神様だって初心者マニュアルが欲しい

サクラ

第一話



≪作者都合により、しばらく連載中止となります。再開まで今しばらくお待ちください。≫



「あ~~~、ちくしょうまたかよ。俺が好きな先生たちの作品が次々に連載中止になりやがる。やっぱりコミカライズとかアニメ化とかまでいっちまうと、忙しすぎて体調悪くなっちまうんかな。」


活字中毒ともいえる俺、森 健介(もりけんすけ)38歳、独身、病院の医療事務という裏方仕事を平日に行い、休日は小説や漫画を読み漁る、浅いオタク系男子。

38歳で男子とか言うな?

うるせっ。

嫁も子供もいなけりゃ 男子でいいんだよ。

あ、別に魔法使いになれそうなアラフォーという訳ではない。ちゃんと使用済みだ。


元々本を読むのは好きで、小学生の時に赤川〇郎先生の《三毛猫シリーズ》を読んでから小説にハマった。

その後 高校生になり 赤川と浅田を間違えて借りた《プ〇ズンホテル》を読んで、浅田ファンにもなり、時代小説にもハマることになってしまった。

俺の浅い新選組知識は 浅田先生の小説だけで出来ていると言っても過言ではない。


ミステリーにホラー、グリム系、青春、SF、経済系等々、節操無と言われても仕方がないが、いろんなジャンルを読んだ。

恋愛小説は現代ものでなければ読めるが、現代ものだと自分に当てはめてしまって どうにも感情移入が出来ずに読み切ることが出来ずに苦手分野になってしまった。


子供の頃は図書館や貸本屋で本を借りて読んでいたけど、高校を卒業する頃にマンガ喫茶と呼ばれるものが出来た。

漫画は週刊少年系の雑誌を友達と回し読みしていたくらいで、文字数のわりに話の進みが遅く、単価が高いと思っていたから 買うことはなかったが、マンガ喫茶なる物が出来たせいでそちらの道にも踏み込んでしまった。


小説では想像しか出来なかったSF世界観や、ホラーのグロイ絵を見ることが出来たのは、その後の小説を読むときの参考になった。

やはり単価は高いため 購入することはなかったものの、コミックはマンガ喫茶で、小説は購入してブック〇フに販売する。という風にしていた。


十数年前に読書仲間の一人から ライトノベルを紹介された。

どうにもオタクというイメージが強くて避けていたライトノベルだったが、PCで本を読むという事を覚えた頃でもあった為、ついつい好奇心で読んでしまった。


ファンタジーなど、と馬鹿にしていた俺は自分を殴りたくなった。

特に無料で読める《にゃろう系》や《マルヨム》、《ベータポリス》などは 今でもお世話になっている。

短編から長編まで、様々な分野が乱立する無料小説は、素人も多くて とてもじゃないけど読めないようなものも多くあった。

誤字脱字が多いだけでなく、1話目と2話目で人の名前が違うとか、生まれていきなり言葉を喋るとか(お釈迦様が「天上天下唯我独尊」と言ったというのは物語だ)そんな作品も多くあるものの、中にはプロの作家としか思えないような作品もある。


勿論、気になった作家はお気に入りに登録し、過去作なども読んでみる。

投稿日時が古い順に読めば、粗削りからどんどん研ぎ澄まされて行くのが目に見え、全く関係ない作家さんなのに『成長したな』なんてどこから目線だと突っ込まれそうな感想を持つ。


