有能過ぎる俺は無能を演じる 〜めんどう事はもう嫌なので是非とも貴族家から追放して下さい!〜

ピコ丸太郎

第1話 貴族ってなんでこんなにもめんどうなんだ

「貴族ってなんでこんなにもめんどうなんだ」


 俺、 ネルヴァ・アルフォート は公爵家の長男として生まれた。そんな俺には『剣聖』の姉上がいる。


 公爵家ってだけあって、執事やら家政婦やらメイドはたくさんいる。俺が生まれた時、父上や母上、姉上や従事たちに見守られながら生まれたらしい。

 父上は一言でいうと『厳格』そのものだ。反面、母上は『陽気』。姉上はそんな父上と母上を見事に足して余りあるほど、『厳格ながらも陽気』なのである。


 幼少期から口うるさく言われていた事がある。

 それは『時期当主としての心構え』だ。元来、家を継ぐのはその家の長男らしい。だから自動的に姉上ではなく、俺というわけだ。


 ――めんどうなことに。


 それもあって、『剣術』の稽古や魔法の訓練、体術の訓練、言ってみると幼少期から英才教育にどっぷり浸かった貴族家の御坊ちゃまって具合だ。


 何やら俺は物覚えが比較的良いらしい。

 一教えれば、百を『モノ』にしてしまうらしいのだ。

 言語を覚えるのだって、文字も覚えるのだって苦労しなかった。だから、三歳にして愛読書は『上級魔法の基本と応用編』であった。


 勉学に関しては、執事やメイドが教えてくれた。

 物覚えが良過ぎて、気付けば俺の教育係である執事やメイドたちの口癖が「本当にひとの子かしら?」である。

『剣術』は『剣聖』である姉上、『魔法』については『聖女』の二つ名を持つ母上から日々教わるのだ。


『流石はオレの子だ』と物心つくまでは、父上の褒め言葉に嬉しいと感じていた。


 そんなある日のことだった。


 姉上に縁談話しが浮上した。

 相手は同じ公爵家の長男らしいのだが、姉上の様子からしてあまり喜べない縁談だと察した。いわゆる、『政略結婚』らしいのだ。


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


 物覚えが良過ぎる事は、まれに危ない事になるらしい。


 母上との『魔法』の訓練の時だ。


「母上。この前習得した『メテオ・バースト』という魔法を見てもらいたいのですが良いでしょうか?」


「えっ?待ってネルちゃん、その魔法って……」


「母上、いきますっ!」


「だからねっ!ネルちゃんその魔法使ったら……」


「メテオ・バースト!!」


「えっ、まさか無詠唱なの……?」


 唱えた時、空は一変して暗い雲が渦巻きながら集結して、まるでこれから嵐が訪れる。そんな空に変わった時、眩しい雷と轟音を響かせて地面に向かって落下して、激しい爆発と爆風が起きた。


「きゃーーー!」と、母上は爆発と爆風によって迫り来る砂利やら木の欠片を防ぎながら喚いてる。


 爆発が収束すると、雷が落ちたところは広大な穴が開いていた。


 六歳の子供がこんな魔法を使えるなんて、前代未聞らしいし、とんでもない事だったって事に気付いたのは、この後の母上の態度が急変した事がきっかけだった。


 それから俺はなるべく実力を隠すようになった。

 いやむしろ、無能を演じるようになっていった。

 だってもう、あんな母上の『私の子じゃない』みたいな目で見られたく無いからだ。


 だから習得した魔法『リバース』や『魔法障壁』を使って、それから俺自身で編み出した魔法『血のり』であたかも無能を演じながら、姉上や母上との訓練を受ける日々。

 

 ――どう無能を演じるかって?


 それは簡単。

 まずは剣術の稽古なら、姉上の斬撃を紙一重でかわしたと思わせておいて、すかさず俺の身体に向けて『リバース』を唱える。


――――――――――――――――――

【リバース】

『効果』

攻撃を回避成功した場合のみ発動可能。

攻撃回避成功した場合のみ、攻撃作用方向を逆転する事ができる。その攻撃力分を逆転した方向に作用させる事が可能。

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

【魔法障壁】

『効果』

詠唱と同時に魔力による障壁を張る。

魔力量によって防御力・耐貫通力が異なる。

持続可能時間:1h

発動回数:2回/日

――――――――――――――――――


 ちなみにだが、俺の魔力量的にもはや絶対防御に限りなく近い。とだけは言っておこう。


 次に、


――――――――――――――――――

【血のり】

『効果』

偽りの流血を具現化可能。

使用時、相手を混乱に陥れる場合がある。

――――――――――――――――――

 

 これもちなみにだが、新書『魔力と魔法の関係について(改訂版)新術開発に至る思考』を読んで、この本を参考にして自分なりに開発した魔法ってわけだ。


 で、ここから改めて説明するとだ――。


 姉上の斬撃交わすイコール回避成功となるから、『リバース』の発動条件が整うのだ。

 その『リバース』を俺自身の体に向けて使用するから、姉上の斬撃攻撃力分、俺の身体に被ダメする。


 それだけではまだ不十分である。


 何故か?


 より無能を演じるには、もっとオーバーリアクションを取る必要がある。


 そこで俺が開発したスキル『血のり』の出番。

 『血のり』で流血を偽り、なお、完璧なリアクションを取るともはや完璧な無能を演じることが出来るって寸法だ。


 次に、『魔法障壁』の使い道だが、どれだけ手を抜いたとしても姉上より遥かに攻撃速度が上回ってしまう場合がある。

 姉上が俺の攻撃を回避出来るか否かという紙一重の時、万が一姉上に直撃してしまうといった場合に『魔法障壁』を使って、俺自らの攻撃を自らの魔法で防いで、あたかも姉上が回避できたと思わせる魔法ってわけだ。


 ――うむ。我ながら完璧な無能を演じてるな。

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