人形令嬢と無口令息の愉快なお喋り
ツユクサ
前編
『』……ユーグル語
()……心の声
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人形令嬢と呼ばれる少女がいた。名を、シャルロッテという。
赤褐色の髪はふわふわと柔らかく、丸く大きな目はエメラルドの如く輝いた。小柄で華奢な身体は、否応がなしに見る人の庇護欲を掻き立てる。イーファ王国一番の愛らしさと言っても、過言ではない。
しかし、誰を相手にしても無表情で、誰が何を言っても黙ったまま。いつもぼんやりとどこか遠くを見ていて、成績は下から数えた方が早い。
それ故に、周りの人間は《可愛いだけで頭は空っぽ》と嘲りを込め、彼女を人形令嬢と呼んだ。
「ほら見て、人形が歩いてるわ」「誰も笑った顔を見た事がないんだそうだ」「可愛くても、馬鹿な女はお断りだ」「人形が跡継ぎで、侯爵家は大丈夫なのかしら」「妹の方がよっぽどしっかりしてるじゃないか」
シャルロッテにわざと聞こえるように話す、周囲の嘲り。そこには、彼女の愛らしさに対する嫉みもこもっている。いくら人形のようだと言われても、彼女は人間。心無い言葉に傷つくことも……
(今日も五月蝿いわね。ピーチクパーチク、鳥のよう。少しは黙ればいいのに)
全くなかった。
(鳥の羽のように中身のない軽い内容。もっとマシな話をすればいいのに、暇なの? 羨ましいわ)
彼女は、口が悪かった。生まれつきである。本来のシャルロッテは、なんでもはっきり言うタイプ、むしろ言い過ぎて相手を泣かすタイプである。
そんな彼女が何故、物言わぬ人形令嬢となったのか。その理由は、彼女の不幸な生い立ちにあった。
シャルロッテは、名家ハルト侯爵家の長女として産まれた。彼女の母は産後の肥えだちが悪く、シャルロッテ生後半年でこの世を去った。
1歳のとき、父が再婚した。やって来た義母はすでに身ごもっており、数ヶ月後には、異母妹・エミリーを産んだ。
それから暫くは平和だった。義母はシャルロッテを嫌っていたが、あからさまに態度に出すことはない。父の前では、優しい母親を演じていた。シャルロッテには、バレバレだった。
変わったのは、6歳の頃。父が急逝した。流行病に倒れたのだ。
当主が無くなったとき、家督は長子が、ハルト侯爵家の場合は長女シャルロッテが継ぐことになる。しかし、彼女は幼かった為、代理として義母が代理として家督を継いだ。侯爵家は、義母と妹を中心に回るようになった。シャルロッテは徹底的に虐げられた。
食事を抜かれるのは当たり前。雇っていた家庭教師は辞めさせられ、持っていたドレスや宝飾品は、全てエミリーのものとなった。残されたのは、親の形見の小さな水晶のネックレスだけだった。
きっと、シャルロッテがイーファの末王子の婚約者でなかったら、屋敷から追い出されていたかもしれない。それも、義母とエミリーが積極的にシャルロッテの悪評をばらまいているせいで、危うくなっている。シャルロッテは婚約者に相応しくないという声が増えていた。
王子も、シャルロッテを見下しているのは明らかだった。
最初は、シャルロッテも反論しようとした。抵抗をみせた。しかし、その度に義母は激しく彼女を鞭で打ち据えた。エミリーは泣き喚き、婚約者も怒ってどこかに行って終わり。そのうち、シャルロッテは義母達との会話を諦めた。
(会話が出来ない人間に関わるのは、時間の無駄だものね)
諦めたのではなく、見限った。見た目の愛らしさの割に、シャルロッテは強靭な精神力の持ち主だった。どれだけ虐げられようとも、我の強さと気の強さは変わらない。
(さて、裏庭に行こう)
シャルロッテは抱えた書類を持ち直す。
現在12歳のシャルロッテは、他の令息令嬢と同じく、貴族学校に通っている。12歳から16歳までの4年制の学校である。
東校舎の裏庭は建物の影に隠れ薄暗く、小さな池しかない寂しい場所だ。あまり人がいない、穴場だった。考え事や課題をやりたいときは、彼女はここに来た。教室は声がうるさく集中出来ない。図書室は静かだが、周りの視線が鬱陶しい。
シャルロッテもいつものように、東校舎の裏に来た。しかし、すぐに足を止める。小さな池の傍で、しゃがみこんでいる影に気づいたからだ。
(あの後ろ姿……無口令息かしら?)