そうなってくると フォロワーが1ケタ台の作者の作品も 第1話は必ずと言っていいほど読むようになった。第5話くらいまでは 余程でなければ読む。

5話までで面白そうならお気に入りに登録し、その後を見守るのだ。

段々フォロワーが増え、作品に〈いいね〉が押されるようになると、親のような気分で嬉しくなる。

『俺はフォロワーが居なかったときから応援してたんだぞ。』

そんな気分になれるのは、書店で並んでいる作家には抱くことが出来なかった感情だ。



そうして応援していた作品が、書籍化されるとなれば涙ながらに作家へメッセージを贈り、電子書籍でしか読めない特典の為に書籍を購入する。

申し訳ないがグッズなどには興味がないし、作家に印税が入るならまだしも多分違うから購入しない。


コミカライズ化されると驚くほどに内容が激変する作品がある。

アレは何なのだろうか。作家自身が許可をしているなら良いのだが、更にアニメ化されるともっと改変され、何故かハーレム化してしまう事が多い。

主人公の苦しい成長過程こそ、その後の物語の展開に於いての大切な要素なのに、そこがスッパリ切り取られ、≪そして〇歳になった≫とかナレーションだけが流れた時、どんな顔して見ればいいか分からなくてテレビを消した事も何度もある。


そして書籍化されても無料サイトの更新を続けてくれる作家には頭が上がらない。大概の作家は副業で小説を書いており、本業や家業の合間に書いている。

書籍化されれば校正され、読みやすくなるように多少文章の変更もある。

時には後半で仲間になった人の伏線が追加されることもある。

その変化がどこなのか、何故変更されたのかを見たいがために、書籍購入後もサイトの小説を読み直す私としては、消さずにそのまま更新してくれるのは非常にありがたい。


だが、忙しさは想像以上の筈である。

小説一本を本業にすればいけるのかもしれないが、ラノベ作家乱世とも言えるこの時代、それは博打でしかないだろう。

出版社との打ち合わせ、文章の変更、書籍化の為の特別短編の作成、コミカライズなどがあればさらにそちらもチェックが必要なのかもしれない。

そんな中でも1週間に1度などの頻度で更新してくれるのはまさに神!


それなのに 時々愚民が『誤字報告です ○○は△△ではないでしょうか?』とかコメント欄に書いてることがある。

無料のサイトで誤字報告とか要らねえんだよ。と不要なコメントに苛つく。

書籍化されたら 校閲、校正の担当者がチェックしてんだよ。誤字は自分の脳内変換で読みやがれ!と思う次第。

コメント欄は応援と 感想を書く場所であって、文句を言うなら読まなけりゃいい。

無料で読んでおいて『文章力がありません』とか『ありきたりで結末が見えますね』とか要らねえんだよ!と思う。

だったら自分で書いてみろ!と言いたい。



今までいろんな作家さんの小説を読んできたけど、ファンレターを出そうと思った事などは一度もない。書籍の販売店でのサイン会は何度か行ったことがあるが、それだけだ。

だが、ラノベのサイトでは作家に直接メッセージが送れる。感想や応援のコメントだけでなくメッセージを送れるというのは凄いと思う。


〖お忙しい中いつも執筆活動をなさっているのを応援しています。連載中止は残念ですが、先生のご体調が万全になられ 再開されるのを楽しみにしております。〗


「ポチッとな。あぁ~、本当に元気になって早く続きが読めます様に!」


活動休止となってしまった先生のページからメッセージのボタンを押して入力する。

続けて別の作家さんの作品を覗きに行く。更新欄に上がってこないから更新されていないのは分かっているけど、もしかしたらという事もあるかもしれない。



≪この連載作品は未完結のまま約半年以上の間、更新されていません。

今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。≫


「はぁ~、やっぱり更新されてないよな。」

先生の活動報告を見ても、4か月前を最後に更新がない。

サイトの話数に全く追いついていないにもかかわらず 書籍化も止まっているという事は、作者が書くことが出来ない状態なのだろう。


応援している作者がこの1年で立て続けに5人も活動休止となっているのは寂しいし心配だ。



◆◇◆◇◆◇



2月7日 金曜の夜、締め日と週末が重なった今日は地獄だった。

俺の勤務する個人病院では、月末から翌月10日までにやるレセプト業務があるのだが、明日から3連休で10日が月曜祝日、うっかり見落としていた事務長のせいで、今日になってバタバタ残業する羽目になった。

皆で必死に入力ミスがないか確認してんのに「今日は結婚記念日だからワイフの為にも 帰るよ。皆 申し訳ないね」とか言いながら17時ぴったりで帰りやがった。


なぁにがワイフだ。お前が帰るのはダッチワイフの方だろうが!

