第3話 異世界と言えば!
チュンチュンと小鳥がさえずる。
窓からは日の光が差し込み、外から町の人々の喧騒が聞こえてくる。
もう朝か。
昨日は夜遅くなったから、あれから早々に寝間着へと着替えてベッドに潜ったんだっけ。
さて、そろそろ起きなきゃいけないな。
と思っていると、私の頬にプニッと柔らかい感触を感じているのに気が付いた。
何だこれ?
眠い目を擦り、目をよく開いて見てみる。
すると目の前には、ふくよかで大きな物体が2つ。
「……は?」
それはそれは、見事に大きく育っている凛のバストだった。
どうやら私は寝ている間に凛から抱き着かれ、顔を胸へ
しかも上半身裸、パンツ一丁というあられもない姿で。
結局着れる服が無かったんだっけ。
何ともまあ立派なお体をしている事。
自分の胸元へ視線を落とすと、こぢんまりとした2つのお山。
形には自信を持っていたけど、何故だか猛烈な敗北感が襲ってくる。
身長も私より高くスタイルも良い。
完全敗北だ。
まあでも悪い気はしない。
こうして誰かと一緒に寝たのは、いつ以来だろうか。
私は、誰かと一緒に寝られたという事を少し嬉しく感じた。
◇ ◇
私は凛を叩き起こすと部屋で軽く朝食を取り、凛の着られる服が無いので元々着ていたセーラー服を着せて町の南エリアに有る服屋へと行くことにした。
凛は汚れているからセーラー服を着たくないとゴネていたけど、アンタの体の一部分のせいで私の服が着られないから仕方がない。
服屋に到着すると、店員さんのアドバイスを受けながら普段着を選ぶ。
私はファッションには疎いから詳しい人に任せた方が良い。
凛が色々試着してみているけど、スタイルも良いからか何を着ても似合う。
身長も高いし。
「……ねえ、アンタって身長何センチ?」
「えーっと、確か173です。アルシアさんは?」
「……161」
ここでも敗北感を味わう。
購入する服を決めると次に寝間着、そして下着を購入。
凛は下着が可愛くないと文句タラタラだったけど、こんな辺境の町にお洒落な下着を置いてあるわけないでしょ……。
次に防具屋へと行き、凛の防具を買う事に。
「おお~!」
到着して中に入ると、凛は店内に並ぶ防具を見て子供のように目を輝かせている。
「アルシアさん凄いですよコレ! エルフが着るようなレザーアーマーに、屈強な戦士が身につけるようなゴツい鎧! 角がついた兜まで! これぞ異世界! いや~どれにするか迷いますね~!」
日本での異世界の印象ってこんななのか。憧れってのは凄いわね。
けど、こんなゴツい鎧なんか着てもマトモに動けないでしょ。
「凛、アンタはコレ」
私はそう言って店内の端っこに指を差すと、凛は突き付けた指の先へと視線を向ける。
そこには、シーフが着るような真っ黒い装束。
凛は、口を思いっきりヘの字に曲げる。
「……嫌です」
「けど、この装備が一番動きやすい……」
「嫌なものは嫌です! これ完全に盗賊か暗殺者の装備ですよね! 私に忍者になれって言うんですか!」
「えぇ……。でも鎧なんか着ても体力使うし動きにくいしでメリット無いけど……」
「じゃあ、魔法使いが着るような服はないんですか!?」
「有るけど、ゆったりとした着心地でそんなに動きやすくないし、値段も高いし……」
「鎧着ないなら、もっとこう、露出高いやつが良いです」
「いや素肌さらすのは……」
「アルシアさんだってスカート履いてるじゃないですか。別に死なないんだから良いでしょ!」
「私は動きやすいからこの格好をしているわけで……」
「あーもう良いです。この今着ているセーラー服にします! 何も要りません!」
凛は頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
ある程度自分自身を守れる実力が身につくまでは、防具をきちんと着て欲しいんだけど。その服目立つし。
けど、これ以上言っても聞かなそうだし、仕方ないな。
私は防具屋の店主に、凛の着ているセーラー服を作ってくれと声をかける。
「あの服ですかい? 服なら服屋に言った方が……」
「素材に魔法繊維を使って欲しいのよ。防御性能と魔法耐性が高いやつ。虚空のクリスタルも付けて」
「えぇ? そんな上等なやつをわざわざセーラー服に仕立てるんですかい?」
店主が首をひねるのも無理はない。
魔法繊維自体が高級なのもそうだが、虚空のクリスタルは装備者の属性に合わせて装備品を装備者に適合させる魔法石で、装備者が使用する魔法を強力にする効果がある。
普通は魔術師が着る防具に使うような素材だ。
自分でも意味の分からない頼みをしている事は百も承知。
「……お願い」
「まあ作れってんなら作りますけど……、クリスタルもつけるとなると金貨六十枚はしますぜ?」
「構わない。ここに金貨二十枚有るから着手金として置いていくわ。残りは受取時に払う」
「わかりやした! 出来るのは多分1週間後くらいになると思うんで、それくらいに来てくれますかい」
「分かった」
今の手持ちはこの着手金で殆ど無くなるから、1週間後なら有難いかな。
それまでにお金を稼がないと。
◇ ◇
着手金を店主に払い、凛の服の採寸を済ませて私が再び敗北感を味わうと、防具屋を出て町の北エリアへと向かう。
凛にはまだどこへ行くのか言っていない。
一緒に横で歩いている凛の顔を見ると何故か光輝いているので、目的地を言うのがやや不安になる。
何か一言言うと百返ってきそうで怖い。
目が合うと期待に満ち溢れた笑顔が返ってくる。
絶対面倒なことになる。
けど何も言わない訳にもいかない。
仕方ないから、取りあえず凛へ顔を向けずに声をかけてみる事にしよう。
「…………、……何?」
よし、声をかけたぞ。
声をかけた以上反応を確認しない訳にもいかないので、恐る恐る視線を凛へと向ける事とする。
すると、待ってましたかのような怪しげな笑みが私へと向けられていた。
……これはヤバいかもしれない。
「アルシアさん、次は武器屋ですよね?」
やっぱりかーッ!