黒髪に、シャルロッテと変わらない背丈。
無口令息ことクランボ伯爵子息。名前を、ローベルと言う。
あだ名の通り、ローベルも寡黙で、大人しい子どもだった。しかし、彼はいつもにこにこして、人好きする笑みを浮かべている。そのためか、シャルロッテとは違い、彼の周りにはいつも人がいた。
そんな彼が、こんなところで何をしているのか。引き返そうと思うも、好奇心に負け、シャルロッテは忍び足で近づいた。気づく様子はない。
ローベルは絵を描いていた。意外だった。絵画を愛でる貴族は多いが、描く貴族はそう多くない。隠居して暇を持て余した者が、手慰みにに描くくらいである。
モデルは猫らしい。いつの間にか学校の庭に住み着いた白猫だ。彼の目の前で大人しく、毛繕いをしている。
『猫は柔らかいなあ』
シャルロッテに向けたものでは無い、独り言だった。
(今のって、ユーグル語?)
彼の言葉は、隣国のユグルス王国で使われる、ユーグル語だ。彼は生粋のイーファ貴族ではなく、ユグルス王国の生まれと噂があった。独り言を、他国の言語で呟く人間はいなかろう。噂は本当だったようだ。
『持てないくらい柔らかいもんなあ』
持てないは言い過ぎだ。シャルロッテは心の内で思う。
彼女はユーグル語を知っている。ユグルス王国の魔術書を読む為に、独学で覚えたのだ。読み書きだけでなく、発音も学んでいたのが、こんなことで役立つとは思わなかった。
彼は、独り言が多いタイプのようだ。ふと、彼は手を止め、とても真剣な声音で呟いた。
『……もしかして、猫は液体なんじゃないかな』
「そんなわけないでしょ」
思わず、シャルロッテは反論する。あっ! と思ったときにはもう遅く、後ろを振り向いた彼の海色の瞳がシャルロッテを捉えた。
◇ ◇ ◇ ◇
『どんなに頑張っても、持てないんだよ。ちゃんと胴体をつかもうとするんだけど、なんかぬるっと行っちゃうんだよね』
2人は池のほとりで並んで、座っている。シャルロッテは本を下敷きにして、課題の紙に答えを書き込んでいく。ローベルはひたすら猫を描いていた。白猫は傍にいない。シャルロッテが現れたとき、驚いて逃げてしまったのだ。
『どんな狭い隙間も入っちゃうし、この前ルルは……、あ、ルルって僕がつけた名前なんだけど、道具小屋の後ろに入っていたんだよね。追いかけたんだけど、狭くて入れなくてさ。もっと柔らかければ入れたかな、猫みたく柔らかくなれる魔法があったら面白くない?』
いや、ひたすら話していた。
ローベルはお喋りだった。なんてことはない。彼が無口だったのは、ユーグル語が分かる人間が周りにいなかったからだ。
授業では、│イーファ
今、シャルロッテとローベルはユーグル語で話している。
『あまり言語学が得意じゃないんだ。イーファ語はすらすら話せないから、聞き役に徹していただけなんだよね』
『授業は大丈夫なの?』
『授業は教科書があるから。前の日に、辞書を引きながら教科書を読んでおけば、なんとかなるよ。人と話すときは、大体笑って頷いていればいいから楽だ』
『意外と言うわね』
『ところで、今日の課題そんなにあった?』
ローベルは、シャルロッテの手もとを指差した。
これは、シャルロッテの課題ではなく、エミリーのものだ。
何故かあの愚妹、自分で課題をしようとしない。まだ学校に通っていないエミリーは、家庭教師から出された課題を押しつけてくる。授業もあまり真面目に受けてないようだ。なんの為に家庭教師をつけているのか分からない。こんな調子で、来年学校でやっていけるのだろうか。
妹の考えは理解出来ないが、それはシャルロッテが考えることではない。断る方が面倒だからと、大人しく受け取っている。
『なんで自分でやらないの?』
『さあ? 馬鹿のままでいたいなら、その通りにすればいいわ』
『でも、これは違うね。領地管理人からの報告書?』
ローベルが、シャルロッテの傍らに置かれた書類の束に気づいた。
シャルロッテは、目を見張る。報告書には、簡単な魔法をかけていた。一見、計算の課題に見えるよう偽装していたのだ。
『よく分かったわね』
『うん。認識阻害魔法は君がかけたの? 難しいよね』
『正確には、そういう魔法道具を作ったのよ』
シャルロッテが制服の胸ポケットから、万年筆を取りだした。何の変哲もない、ただの万年筆である。
『この万年筆で字を書くと、自動的に認識阻害魔法がかかるようになってるわ。試作のチェックついでに、これで書かせたのよ』
『へえ! すごい!』