全員が知ってる事務長の愛人の存在。知られている事を知らないのは本人だけだ。

ワイフだって愛人の存在は知っているし、既に離婚秒読みだと これも本人以外が知っている。

今日の事もきっとうちの女子社員たちからワイフに告げ口されるだろうよ。

いてもPCが苦手で役に立たない事務長だから いなくていいんだが、 自分のミスを棚上げして帰るのが殺処分案件だ。

精々二人揃って多額の慰謝料請求されてヒーヒー言いやがれ。



いつもは巻き髪やネイルの事ばかりを気にしている受付嬢も、彼女たちに好かれようと話題のお菓子を差し入れする事ばかりを考えてる男性事務員も、全員が一体となってやり切った。

副事務長が最終確認をしてくれて、全員に缶コーヒーを差し入れしてくれた。


「みんなお疲れ様、私もうっかりして三連休の最終日が10日だと見落としていたわ。ごめんなさい。

明日からゆっくり過ごして頂戴ね。」


この人が次の事務長になるのはほぼ決定だ。

というか、今も実際に事務長的な仕事をしているのはこの人で、高齢の院長先生の遠縁と言うだけで縁故就職をしていた事務長は、院長先生が引退するのと同時にクビとなる。

新しい院長が来るのは4月から。つまり事務長はあと1か月半の命だ。

ワイフから離婚届を突き出されるのもその頃だろう。あいつのXデーはもうすぐだ。


皆でコーヒーを飲んだら 数名は飲みに行くと言ってたが、俺はもう疲れたし、早く帰って眠りたい。

とりあえずコンビニで今日の夕飯を購入して家に帰る。


「森様 おかえりなさいませ。本日お預かりの商品はございません。」

「あぁ、ありがとう。明日は10時くらいにアメゾンから2つくらい商品が届くから、おねがいします。」

「畏まりました。午前10時でございますね。到着いたしましたらお部屋へお届けいたします。」


アラフォー独身、趣味はネット小説。使う金は電子書籍のみ。酒も飲まない、自炊はほとんどしないが、普段は近所のオリジナル弁当屋の惣菜を買っている。

健全な生活だから そこそこ良いマンションに住むこともできている。

コンシェルジュ常駐のマンションは 宅配の受け取りもしてくれるので非常に重宝している。

エレベーターで3階まで上がり、2DKの小さな自分の城に帰宅。


「はぁ~~~~、つっかれた。

クソ事務長、はやく “ざまぁ” されりゃいいのに、マジで……って、えっ?なに?ちょっ!」


コートも脱がずにコンビニの袋をテーブルに置き、とりあえずソファへどっかり座り込んだところで急に眩しい光に包まれる。

は?テレビまだつけてねえよな?

え?気付かなかったけど、どっかで大爆発とか起きて巻き込まれてる?

ってかこれって走馬灯的なアレ?こんなにゆっくり物事考えられるもの?


強い光はクルクルと回り始め、目が開けられない。

身体が浮かぶような一瞬の浮遊感の後、どこかにふわりと尻もちをついた。



「ようこそ~!待ってたよ!」


目を閉じていても明るいのは分かるので、まだ目を開けないでいたら、何やら声が聞こえる。

もしかしたら近所で花火かなんかをやってたとかか?

花火大会にしては帰宅時間が22時越えてたからあり得ない気がするけど。


「ねぇ、聞いてる?」


そんな事を考えていたら、肩をトントンと誰かに叩かれる。

は?


