黄金林檎の落つる頃

蜜柑桜

第1話

 砂時計は動き出した。

 煌めきながら絶えることなく落ちる砂粒は、まるで言い伝えに聞いていた、天空を飾る無数の点のよう。

 だがいま、輝く砂粒が動き出したのを合図に空を覆い尽くす濃密な層は晴れ、耳に伝えられた言葉は眼に映る像となる。

 集まり束になって線を引く砂粒をそのまま移したような、集まり帯を成して空を流れる光の粒子。

 世界は動き出した。

 砂は落ち、時は流れ、万物が動き出す。

 雨は風に乗り、風は雲を割き、雲は空を現した。

 空を映した水色の髪が微風に助けられて弧を描く。

 胸元に握られた砂時計が指の間から光を漏らし、草葉の上に道を引く。

 裂けた雲の間に、一筋の星の大河。その大河に沿って地上に引かれる、光輝の道。

 その標を踏みしめ、少女は走った。

 

 この星の命はまた動き出す。

 止まっていた空気が流れ出す。

 世界は再び、動き出す。

 営みは必ず蘇る。


 ひとつめの鍵は、砂落ちる時計。

 ——ふたつめの鍵は、黄金きんの林檎。




——続く

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