ツンデレ社長は落としたい

瑞口 眞央

迂回

第1話

いつもなら渋滞することなどない場所で、突然流れの止まった高速道路の前方遠くを、東堂煌佑こうすけは静かな面持ちで眺めた。


 総合商社ライズの専務という立場からか、年齢の割には落ち着いていて実際よりは上に見られることが多い彼は、この不測の事態に毒づくこともなく相も変らぬ無表情さを崩さない。


 一向に車列の動きそうにない気配に、運転席の藤澤悠汯ゆうこうはシフトレバーをパーキングにしてブレーキに掛けた足を外した。


 スマートフォンで道路交通情報を検索する。


「事故のようですね」

 煌佑のやや小さな虹彩の目は独特の謎めいた印象を与え、そうでなくても感情を表に出さないようにと心がけている彼の近寄りがたさに拍車をかけている。


 その美しい横顔に向かって悠汯は検索結果を告げた。


「そうか」

 今日一日ハードなスケジュールをこなしてきて、さっさと帰宅したいところではあるがこればかりはどうしようもない。


 陽が落ちて次第に空は明るさを失っていく。悠汯はスモールだけを灯して車列の動きを待った。


「次のインターで下道したに降りよう」

 ちらりと視線を悠汯に向けて、煌佑は言った。


「はい」

 どちらかというとシャープな印象に寄っている悠汯の、端正な顔立ちの切れ長の目が煌佑の視線を受け止め、短く答えた。


 しばらくすると遥か前方で、テールライトの赤い色が明るさを変化させ始めた。遅々とした移動が起こる。


 悠汯は再びブレーキを踏み、シフトレバーをドライブに入れた。

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