「え?ダレ?」


一人暮らしの自宅で誰かに肩を叩かれるとか ホラーでしかない。

びっくりして目を開けたら 俺の目の前で白いワンピース? を着たクルクルパーマの天使みたいな少年が立っていた。

え、マジで誰?俺の周りに外人の知り合いはいないし、てか、ここ何処?

改めて周りも見れば、一面が白い場所で、目を閉じても明るかった理由が分かった。


「ようこそ~!待ってたよ!も~り~君で間違いないよね?」


目の前のクルクル天使が、さっき聞こえたのと同じ感じで ようこそと言った。あれは俺に言ってたのか。

両手を広げて、片足を少し前に出してようこそと言う姿は、千葉にある有名な遊園地にいるキャストのようだ。

そう思ってみれば、少年の恰好も制服なんだろうか。

天使を模しているようで、背中にはパタパタ動く羽まで付いている。


「凄いなこれ、どんな材質で出来てるんだ?」

「ちょっ!引っ張んないでよ。痛いんだからね!

てか、名前の確認してんだけどさ、も~り~君で合ってる?間違ってたら凄い困るんだけど。」


さっきから少年が言う《も~り~君》は俺が小説サイトで使っているユーザー名なんだが、それを言ってるのか?

というか、この羽めっちゃ肌触りが良いし、掴んだら痛いと怒られた。

痛いだと?そんな反応までリアルを徹底しているとは、子供に見えるけどプロのキャストだな?


「えっと、一部サイトにおいてその名前を使っているが、本名は森だ。

で、ようこそとはどういうことだ?俺は部屋にいた筈だが。」


いや、そうだよ。


「ここ何処だ?」

「うわぁ、やっとそれ?遅いよ。

も~り~君、ここに呼んだ人達の中で一番遅かったよ?大丈夫かなぁ。任せれるかなぁ。」


天使風の少年が何だか不穏な事を言ってるが、遅い?任せる?どういうことだ?

謎に答えてもらえないまま、天使風の少年に手を引かれて立ち上がらせられ、グイグイと引っ張られる。

見た目年齢 推定小学低学年くらいの少年なのに、何だこの力強さは。


白い場所は床一面に綿か風船のようなものが敷き詰められており、子供だったら跳ねまわって楽しめそうだ。ただ、大人の俺は非常に歩きにくい!


「こっちこっち、みんな待ってるんだよ。

おまたせ~!助っ人登場だよ!

も~り~君、知ってる人~!」


少年に連れてこられた場所にはノートPCに向かって仕事中の現場。

和やかな場所では全くなく、今夜の自分達の仕事場を思い出す。

男女5名の大人たちがPCで仕事をしており、その周囲には俺をここに連れて来た少年と同じ格好をした子供たちが お茶を入れたりお菓子を差し出したりしている。

そして、彼らのいる場所の中央には大きなジオラマ。

どこかの大陸なのか、海のようなものに囲まれた島のジオラマが置いてある。


俺を連れて来た少年の声に、5人の大人たちが顔を上げ「一人増えた」「これで少しは早く帰れるかも」という呟きが聞こえる。

どういうことだ?この5人のやっている仕事を俺が手伝う感じか?

PCスキルはそれなりに上げてきてるが、職種によっては門外漢だぞ?


「も、も~り~君……ですか? 

あ、あの【生まれ変わったら魔王だったので自由に生きます】はご存じでしょうか?」


フラフラしている女性が質問してきたのだが、勿論知っているさ。


「勿論知っているとも。改斗リンツ先生の2作目の作品で、俺が第1話からお気に入り登録した作品だ。3作目の【絶界の男】が書籍化されて 中々更新されなくなってしまった事を残念に思っているが、俺の中では先生の作品のイチオシだな。

