箱の中で考えること

@mono920

プロローグ

 なにか近くに眠りを邪魔してくるやつがいる。


「ザザザザ」


 ゆっくり目を開けると、焦げるような太陽とどこまでも続きそうな大きな海が広がっていた。

 砂だらけの体をよじらせながら起こして、大きな伸びをする。

 なにか気になることはあるものの、心は晴れやかだ。


「…」


 後ろから刺すような殺気を感じるものの、今の僕はなにも思っていない。

 なにも思っていない、というかなにも考えることができないが正解かもしれない。


「おい! 気づかないのかよ」


 バカでかい若々しい声が寝起きの頭に響く。


「なんだよ、いい感じに整ってたのに」


「いや…てかお前は誰だ!」


「名前?…知らないよ!」


 なんなら教えてもらいたいほどだ。

 この子供は見た感じ落ち着きはないが、自分と歳は近いように思えた。


「おい、そこでなに遊んでるんだ」


 低く、野太い声が砂浜に駆け巡った。

 うるさい子供の後ろの茂みから、自分の2倍近くはあるだろう大人が出てきた。

 おそらく親子なのだろう。


「なんだ、また来たのか」


 やはり大人の声は近づきがたい雰囲気がある。

 とういうか、とはなんだ?


 僕はここに来た記憶など一度もない。

 何の話だろうと頭の中を駆け回ったが、僕にはなに一つ記憶がないことに気づいた。


「僕のことを知っているのか?」


「そんなの知るわけがないじゃん?」


 ちっちゃい子供の挑発するような声色が気に障る。


「お前は流れ着いたんだよ」


 それはわかるわ、と言いたかったが、こんなでかいやつに勝てる気がしなかったので、心のなかでそれを留めた。


「この砂浜は子供が流れ着くことがあるんだよ。前は…何年前だったかな」


 なにかしら特別な砂浜だということはわかった。

 だが、疑問はまだ大量に残っている。


「ちょっとまて、そもそも君たちは何者なんだ?」


「俺達はサニー族のスフィフジーと、こっちがスフィフティだ」


「サニー族?」


「サニー族はこの砂浜を駆け上がって崖を登ったところを拠点としている。他に質問はないか?」


 寝起きということもあり頭が回っていないが、無駄にテンポの良い大人に合わせようと、頭から質問を振り絞る。


「…拠点ってことは他にも族があるってこと?」


「あぁ、そうだ…」


 他の族については詳しいことは教えてくれないらしい。

 考えても無駄に思えたので考えるのをやめた。


「ちびっこ、お前はどうするんだ? ここからどこか、あてはあるのか?」


 あるわけもないのに変なことを聞いてくる。


「…」


「よし、じゃあついてこい」


 どうやら、これはついていくしか選択肢はなさそうだ。


 数分砂浜を歩いているとそこには岩場が広がっていた。

 親子は回り道をするわけでもなく、そのまま前に歩いていく。


「も、もしかしてだけどここを登るのか?」


 登れそうにもない崖を当たり前のようにひょいひょいと登っている。

 やっとの思いで数段登ると、親子はもう登り終わっているようだった。

 


 やっとの思いで、登り終わるとどこからかとてつもない達成感が湧いてくる。

 崖の上から見る海はとてもきれいだ。


「十数分は待ったぞ」


 機嫌の悪い声が耳に刺さる。


「崖なんて登ったことがなくて…」


「まぁ、行こう」


また親子はすごいスピードで野道を走り抜けていった。

ついていくのにもやっとである。

なんでこんなにも草木の生い茂った森を、その速さで走れるのか不思議でたまらない。


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