ローベルが身を乗り出した。素直な賞賛に、シャルロッテは少しむず痒くなる。
昔から、彼女は魔法道具の開発が趣味だった。開発した魔法道具は、馴染みの商会で商品化し販売もしている。義母が代理になってから傾いた侯爵家の財政を、シャルロッテは支えていた。
シャルロッテは平静を装って、髪を払う。照れ隠しに髪を触るのは、シャルロッテの癖だった。
『でも、ひと目でバレてしまっては意味が無いわ。改良しないと』
『見慣れているからね。ユグルスだと、基本的な認識阻害魔法の術式を少し変えて、特定の血統と魔力を持つ者にしか見えないようにしてて……』
『術式変更ね、なるほど』
気づけば、シャルロッテはローベルとの話に夢中になっていた。父が亡くなってから、誰かと対等に話し合うことはなかった。それは、久しぶりに訪れた、安息の時間だった。
それから、シャルロッテとローベルはよく話すようになった。
東校舎の裏がふたりの居場所だ。シャルロッテは課題をこなし、ローベルは絵を描いた。たまに、ローベルが教科書を翻訳するのを手伝うこともあった。
それぞれの作業をしながら、他愛ない話をした。そのうちに、互いの出自についての話になった。
ローベルは、本当はクランボ伯爵の子ではない。噂通り、ユグルス王国貴族の子息だったのだ。
『母上が、
彼は、あっけらかんとしていた。
ローベル曰く、彼は第二夫人の子で、異母兄が第一夫人の子だった。ローベルの母は、彼を跡取りにするため異母兄を毒殺しようとして、失敗したのだそうだ。
『母上は修道院に入れられて、僕はとりあえずイーファ王国へ留学になった。クランボ伯爵は、僕のおじい様の遠縁? なんだって』
留学とは聞こえはいいが、結局は国外追放だ。シャルロッテに負けず劣らずの不運である。だが、それをローベルが気にした様子もない。
『僕、跡取りに興味無かったんだ。そもそも、向いてないと思うし』
『でしょうね。お母様も余計なことをしてくれたわね』
『同じようなことを僕も言ったよ。母上が
《お前の為を思ってやったのよ》
って言うから、
《僕の為ではなくて、母上の為ですよね。第一夫人様に負けたと思いたくないからでしょう。すぐ他人のせいにするところ、直した方がいいですよ。仕方ないんだから諦めてくださいよ。僕が当主になったからって、母上の価値が上がるわけじゃないんだから》
って言ったら、発狂したんだよね……』
『修道院行きになったの、あなたのせいじゃない?』
彼も、はっきり言うタイプだった。どんどん人の痛いところをつついてくる。思ったことをすぐ口にしないと、気がすまないらしい。
『本当はね、僕が兄なんだよ』
『え?』
『本当は、異母兄より僕の方が3ヶ月早く産まれたんだ』
『うん』
『でも、その頃まだ母上は父上と結婚してなかったんだよ。2人目の妻を迎えられるのは、1人目の妻が妊娠した後か、結婚して1年以上過ぎてから。そのどちらでもなかったから、母上が結婚するまで、隠されてたんだって。本当は僕が長男なのに次男になったから、母上は許せなかったんだろうね。僕は気にしてないんだけど』
『そこは気にしなさいよ』
想像よりも悲惨な生い立ちだ。シャルロッテに負けず劣らずといったが、もしかしたらシャルロットよりも不運かもしれない。
一応、シャルロッテは将来はきちんと定まっている。王子と結婚し、侯爵家を継ぐという未来だ。
対して、ローベルの将来は全く先が見えない状態だった。国に戻れるかも分からない。それでも、彼はいつも朗らかだ。何故こんなにも、明るく悲惨な過去を語れるのか、シャルロッテは不思議だった。
『ユグルスは生まれ順より、魔法の才能を重視するからね。魔力量は僕の方が多いけど、扱い方は異母兄の方が上手いから。きっとどの道、彼が選ばれたと思う』
『そうだとしても、やっぱり納得出来ないんじゃないの。そもそも、正妻の子どもが産まれるまで、自分の子どもを隠さなきゃいけないって酷い話よ』
『だよね。父上にも責任はあるよなって思う』
『そうね』
『ってことを、父上にも言ったんだよね、母上がここまで拗らせたのは父上のせいですよって』
『だから、留学させられたんじゃないの……? なんで言うのよ』
『どうしても言っちゃうんだ。言わない方が良いなって思うけど、言わずにいられない』
からからとローベルは笑った。彼はよく笑う。シャルロッテといるときも、教室で他の人と話しているときも、彼はいつも笑っている。あまり貴族らしくない。貴族は微笑むことはあっても、笑うことはない。感情を悟られないようにする為だ。勿論、シャルロッテのように無表情過ぎるのも問題だが。