君も先生のファンなのか? 先月から活動報告も止まってしまって 体調を崩されたのではないかと心配しているのだ。」


そう言ったら泣き崩れた女性、そんなにファンだったんだな。共に先生の回復を願おうではないか。


「あの、【転生したら集落だったけど どうしろって言うの】は?」


となりのイケメン男子が手を上げて聞いてきた。


「あぁ、勿論知っているさ。桜井君花先生の最新作だな。

今までは悪役令嬢モノをお書きだった先生が冒険者作品を書くことに驚いたが、主人公の少年の描写が素晴らしいと思った。

悪役令嬢の話でも、他作品ではモブとされる男性たちが イケメンだったり優しいだけではなく、生臭さもある男として描かれてはいたのが気に入っていたが、最新作では男主人公だからな。

苦労した少年時代を経て、これから冒険が始まるというところで掲載中止となってしまったのは非常に残念だが、きっと令嬢モノとの違いで悩んでいらっしゃるのだと思う。

是非構想が固まったら再開してくれることを望んでいるのだ。」


熱く語り過ぎただろうか。

イケメン男子はポカンとした顔のまま、固まってしまっている。


その後も3人から私が応援してやまない先生たちの作品を上げられ、其々の作品の感想を熱く述べた。彼らも相当好きらしく、話せば頷き 最初に声をかけてくれた女性のように涙する人までいた。

ここは本好きの集まる場所なのか?

だとしたら俺も少しは手伝えることがあるかもしれないな。


「少年よ、それで俺はここで何を手伝えばいいんだ?」


「も~り~君には 彼らと同じように 僕らの世界を作る手伝いをしてもらいたいんだよね。」

「そうそう、ぼくらの世界、作ったのは良いんだけどうまくいかないんだよね。神様実習が終わって 僕たちでチームを組んで 初めて作ったんだけど、星自体は上手く作れたのに中の生き物が駄目なんだよね。」

「色んな星の先輩たちの強そうなのを集めたら、全部が喧嘩して 星が潰れそうになったから一回リセットしたんだよね。」

「そうそう、だからちょっと海が広がっちゃったし、島が出来ちゃったんだよね。

まあでも、一番のお手本でもあるチキュウだって海が多いし、島もいっぱいだから丁度良いかもって思ってるんだよね。」

「うん、それでチキュウで上手にお話作れる人達に集まってもらって、僕たちの星に住む奴らを作ってもらってるの。」

「一気に連れてきたらチキュウの神様にバレちゃうでしょ?だから少しずつずらしながら連れてきてたんだけど、みんな疲れたって言うし、6人目を連れて来ようってなって、君が選ばれたわけ。」


天使風の子供たちが順番に話すのだが、これは冗談とかではないのか?

キャストが何かを演じているという訳ではないのか?



「この子供達に見えるのは神様実習を終えた、 私たちから見れば神と同じ相手ですよ。

まあ、彼らの世界では研修中の神様見習いらしいのですが……。」

「ええ、そこのジオラマが彼らのいう 作った世界です。

よく見てみてください。側にあるオペラグラスを使えば人の営みも見えますよ。」

「僕達はここでラノベ小説を書いているのです。

ただ一つ違うのは、ここで書いた事は そのジオラマの先にある世界で実現するという事。」

「そうなのです、戦争が起きると書けば 戦になりますし、魔王が現れると書けば魔王が出現してしまうのです。」

「全く違う物語を書くというのではなく、我々はこの世界を舞台に 物語を作り上げているのです。」


今度は大人たちが お茶を飲みながら一息ついて説明してくれる。

二人目のイケメンに言われたので、ジオラマをじっくり見れば 海は波打っているし 山に見える辺りには鳥か何かが飛んでいるのも見える。

オペラグラスを手に取って覗けば、鳥だと思ったのはドラゴンで、とても小さなゴマ粒に見えたのは人で、ドラゴンに向けて攻撃をしているようだ。


「僕たちはジャンルも多少違いますが、同じラノベ作家なのです。

今書く必要のある作品は、最終話の〆は決まっており《平和に暮らしましたとさ》で終わらせる予定なのです。

神々はある程度の紆余曲折をご覧になりたいそうですが、この世界を壊したくないというのが一番の目標ですので……。」


「ええ、小橋口響也先生は この世界での中心にある王国を中心とした冒険者の物語を執筆中で、私、改斗リンツは大陸を挟んだ海に浮かぶ孤島でうまれた心優しき魔王の物語を書いております。」


