭がスタート位置に進む様子を眺める結月の手にじっとりとした汗が滲んだ。
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