なにがそれほど楽しいのか、シャルロッテにはいまいち分からない。けれど、彼と話しているときが、楽しいと思える唯一の時間であった。
『むしろ、君はなんでいつも黙ってるの? お人形さんって言われてるの気づいてるでしょ』
時々、グサリと突き刺すようなことも言われるけれど。
シャルロッテは手を止め、空を仰ぐ。秋の空は高く、清々しい。
『馬鹿と話すのは時間の無駄だからよ』
『相手が馬鹿なら尚更言った方が良いんじゃない? 言わなきゃ分かんない人を馬鹿っていうんだから』
ローベルの台詞に、シャルロッテは口元に手を当てて、思案する。
『その発想はなかったわ。確かにそうよね』
『でしょ?』
『でも、やっぱり時間の無駄だわ。言葉が通じても話が通じない人間もいるから』
『僕は?』
『言葉も話も通じるけど常識の通じない人間』
『なるほどー』
怒るでもなく、ローベルは笑う。けれど、彼はふと笑うのを止めて、小さな池の底を見て言った。
『言葉が通じなくても、話が通じなくても、常識が通じなくてもさ、やっぱり言いたいことは言いなよ。そうじゃないと、誰も君のこと分かってくれない。蔑ろにされたままだよ』
初めて聞くその声の真剣さに、シャルロッテは戸惑いながら、曖昧に頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
時は過ぎ、シャルロッテ達は2年生になった。
とうとうエミリーも、学校に入学した。彼女は相変わらず、せっせとシャルロッテの悪評をばら撒いている。
婚約者はシャルロッテを放置し、エミリーと常に共に過ごす。学校にシャルロッテの居場所は無かった。ただひとつ、東校舎の裏の池だけが、彼女の居場所だった。
ローベルは、シャルロッテより少し背が高くなった。イーファ語がだいぶ上手くなり、今ではイーファ語でも流暢にお喋りできる。
それでも、ふたりきりのときは、ユーグル語で話した。ふたりだけの秘密の会話を楽しんでいた。
それからさらに1年。3年生の冬、冬季休暇の前日。その日のローベルはいつもと少し様子が違った。いつもより神妙な顔をして、白猫ルルの背を撫でていた。
『ユグルス王国に戻されることになった』
『そう……』
シャルロッテはなんと答えればいいか分からず、曖昧に頷いた。こんな日が来ると思っていた。けど、実際にその日が来ると何も言えなくなる。
『まあ、ずっとイーファにいることはないと思っていたよ。本家に、僕と異母兄以外に男児はいない。異母妹は他国に嫁ぐことが決まってる。僕を絶対手放せないよ、父上も国もね』
ローベルがただの貴族ではないと、シャルロッテは気づいていた。
慣れていない他国の言語で授業を受けているのにも関わらず、彼はいつも上位の成績だった。きっと、幼い頃から高度な教育を与えられてきたのだろう。
異母兄の他に男兄弟がいないなら尚のこと、彼は国に戻される。異母兄に大事があったときの為の、
その時が来たのだ。
『母上の実家でいろいろあったみたいでねー。まだよく聞いてないけど、とりあえず行ってくる』
『軽いわね……。まあ、あなたなら大丈夫でしょ』
シャルロッテの中には、ローベルならなんとかなるだろうという、謎の信頼が芽生えていた。
シャルロッテとは違い、彼は人の懐に入るのが上手く、飄々として掴みどころがない。ちょっとやそっとじゃ動じない、図太さもある。彼なら国に戻っても、のらりくらりとやっていくだろう。
『これからは、ユグルス王国の学校に通うんでしょう。むしろ羨ましいわ』
魔法大国ユグルス王国は、一定の魔力量を持つ者は魔法専門の学校に通う義務がある。イーファの貴族学校でも魔法の授業はあるが、ユグルスではもっと詳しく、高度な魔法が学べると聞く。
高位貴族のシャルロッテにも、そこそこ魔力はある。が、魔法を使うのは得意ではない。それを補う為に、魔法道具の開発を始めたのだ。
でも、ユグルスで魔法を勉強すれば、自分でも魔法が上手くなるかもしれない。それが叶わずとも、より良い魔法道具を生むヒントが得られるかも。シャルロッテにとって、ユグルスの学校に通うことは、憧れだったのだ。
羨ましいと言ったのは、ローベルを励ます意味もあるが、紛れもないシャルロッテの本心だ。
そんな彼女を、ローベルはじっと見つめた。
『じゃ、一緒に行く?』
