努力の天才妖媒師は無限の妖力で無双する

さい

第1話 スカウト

 俺こと志門秀太郎、高校二年生には誰にも言えない、とある秘密がある。

 それは――"霊が見える"、ということだ。


 ただし、霊そのものがはっきり見えるわけじゃない。

 俺が見るのは、黒いシルエットだ。

 形や大きさから人間だろうということはわかるけど、顔も表情も見えない。

 まるで黒い影がそこに立っているだけだ。

 さらに言えば、触れることもできない。

 俺にできるのは見ることだけ。

 そいつらは音を立てるわけでもなく、俺と関わってくるわけでもない。

 ただ、そこにいるんだ。


 霊が見えるようになったのは、たしか小学三年生の頃だった。

 俺は放課後の校庭で遊んでいて、何を思ったかジャングルジムの頂上まで登ろうとしてたんだ。

 だけど、足を踏み外して、思い切り地面に落ちた。

 気を失って、しばらく意識が戻らなかった。


 目を覚ましたのは、夕暮れ時だった。

 頭がぼんやりして、まだ夢の中にいるような感覚だったけど、何か変な感じがした。

 周りを見渡してみると、そこに立っているはずのない「黒い影」がいくつか見えたんだ。


 最初は目の錯覚だと思った。

 でも、日が経つにつれて、その影は学校でも家でも、いつでも俺の視界に現れるようになった。

 母さんにも、友達にもこのことを話したことはない。

 話したところで、信じてもらえるとは思えないからな。


 こうして俺は、人に言えない秘密を抱えたまま、高校生活を送っているわけだ。


 今日もまた無数の霊を見ながら、学校に行く。


 今思えば慣れるまでにかなりの時間がかかったものだ。

 もう背景みたいなもんだけど。


 ふと、背後から視線のようなものを感じた。


 慌てて後ろを振り向くと、そこには赤髪ロングの女性が立っていた。

 白ティーにスキニージーンズ。

 口にはタバコを咥えておりとても綺麗な女性だ。

 

「え……」


 声に出して驚いた。


 なんと、二人組の男子生徒たちが楽しげに女性を貫通させて歩いていたからだ。


 すぐに彼女が普通の人間ではないと察知した。

 幽霊だ。

 人型の幽霊だ。


 女性はタバコを口から吐き捨てて、


「少年、いいや、志門秀太郎。私の姿が見える、で間違いないな?」


 なぜ俺の名前を知っている?

 知らねえぞこんな人。

 つーか、そもそも幽霊だよな?


「あ、あんたは何者……なんですか?」


「そうだな、自己紹介だ。私の名前は赤崎朱音。妖媒師だ」


 話が通じる……。

 今までの霊は全く別だ。


「なんか怯えてるが、もっと楽にしてくれ……私は霊じゃない」


 なんだ?

 まるで俺の心の中を見透かしてる見てえだな。

 

「私が君の前に現れた理由はただ一つ。君には妖媒師としてとてつもない才能を感じる」


「ま、待ってください。妖媒師って? 訳がわからないですよ」


「学校……遅刻して私と話そうか」



 場所を変え、俺たちは公園のベンチへとやってきた。

 

「なっ」


 ベンチには赤崎さんが倒れていた。

 

 え、どうなってる?


 ここにも赤崎さん。

 目の前にも赤崎さん……。


「私の抜け殻だ」


 そう言うと赤崎さんは倒れている赤崎さんの中に入っていく。


 いやいやいや、マジでどうなってんだよこれ。


 すると、倒れていた赤崎さんが動き出した。


「幽体離脱だ」


「え?」


「先ほどまでいた私は幽体離脱した、つまり、幽霊となった私。幽霊となった私は霊感のあるものにしか見えない、すなわち霊のような存在なるってわけだ」


 ポケットからタバコを取り出し、一本口に咥えてライターで火をつけた。


「この世に存在するあらゆる謎。例えば、昨日まであったはずの物が次の日になくなってたりなさな。そんな謎は全て妖怪のせい」


「なんかどこかで聞いたことある言葉ですね」


「だな、私も最初は驚いた。まさしくなんちゃらウォッチと同じようなものだ」


 赤崎さんはタバコを口から離して、俺に先端を向けた。


「んで、そんな妖怪を成仏させる存在。それこそが妖媒師!! 君はこれから妖媒師として生きていってもらう!!」


「わかった」


「え、判断早っ!? 普通もっと悩むとこでしょ!!」


 あんまよくわかんない。

 けれど、妖怪が悪さをするのなら、俺は、


「人助けをするのって普通ですから」


 人が幸せになれるのならそれでいい。


「ふん、そうか。なら──」


 赤崎さんは俺の額に右手を置き、思いっきり押した。

 次の瞬間、目の前が真っ暗になり、景色が見えるようになるとそこには、


 倒れている俺がいた。


 全身から冷たい汗が溢れ出す。


「えーっと、これは……」


 赤崎さんはニヤリ、白い歯を見せて、


「幽体離脱だ」

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