第8話:「決戦の前兆、闇に潜む影」

瓦礫の中で息を整えていたカズマたちは、巨大な獣をなんとか倒したものの、すぐには気を抜けなかった。彼らの戦いはまだ始まったばかりだ。災厄の王、その恐ろしい存在が、近づきつつあることを感じていた。


「ふう……まさかあの爆裂魔法でさえ、獣を完全に倒せなかったとはな……」

カズマはめぐみんを支えながら、深い息をついた。


「でも、これで一応危機は回避できたわよね? もう何も出てこないでしょう……出てこないよね?」

アクアが怯えたように言ったが、その言葉にカズマはすぐに否定の意を示した。


「いや、まだだ。これが前哨戦だとしたら、本物の災厄の王が出てくるまで、そう長くはないだろう」

カズマは冷静に周囲を見渡した。洞窟は崩れかけていたが、先に進む道はまだ残されている。


「今はとにかく、一度休むべきだ。ここで全員が倒れたら、次に何が出てきても太刀打ちできないからな」


「それにしても、さっきの獣……災厄の王の使いなら、あの杖の力もまだ不完全なのか?」

ダクネスが険しい顔をしてカズマに問いかけた。


「さあな。伝説の秘宝だっていうからには、もっと決定的な力があると思ったんだが……どうやら簡単にはいかないらしい。俺たちがこの杖をどう使いこなすかが鍵になるんだろう」


その言葉に全員が沈黙した。彼らが手に入れた「伝説の秘宝」。その真の力を発揮するためには、何かがまだ足りないのかもしれない。


「ともかく、今はここを抜け出そう。外に出て、体制を立て直したいところだ」


カズマたちは瓦礫を避けながら、洞窟の出口へと歩みを進める。長い暗闇のトンネルが続く中、彼らは無言で足を進めていたが、誰もが災厄の王の脅威を感じていた。


洞窟を抜けると、温泉街の薄明かりが彼らを迎えた。夜空には雲が広がり、月の光がぼんやりと地上を照らしている。いつもの賑わいが嘘のように静まり返った温泉街は、不気味なほど静寂に包まれていた。


「……な、何か、嫌な予感がする」

アクアが小さな声でつぶやく。


「お前の予感なんていつも当たらないけどな……今回は、当たりそうな気がするな」

カズマも同様に、胸騒ぎを感じていた。


「カズマ、ここで休むのは危険だ。どこか安全な場所で一度体勢を立て直すべきだ」

ダクネスが真剣な声で進言する。


「確かにそうだな。宿に戻って一度作戦を練り直そう」

カズマは同意し、彼らは一行で宿に向かって歩き出した。


しかし、その途中で突然、辺りの空気が変わった。まるで、何か異質な存在が接近してくるような感覚に包まれる。背後に冷たい風が吹き、誰もがその場で足を止めた。


「これは……まずいわよ!」

アクアが真っ青な顔で叫ぶ。彼女の聖職者としての感覚が何かを察知していた。


「カズマ、何かが来る……」

ダクネスが盾を構え、臨戦態勢に入る。


「この感じ……まさか、もう奴が動き出したのか?」

カズマは恐る恐る後ろを振り返った。


その瞬間、温泉街の遠くにある山の上から、黒い霧のようなものが渦を巻いているのが見えた。その霧はどんどんと膨れ上がり、まるで生き物のように蠢いている。


「カズマ、あれは……!」

めぐみんが指を差しながら驚愕の表情を浮かべた。


「間違いない……災厄の王が動き出したんだ!」

カズマの声が震えた。まだ直接姿を現してはいないものの、その存在感は圧倒的で、彼らを窒息させるような威圧感が漂っていた。


「こんなところで対峙するなんて、まだ準備ができてないぞ……どうする?」

カズマは焦りながらも、冷静さを保とうと必死だった。


「……一度引くべきだ」

ダクネスが短く答えた。全員が同意するように頷き、彼らは全力で宿に向かって走り出した。


宿に戻ったカズマたちは、急いで身の回りを整理し、次なる行動に備えることにした。彼らの心は焦燥感で満たされていたが、同時に戦わなければならないという覚悟が生まれていた。


「これまで何度も危機に直面してきたが、今回は違う。災厄の王との決戦が迫っている」

カズマは宿の一室で仲間たちに語りかけた。


「でも、あの杖の力もまだ完全に使いこなせていないんだろ? どうやって戦うつもりなの?」

アクアが不安そうに尋ねる。


「そのためには、この杖の真の力を解放する必要がある。どうやら、俺たちだけじゃなくて、誰かの助けが必要なのかもしれない」

カズマはそう言って、杖を見つめた。


「誰かの助け?」

めぐみんが疑問を口にする。


「そうだ。さっきの洞窟の中で何かを感じたんだ。もしかすると、災厄の王に対抗するために、この杖には何か他の存在の力を引き出す役割があるのかもしれない」

カズマは自分の考えを整理しながら、杖をじっと見つめ続けた。


「……それなら、どうするの?」

ダクネスがカズマに問いかける。


「おそらく、この温泉街にはその秘密を解く手がかりがあるはずだ。伝説の秘宝ってのは、単なる武器じゃない。もっと深い意味があるはずだ」

カズマは決意を固め、次の行動を提案した。


「よし、今から温泉街の中を調べてみよう。何か手がかりが見つかるかもしれない」


カズマたちは宿を後にし、温泉街の中を探索し始めた。街は夜の静けさに包まれていたが、その静寂の中に潜む異様な気配が漂っていた。人々はすでに家に籠り、街はほとんど無人の状態になっていた。


「ここで何かを見つけないと、俺たちは次に進めない……」

カズマは焦りを押し殺しながら、一歩一歩慎重に進んでいった。


その時、街の奥から一人の老人がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。彼は古びた杖をつき、深い皺に覆われた顔で彼らを見つめていた。


「……君たちが、伝説の秘宝を手に入れた者か?」


老人の言葉に、カズマたちは足を止めた。彼の目には、何かを知っている確信の光が宿っていた。


「やはり、君たちが来たか。さあ、災厄の王と戦う準備をしなければならない。そのために……真実を教えてやろう」


カズマたちは緊張感を漂わせながら、老人の言葉に耳を傾けた。

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