気安い誘い方だった。まるで、散歩に行くときのような気軽さで、なのにその眼差しは真剣そのものだった。彼の海色の瞳がシャルロッテを捉えている。初めて話した、あの日のように。
シャルロッテは息をのむ。ほんの少しの沈黙。彼女はエメラルドの瞳を閉じて、ゆっくりと開いた。
『無理よ。私は侯爵家の跡取りで、王子の婚約者よ』
ハルト侯爵家は、シャルロッテが継ぐ。末王子は、侯爵家に婿入りする。これが、シャルロッテの未来だ。
婚約は王命である。イーファ王国貴族である以上は、従わなければならない。
『そっか』
ローベルが微笑んだ。初めて見る、寂しそうな笑みだった。シャルロッテの胸が痛んだ。彼を傷つけたからでは無い。この程度で傷つく彼では無いと知っている。単純に、彼との別れが惜しいのだ。
『ねえ、代わりに。これをあなたに渡すわ』
『これは?』
『餞別よ』
シャルロッテはローベルにあるものを渡した。不思議そうにする彼に、シャルロッテは笑ってみせた。父を亡くしてから、彼女が笑うことはなかった。長年見せてなかった笑顔は、たいそうぎこちないものだっただろう。それでもローベルは眩しそうに目を細め、ありがとうと行った。
年が明けると、ローベルは王国に帰っていった。
4年生になったシャルロッテは、相変わらず忙しない日々を送った。その合間に、東校舎の裏に行き、小さな池を眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇
エミリーから嫌がらせを受けたり、婚約者から嫌味を言われたり、侯爵家の仕事をこなしたりしながらも、シャルロッテは無事学校を卒業した。
学園を卒業したシャルロッテは、舞踏会に出席していた。
イーファの成人年齢は、16歳だ。この舞踏会は、成人となった子息令嬢のデビュタントの為に開かれた。ついでに、末王子とシャルロッテの結婚と、結婚式の日程が発表される予定だった。
「シャルロッテ・シューラ・ハルト! 貴女との婚約は破棄させてもらう!」
だが、それをぶち壊した馬鹿がいた。
「シャルロッテ、成績不良で授業態度も最悪。そんな愚鈍で怠惰な人間に、侯爵が務まるわけがない。エミリーの方がよっぽど君より相応しい! 私は、君とではなくエミリーと結婚し、侯爵家を盛り上げてみせる!」
会場の真ん中で、末王子でありシャルロッテの婚約者であるサイモンが、何故か舞踏会の招待状が届いていないはずのエミリーの肩を抱いている。
見間違いかと思ったが、王族の証である青髪と銀眼は間違いようがない。
シャルロッテは冷めた目で、
「ごめんなさい、お姉さま! でも、あたし達愛し合ってるの!」
全く心のこもっていない謝罪を口にしながら、エミリーはサイモンに寄りかかる。
ダークグレーの髪に、マゼンタの瞳をしたエミリーは、義母に似て艶やかな美貌の持ち主だ。華奢というか幼児体型のシャルロッテとは異なり、かなりメリハリのある身体つきをしていた。15歳の時点で、既に女性として完成している。そんな彼女は、流行のデザインのドレスを着ていた。しかも、青色。十中八九、サイモンが贈ったものだ。
本来の婚約者であるシャルロッテにもドレスは届いたが、地味な上の好みでもないドレスだった。色も深緑である。ここまで露骨に差をつけられると、いっそ清々しい。
シャルロッテの隣では、第二王子と王子妃が呆然と立っている。さっきまで、シャルロッテにを祝いの言葉をくれていた。
「サイモン、冗談はやめなさい。このような場で……」
「ステファン兄様、これは私達の問題です!」
とりあえず騒ぎを抑えようとする第二王子──ステファンに、サイモンは大真面目な顔で言い返していた。
第二王子のステファンは前妃の子、サイモンとは異母兄弟である。彼はサイモンのことを気にかけ、その婚約者のシャルロッテにもよく声をかけてくれた。国民の支持も集める、人徳ある人物である。
同じ青髪銀眼。顔立ちも似ているのに、何故こんなに違うのだろうか。
(そもそもこんな公の場で騒ぎを起こした時点で、私達の問題だけじゃ済まないでしょ。馬鹿なの? ああ、馬鹿だったわ)
末王子の成人と結婚祝いに来たはずの貴族達は、まさかの事態に動揺を隠せないようだ。周囲が、にわかにざわつき始めた。
不幸中の幸いか、この舞踏会は建国祭のように外交を目的としたものではなく、国内の貴族に向けて開かれたものだ。招かれた国賓は少ない。が、その分、国内の貴族の殆どは集まっている。とんでもない状況であるのは変わらない。
