異世界コーチング~地球の成功哲学を異世界の住人に伝えたら、みんなが成長しすぎて『伝説の精霊』と呼ばれるようになった件について~
水降 恵来
勇者アレックス~現状~
俺は勇者ランキング221番目の勇者。
この国にいる勇者の数は250人、そう俺は勇者ランキングで言うところの、あまり使えない勇者である。
勇者といえば聞こえはいいが、毎年のように戦いに関係した人材を集め、勇者と認定する勇者制度の影響だ。
勇者に選ばれるのは名誉なことであるとされ、世間の注目を浴びることになる。
しかし、それと同時に義務も負うことになる。
魔物や魔族との戦いへ参戦するという義務を。
ランキング221の俺に任されているのは、辺境の海辺近くにある町。
魔物による被害などは少なく、勇者が派遣される必要性もあまりない国だ。
今日も戦ったのは、町の前に現れたうさぎに似た小型の魔物一体のみ。
それで暮らしているというのだから、それだけ見たら勇者というのは何と楽な仕事かと言われてしまうだろう。
しかし、いつか来る魔族たちとの戦争に備え、毎日、剣を振り続けることだけは止めていない。
俺達勇者は、人々を守るためにここにいるのだから。
その日の夜、俺は、宿のベッドに腰掛けその様子を見ていた。
手に持った遠くの風景と音声を届ける水晶球には、王城での夜会の様子が映し出されている。
今日は王城で勇者のランキング変動の発表がある日で、今はその中でも第一線級勇者という、勇者の中でも特に優れた者を発表していた。
先ほどまでの賑やかな光景から打って変わり、会場は静まり返り、そこに参加する者、そして俺、全員が宰相の言葉に耳を傾けていた。
「・・・、勇者プライド、以上を第一線級勇者とする!」
その宰相の言葉が終わると、会場にいる人々がざわめく。
誇りに満ち溢れた者、仲間と共に肩を叩き合う者。
この世界にいる勇者の中でも、特に優れていると認定された十名の勇者。
その中に、あいつの、プライドの名前があった。
硬く握り締めた拳が震える。
どうしてあいつなんだ。
叫びたくなる思いをぐっと押さえ、俺は一人、水晶球の接続を切ると剣を片手にぐちゃぐちゃになっていく思考に任せて外に飛び出た。
足が向かったのは、町の裏手にある岬。
このやるせない思いをどこへ向かわせれば良いか分からず、俺はただ走った。
第一線級といえば聞こえは良いが、その第一線とは死地に他ならない。
死地へ向かい、いつも死にかけて帰ってくる幼なじみ、プライド。
プライドはつい一月前にも死にかけたばかりで、つい最近まで救護院で療養していた。
見舞いに行った際には、「私も勇者だから、頑張らないとね」と、作り笑顔で答える始末。
その笑顔からは、無理していることがありありと伝わってきて・・・。
そんな限界に近いプライドの状況を国の人も理解しているはずなのに。
それなのに、一線級にプライドを選ぶなんて。
おそらく貴族からしたら、俺たちは使い捨ての駒でしかないのだろう。
岬にたどり着いた俺は、大地を叩き、空に浮かぶ満月に向かって慟哭する。
「ちくしょう!!」
腰に下げた剣を引き抜くと、空に掲げる。
「どうしてプライドなんだ!!」
全ての思いを込めた一振りで、自らの運命を変えようとするかのように。
「俺に力があれば!!!」
第二線級勇者アレックスは、己の不甲斐なさを振り払うかのごとく剣を振り下ろした。
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