第5話:「作戦会議? それより温泉でリフレッシュしたいんだが」

森の奥にある一角。カズマたちは何とか「災厄の王」から逃げ切り、ひとまず腰を下ろして息を整えていた。


「はぁ……なんとか逃げられたな」


カズマは大きく息を吐き出し、木の幹に背中を預ける。彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。そりゃそうだ、今までで最も強大な敵を相手にし、エクスプロージョンですら効果が薄かったのだから。


「カズマさん! 私のエクスプロージョンが効かないなんてあり得ませんよ! あの敵、一体どうなっているんですか!?」


めぐみんが真っ赤な顔で詰め寄るが、カズマは手を上げて制した。


「落ち着け、めぐみん。俺だって信じられないが、現実に起きたことを受け入れなきゃならない。とにかく、今の俺たちの手には負えないことは確かだ」


「でも、カズマ……どうすればいいんだ?」

ダクネスは沈んだ声で問いかける。彼女もまた、自分の役割にプライドを持っているだけに、今の敗北が心に響いているようだ。


「とにかく一旦作戦を練り直すしかない。無策で突っ込むのはさすがに無謀すぎる」

カズマは少し考え込んでから、何かを思い出したように指を鳴らした。


「まず、アクア。お前の神聖魔法がほとんど効かなかったってことは、あの災厄の王は普通のアンデッドじゃない可能性が高い。何か違うタイプの魔物かもしれない」


「そうなの!? えぇ、神聖な力が効かないなんて、あり得ないと思ってたけど……」

アクアは焦った顔で、次々と自分の能力を疑い始める。だが、カズマは冷静に続ける。


「いや、お前の力が無能だって意味じゃない。単純に相手が格上だっただけだ」


「ほっ……それなら良いけど」


アクアは安堵の息をつき、カズマの冷静な分析を黙って聞いていた。


「とにかく、奴を倒すには新しい手段が必要だ。めぐみんのエクスプロージョンやアクアの神聖魔法が通じないなら、普通に戦うのは無理だ」


カズマは木の枝を拾い、地面に作戦のラフスケッチを描き始める。しかし、その瞬間、何やら思いついたような顔をして立ち上がった。


「そうだ! 俺たち、魔法のアイテムを使うべきだ!」


「魔法のアイテム……ですか?」


「そうだよ。アクセルにはたくさんの強力なアイテムが眠っている。それを使えば、あの化け物相手でも勝機が見えるかもしれない」


「なるほど……確かに、ギルドで時々強力なアイテムの話を聞いたことがありますが、そんな簡単に手に入るものなんでしょうか?」


アクアが首をかしげるが、カズマはニヤリと笑った。


「普通なら無理かもしれないが、俺たちはこういう時こそ運が良いんだ。しかもアクアは元女神だろ? そういう類のアイテムに関しては感知できたりしないのか?」


「ふふん! その通り! 実は私には神聖な力でアイテムを探知する能力があるんですよ! カズマ、よくぞ気づきましたね!」


アクアは得意げに胸を張るが、カズマは内心で「本当に信じていいのか?」と思いつつも、その場は何とか納得した。


「じゃあ、アクアに頼んでアイテムを探してもらおう。それから、俺たちはもう一度戦う準備を整える」


「……けどさ、今すぐにってわけにはいかないよね?」

めぐみんが疲れた表情でカズマを見つめる。彼女はエクスプロージョンを使った後の疲労で、まだ完全には回復していない。


「うん、確かにまずは休むのが優先だな。俺たちも体力を回復しないと、次の戦いに勝てるわけがない」

カズマは深く頷き、少し考え込む。


「そうだ……いっそのこと、温泉に行こうか?」


「ええっ!? こんな緊急事態に温泉ですって!?」

めぐみんが驚きの声を上げたが、カズマは意外と真剣な表情を崩さない。


「いや、考えてみろよ。俺たちの疲れはただの体力的なものじゃない。精神的にもかなり追い詰められてるだろ? 温泉でリフレッシュすれば、次の戦いにも集中できるはずだ」


「確かに……それも一理あるわね。温泉の神聖な力で回復できるかもしれないし」

アクアはすぐに賛成の意を示した。


「よし、決まりだ! これから温泉街に向かって、全力で癒されるぞ!」


カズマの提案に全員が納得し、次なる目的地は決定した。彼らはひとまず休息を取るため、温泉街へと向かうことになった。


温泉街への道中、カズマたちは穏やかな時間を過ごしていた。周囲の景色も美しく、疲れた心を少しずつ癒してくれる。


「ねぇカズマ、温泉に着いたらまず何する?」

アクアが嬉しそうにカズマに話しかける。


「そりゃ、まずは露天風呂に直行だろ? のんびり浸かって、飯を食って、また風呂に入る。完璧な計画だ」


「ふふ、楽しみね。温泉の神秘的な力で、私たち全員がさらに強くなるかもしれないわよ!」


「いやいや、温泉ってそんな効果あるもんじゃないだろ……」

カズマは呆れつつも、彼自身も温泉でリラックスしたい気持ちは同じだった。


その時、ふとダクネスが真剣な顔で口を開いた。


「カズマ、確かに温泉でリフレッシュするのも良いが、次に備えて装備の整備もしないとな。あの王は本当に強力だ。普通の鎧じゃ持たない」


「お、おう。そうだな……って、あれ、ダクネス、ちょっと真面目すぎないか?」

カズマが疑問に思うほど、ダクネスの様子は普段よりも真剣だった。


「……私はあの時、本当に無力だった。あんな化け物相手に、私がただの盾役でしかないなんて、悔しいんだ」


ダクネスの真剣な言葉に、カズマは少し驚く。普段は無茶ばかりする彼女が、こんなに悔しさを感じているとは思わなかったのだ。


「……まぁ、そうだな。確かにあの王は強敵だ。だからこそ、俺たちも次はもっと慎重に、そして効果的に戦う方法を見つけないと」


カズマはダクネスに向かって優しく笑った。


「でも、今はとにかく温泉だ。リフレッシュしてからじゃないと、いいアイディアなんて浮かばないぞ」


「ふふ……そうだな」

ダクネスも少し微笑み、チーム全員が再び和やかな雰囲気に包まれた。



ようやく温泉街に到着したカズマたちは、さっそく宿を探し始めた。その途中で、ふと見慣れない男が彼らに近づいてきた。


「おや、君たちは冒険者かい?」


男は怪しげな笑みを浮かべていたが、どこかただならぬ雰囲気を醸し出していた。


「何か用か?」

カズマは警戒しつつも、その男を観察する。


「いや、特に怪しい者ではないさ。だが、君たちが探しているものに心当たりがあるかもしれないと思ってね」


男の言葉にカズマたちは驚きの表情を見せる。


「まさか……魔法のアイテムのことか!?」

カズマは思わず問い返す。


「ふふ、そうだとも。この温泉街には、かつて勇者が残したと言われる伝説の秘宝が眠っている。興味があるなら、教えてやらなくもないが……」


「ちょっと待てよ。そんな話が簡単に転がってるわけ……」


カズマが話を続けようとしたその時、めぐみんが口を挟んだ。


「その話……本当なら、私たちがそれを手に入れるしかないわね!」


「いやいや、落ち着けめぐみん。まずはこの男の話をよく聞いてからだ」

カズマは焦りながらも、次の展開を慎重に見極めようとしていた。

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