シャルロッテの隣の王子妃なんて、今にも倒れそうな顔をしている。婚約破棄された本人よりショックを受けていた。
それが普通の令嬢の反応だ。このような場で婚約破棄をされて取り乱さない、シャルロッテが冷静過ぎるとも言える。
「シャルロッテ嬢が成績不良なんて、ありえません。なにか思い違いをしているのでしょう」
せめて、国王が入場する前に騒ぎを抑えればならない。生まれ持った責任感をもって、ステファンは説得を試みていた。
内心、シャルロッテは無駄だろうと思う。サイモンは一度怒ると止まらない、子どものような男だからだ。
「いいえ、ステファン兄様。彼女は、いつも授業には欠席し、まともに課題を出したこともない。今回卒業出来たのだって、私の婚約者である立場を利用し、教師達に圧力をかけたからだ。そうだね、エミリー」
「はい、お姉さまはお勉強嫌いで、家庭教師もすぐに辞めさせてしまう人で……」
「待ちなさい! ……まさか何も聞いてないのですか?」
愕然とした顔で、ステファンは頭を抱えた。王子妃は泣きそうになりながらも、彼に寄り添う。
「貴方達が何を言っているのか、分かりませんが……。シャルロッテ嬢は一部の授業も、課題も免除されています。出る授業も、出す課題も無いはずだ」
「免除? どういうことです、まさか課題を出さないように脅して……」
「やる必要が無いからだ! そもそも彼女は、学校に通う必要すらない。学校で学ぶべき内容は全て、彼女が6歳の頃に終わっています!」
「は!?」
そうだった。シャルロッテは、頭が空っぽの人形令嬢ではない。むしろその逆。
3歳で貴族名簿に載る全ての家名を覚え、4歳でユーグル語を含む3ヶ国語を修め、5歳で魔法基礎と魔法体系について理解し、最初の魔法道具を生んだ。彼女は、イーファ王国で一番の天才、いや鬼才だった。
父が亡くなった6歳から、シャルロッテはまともに勉強したことはない。なぜなら、6歳の時点で、彼女は貴族が学ぶべき全てのことを学び終えていたからだ。
義母に辞めさせられた家庭教師も、もとから
「お嬢様に教えられることは、もうありません」
と言っていた。彼らは、自主的に出ていったようなものだ。なのに、家庭教師を追い出した気になっていた義母は滑稽だった。
「それでも彼女が学校に通っていたのは、同じ学校に通う貴方と親睦を深める為です。それをそんな……」
「いや、でも。それなら、なんでシャルロッテの成績はいつも下……」
「それこそ貴方の問題でしょう!」
ステファンの叱責に、サイモンは口を噤み、エミリーは彼に縋り付いた。周りの貴族達も、思わず身を竦める。
人生で一度も怒ったことがないと噂される程、ステファンは穏やかな人だ。彼が声を荒らげるところなど見たことがない。きっとサイモンも同じだ。目に見えて怯えている。
「シャルロッテ嬢の成績が下なのは、貴方の成績が悪いからだ! 彼女は、いつも貴方より下の順位になるように調整していました。王妃殿下が、シャルロッテ嬢に頼み込んだからです。婚約者より成績が悪いなんて体裁が悪いからと!」
「な!」
成績が悪いと、真っ向から罵倒されたサイモンは顔を赤らめた。恥じる気持ちがあるなら、もっと努力するべきだったのに。何を今更言っているのか。
王妃もそうだ。入学前に呼び出されたと思ったら、試験で息子より良い点を採るな、とは。そんなことを頼むなんて、息子の教育を放棄したも同然だ。
「そんなことを頼むなど、シャルロッテ嬢に失礼だし、なによりサイモンの為にならない。王妃殿下を止めてほしいと、国王陛下にも訴えましたが……。もっと強く言うべきだった。いや、直接、王妃殿下と貴方に言うべきでした」
ステファンは、鋭く睨みつける。怒りを抑えきれないのがよく伝わってきた。ステファンは誠実な人間で、その分不誠実を嫌った。シャルロッテにわざと悪い点を採れと命じた王妃を、本当に許せないのだろう。
正直、シャルロッテにとって学校の成績はどうでも良い。シャルロッテは、他者の評価をあまり気にする性格では無い。学校と王家が、シャルロッテの成績を正しく把握しているなら、問題ないと考えていた。
それはそれとして、成績順位が下の中くらいのサイモンより下になるよう調節するのは、かなり面倒だった。回答を白紙で出した方が楽なくらいだ。
(しかも、サイモンは何も知らずに、私に自慢してくるし。だから変に自信をつけて、勉強しなくなる。悪循環だって気がつかなかったの?)