一番恐れていた言葉が返ってきた。
鎧に興味津々だったから、次は剣とか欲しいと言うに決まってる。
けど武器を買うお金なんて無い。
そもそも、凛を魔術師として育てるつもりだから、武器は必要ないと思って敢えて残さなかったのだけれども。
武器は買わないわよ! 絶対に!
「……行かないわよ」
「!?!?!?」
私の言葉を聞いた凛は、まるで目の前に隕石が落ちたかの様な衝撃を受けて固まっていた。
「アルシア……サン、イマ……ナント?」
「武器屋には行かない」
「ブキヤニハ・イカナイ。ドコの偉人デスカそれ?」
「
「!?!?!?!?」
凛は再び固まった。
あー、思った通り面倒なことになりそう。
「アンタには魔法を覚えて魔術師になって貰おうと思ってるから、武器なんか要らないわよ」
「け、けど! それでも剣とかも使えたらカッコイイじゃないですか! 魔法剣士もこの世界に居るでしょ!?」
「居るには居るけど、私は剣使えないから教えられないわよ」
「そっそれじゃあ、杖は!? 魔法使いなら杖はマストですよね!」
「まあ魔法の補助としては使えるけど、アンタには必要ないわよ。第一、セーラー服を注文したせいでお金もスッカラカンだし」
「じゃあキャンセルしてきます!」
「待ちなさい!」
Uターンして戻ろうとしたので、慌てて止める。
仕方が無い、ここはこの子が喜びそうな殺し文句を言ってみるか。
「注文したセーラー服を着れば、無敵になれるわよ」
間違いは言っていない。
魔力を自在に操れるようになれば防御性能も魔法耐性も格段に上がるので、これ以上無い防具になる。
さあ果たして……?
「それってつまり、俺TUEEE! が出来るという事ですか」
キリッ! とキメ顔で言われた。
俺TUEEE! が何なのか分からないけど、ドストライクだったみたいだ。
「あー、まあ、とにかく強くなれるわ」
「ならば問題ないですね! いやー出来上がるのが楽しみですね〜!」
どうやら納得してくれたらしい。
これ以上駄々をこねられたらどうしようかと思ったけれど、作戦は成功したみたいだ。
これでようやく行き先を言えるかな。
「それじゃギルドへ
「ギ、ギルド……!」
再び凛の顔が輝き出した。
ヤバい。さっきも見たぞコレ……。
「それってつまり冒険者ギルドって事ですか!?」
「え、違うけど」
「えぇ……」
今度は露骨に嫌な顔をされた。
悪いわね、ご期待に添えなくて。
「アルシアさん……冒険者じゃあ無いんですか……? それで一緒に冒険者として冒険するんじゃないんですか……?」
「違うわよ。そもそも今の時代に冒険者ギルドは存在しない。これから行くのは
「魔物……!? ハンター!? って事は魔物討伐に行くんですね!!!」
「……そうだけど」
凛の瞳は再び輝きを取り戻す。
本当に忙しい子ね。
「それじゃ早く行きましょう! 魔物が私達を待っています!」
「その前に……」
「???」
張り切ってくれるのは良いけど、注意してほしい事がある。
どうせギルドに行ったら、凛は大はしゃぎして目立ってしまう。
この先、高ランクの
だから少なくとも、私だけでも名前を周囲に覚えられないようにしないといけない。
凛が覚えられるのは諦める事とする。
そこで、凛に私の呼び方を変えてもらおう。
「凛、私は一応アンタに魔法とか戦い方とか教える立場になる」
「そうですね」
「という事は
「
別に師匠だからって偉そうな事をするつもりは無い。
必要な事を教えるだけ。
正直、弟子を取った事は一度も無いので、上手く教えられるかも分からない。
「分かりましたマスター・アルシア! フ◯ースと共にあれ!」
…………
かつて世界を救った最強魔術師は、異世界JKを弟子にする。 蒼山マサ @Aoyama_Masa
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