それなりにステファンは働きかけてくれたようだが、そもそも彼の役割は兄である王太子を支えることで、出来の悪い異母弟を世話することじゃない。
本当なら
「陛下は貴方の将来を案じて、この婚約を整えたのに……。どうして、父の想いを踏みにじるようなことを」
「お、お父様……国王陛下からは、シャルロッテは幼くして親を亡くした可哀想な令嬢だから、お前が彼女と侯爵家を守るようにと」
「なんだそれは! ふざけるのも大概しなさい!!」
全くその通りである。確かに、早くに親を亡くしたシャルロッテは不幸かもしれない。しかし、シャルロッテは、自身の不幸を嘆いたことも、自らを憐れんだことも無い。それなのに、他人からそのように憐れまれるなんて、冗談じゃない。
そもそも、この婚約は、サイモンの後ろ盾が欲しい国王が、侯爵家に頼み込んできたのだ。生前の父から聞いている。
元々サイモンは、公妾の子なのだ。前妃が亡くなられたことで、公妾が王妃になり、彼も王子となった。それでも、元は妾の子。この婚約は、立場が弱い彼の為に結ばれたものだった。現王妃は男爵家の生まれで、彼の後ろ盾にはなり得ないからと。
そうやって父に頭を下げておきながら、息子には全く違うことを教えていたとは。国王への信頼が音を立てて崩れていく。
国王は王妃より公妾を愛し、その子どもであるサイモンにも甘い。末の子であるから、特に可愛かったのだろうと思うが、まさかここまでとは思わなかった。都合の悪いことは言わず、甘い言葉だけをかけて育てた結果が、これか。
(つまり……この馬鹿の発言ではっきりした。私は、国王が息子ために用意した、
ハルト侯爵家の看板も、シャルロッテの頭脳も、国王は良いように使うつもりだ。せめて、国の為に使うのならば良い。だが、それはサイモンの為でしかない。前妃の子どもが優秀であるせいで、サイモンを王太子に出来なかった。爵位を与えようにも、現王妃の身分が低すぎて、公爵位は無理。だから、せめて侯爵の位を授けたい。それが、王の本音だろう。
息子を溺愛するのは結構だが、その世話を他人に押しつける止めてほしい。
「彼女は多くの魔法道具を生み、国に大きな利益を与えてくれました。侯爵家の管理も、彼女が行っていると聞いています。決して……」
「そう! それです! まさにそれが問題なのです!」
「そうですわ!」
「……」
ステファンが無言でふたりを見た。顔に、まだ懲りないのか? と書いてある。
急に元気が戻ったサイモンとエミリーはそれに気づかず、捲し立てるように続けた。
「彼女は多くの魔法道具を生み出してきたと言っていますが、本当の開発者はエミリーなんです!」
「そうです! お姉さまは、あたしの案を盗んで勝手に自分のものとして発表し、利益を独り占めしてたんです!」
予想外の主張に、シャルロッテは一瞬思考が止まった。
こいつらは一体どこまで愚かなのか、と。
エミリーとサイモンの関係は知っていた。前から、サイモンはエミリーの豊満な身体を、欲望に満ちた目で見ていたし、エミリーはむしろ見せつけるようにサイモンの前で振舞っていた。
シャルロッテには全く会いに来ず、エミリーには毎日会いに行っていた。隠す気もなかったのだろう。
正直、どうでも良かった。サイモンが妹と浮気しようが興味がない。愛が無いからだ。
むしろ、サイモンの相手をエミリーに任せれば、侯爵家の仕事に集中出来る。面倒がないと思っていた。サイモンが欲しいなら持っていっても構わない。サイモンはくだらない嫌味ばかりで、仕事もしない。いても邪魔なだけだ。
けど、発明品は別だ。これらは、シャルロッテが努力の末生み出した作品だ。それを掠め取ろうとは、どこまで厚かましいのだ。
ステファンは怒る気力も失せたか、額を押さえ、絞り出すような声で聞いた。
「サイモン……。いい加減、目を覚ましてくれませんか」
「兄様こそ目を覚ましてください! シャルロッテが本当に魔法道具の開発者なのか、明確な証拠はあるんですか!」
これには、ステファンも言葉を窮した。
確かに、最初に発表したのはシャルロッテだが、最初に案を考えたのは誰かなのか、その判断はつかない。シャルロッテが盗んだ証拠もないが、盗んでいない証拠もないのだ。
悩むステファンの様子に気を良くしたのか、サイモンは更に声高に続ける。
「おかしいとは思ったんだ! 魔法道具を生み出してきたと言う割に、彼女が賢いところを僕は見たことがない! でも、それもエミリーの功績だと思えば、辻褄が合う! 実際、今だってぼんやり立ってるだけだ! 全て図星だから、何も言わないのだろう!」
びしっとサイモンはシャルロッテに指を突きつける。エミリーがくすくすと嘲笑する。
「本当は、侯爵家の仕事もエミリーがこなしていると聞いている。兄様達に偽りの報告を上げるとは……これは偽証罪だぞ! そのような犯罪者に侯爵家を継がせるわけにはいかない……エミリーが継ぐべきだ!」
それを決めるのはサイモンではない。侯爵家の跡取りを決めるのは、侯爵家の人間だ。たとえ王家でも、そこまでの権限はない。
けど、後ろの方で笑っている義母の様子から察するに、すでに手続きを終えていて、侯爵家の跡取りをエミリーに変更していると考えてよいだろう。跡取りの名義変更は時間がかかるものだが、サイモンの権力があればすぐ終わる。
義母はずっと、エミリーに侯爵家を継がせたかった。けれど、父が死ぬ前にシャルロッテを跡継ぎに指名し、更に王家との婚姻まで結んでしまった。
父が亡くなって、侯爵代理になったときから、シャルロッテを引きずり下ろす機会を狙っていたのだ。
(きっとハルト家の財産目当てでしょうね。馬鹿な人達。今のこの家に、そんなお金は無いのに)
ハルト侯爵家には多くの分家がある。
侯爵であった父が亡くなったとき、義母が侯爵代理となった。義母はしがない子爵家の娘だ。領地経営について何も知らない。本来なら、本家の為に分家が協力し、支えるべきだ。
でも、彼らはそうしなかった。侯爵が義母に変わった途端、彼らは義母に群がった。助ける為ではない、侯爵家の領地を、資産を食い潰す為だった。
愚鈍な義母は、それに気づかなかった。
シャルロッテは6歳で全ての勉強を終えたが、領地経営についてはまだ学んでいなかった。こっそり独学で学び、領地経営を出来るようになったのは、10歳の頃だ。その頃にはもう、侯爵家は食い荒らされていた。ボロボロで、領地管理人や管財人は追い詰められていた。
侯爵家が今まで保ってこれたのは、シャルロッテの尽力によるものだ。それを、この3人は分かっているのだろうか。
何も知らないまま嘲笑うサイモンとエミリー。滑稽だ。滑稽で、醜悪だ。何故、何も知らないのだろう。
「サイモン様、お姉さまは、あたし達が結婚した後も侯爵家には置いてあげましょう? だって、お姉さまは侯爵家以外に行くあてなんてないんだもの! お可哀想ですわ」
「ああ、エミリー。なんて慈悲深いんだ……! シャルロッテ、感謝するといいよ」
「うふふ、良かったですね。お姉さまあ」
──相手が馬鹿なら尚更言った方が良いんじゃない? 言わなきゃ分かんない人を馬鹿っていうんだから
そうか。言わなかったからだ。ふと、ローベルの言葉を思い出した。
シャルロッテが何も言わなかったから、彼らは彼女の苦労を何も知らない。
シャルロッテは、人形令嬢だ。それは、義母から虐げられてきたせいでもあったし、馬鹿との会話が無駄だと思ったからでもある。それ以上に、余裕がなかったのだ。
侯爵家を維持する為に奔走した。余裕がなかった。侯爵家はボロボロで、いつ壊れてもおかしくなかった。時間が無かった。寝る間も惜しみ、魔法道具を開発し、その利益を全額領地に還元した。そうしなければ、やっていけなかった。誰かと話す時間も笑う余裕もなかった。彼女は、人形令嬢になるしかなかった。
それも、もうすぐ終わるはずだった。サイモンが婿入りした暁には、王家から多くの持参金が与えられる。それを足がかりに、侯爵家を立て直すつもりだった。
サイモンとエミリーが結婚しても、持参金は払われるだろう。しかし、エミリーでは到底無理だ。彼女は義母と同じ、食い潰すことしか出来ない人間だから。
「……なんだ、その目は。その生意気な目がずっと気に食わなかったんだ! 何か言いたいことがあるなら言ってみろ! シャルロッテ!」
言えば良かったのだ。侯爵家の現状を、素直に誰かに訴えれば良かった。だって言わなきゃ分からないんだから。
──やっぱり言いたいことは言いなよ。そうじゃないと、誰も君のこと分かってくれない。蔑ろにされたままだよ。
(ローベル、あなたの言う通りだわ。蔑ろにされたくないのなら、向き合うべきだったのよ)
シャルロッテもまた、国に、家に縛られていた。だから、ローベルが羨ましかった。自分の生まれに、親に、家に翻弄されながら、それを意にも介さず笑い、自由に発言する彼が。
彼に、もう一度会いたかった。
「所詮は物言わぬ人形令嬢か! やはり君とは……」
突如、会場が7色に光り輝いた。
「うわあ!」
「きゃあー! なに!」
サイモンは腰を抜かし、エミリーも悲鳴を上げて蹲った。ステファンは傍らの王子妃を抱き寄せ、構えた。
突然のことに、会場は阿鼻叫喚の嵐となる。そんな中、ひとりシャルロッテだけは平然として、会場の天井を仰いだ。
上を見ると、光の玉がぐるぐる回っている。段々回るスピードが遅くなり、同時に光も弱くなる。やがて、完全に光は消え、玉は会場に落ちた。
かーんと乾いた音がした。それを、シャルロッテは拾い上げる。掌くらいの大きさの石だ。表面には、緻密な魔法陣が刻まれている。この魔法陣には見覚えがあった。
『久しぶり』
聞き覚えがあった。騒ぐ群衆の中から、ひとり飄々と出てきた青年。背は更に高くなり、黒い髪は白金色に変わっている。
『あれ、なんか変わった? 前と違う気がするね』
それでも、間違うはずもない。彼の海色の瞳を、間違うはずがない。彼のユーグル語を
間違うはずがないがないのだから。
『もしかして……、背が縮んだ?』
『そんなわけないでしょ』
からからと、ローベルは笑った。
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