「僕、桜井君花は隣の王国で悪役令嬢活躍系の物語を書いていて、王国と周囲3ヶ国の貿易協定を結び、大陸での戦争を無くす予定です。」


「私 剛力アダメは大陸中を横断する商人が、海賊たちとも仲間になる物語を書いているので、魔王の住む孤島も繋がりを持てるようになるはずです。」


「最後に私が 神々だけでなく 精霊たちとの友好な関係を築けるように 精霊王と神子姫の物語を書いています。私の作家名は……。」


「プルプルパインって可愛いのに、絶対言いたがらないよね。」


俺の後ろに大人たちがやってきて、ジオラマの場所を示しながら教えてくれる。

自分たちの作家名を名乗りながら……。

まさか、俺が応援していた先生たちが休止になっていたのは、ココにいたからなのか?

そして、先生に描いていたイメージが全く違ったのも驚きだったが、なにより聞いた話が驚きすぎて何も反応が出来ない。


「もしかして……。

もしかしてだけど、ここは異世界ということなのか?」

「も~り~君、今更~????遅い!遅すぎるよ!?」


掠れる声でプルプルパイン先生の名を呼んだ天使に聞いたら心底呆れた顔をされたが、そんな事はどうでもいい!


「先生たちはお亡くなりになっているという事なのか?俺は良い、別に何かを残す相手もいないから。ただ先生たちは待っている読者もいるんだぞ!」


肩を掴んでユサユサしながら問い質す。

こいつらの意味不明なお願いのせいで、将来有望な先生たちが無理やり転生させられたなど許せないだろう!


「うえぇ、ちょっ、キボヂ、ワルイ、ンダケド」

「も~り~君ストップ~!」


二人掛かりで天使に止められた。


「彼らは死んでないって、流石に他の神様の星から勝手に連れて来ただけじゃなくて魂まで持ってきたなんて怒られるじゃすまないもん。」

「そうそう、彼らは今仮眠中みたいなもんだと思う。ちゃんと死なないようにしてるから安心して。」

「あっちでの時間と此処の時間はずれてるし、半分くらいの時間しか経ってない筈だから。」

「そそ、物語が《平和に暮らしました》まで終わったら帰れるんだから。」


天使たちが慌てて弁明してくるが、実際彼方で休止になっている時間がある事を思えば、先生たちはやはり動けない状態になっているのは間違いないのだろう。

肉体は彼方にあるが、仮死状態という事なのだろうか。

という事は俺もそうなっているのか?

なんてことだ。明日くるアメゾンの荷物も受け取れないし、連休明けに仕事も休むことになる。

クソ事務長のXデーどころの話じゃない。


というか、ちょっと待て、ここにいる5人はラノベ作家で、書籍化するほどの腕がある先生たちだ。

その5人の作家が描いているこの世界。


「おい、俺は読む事は好きだが 物語を書いた事などないぞ?」


はじめに呟かれた「人が増えた」と「帰れる」は作家増員と思ってのことだったのではないか?


「あぁ、作家がこれ以上増えても世界観がズレちゃうからね。彼らの希望で 物語に齟齬がないか、うまくつながるかの確認をしてくれる人を増やしてほしいって言われたんだよね。」

「そうそう、物語の流れを的確に読み込んで、多分こうなるって言う予想もできる人。」

「君って 自分のブログっていうの?それで読んだ本の感想とか書いてたんでしょ?」


……感想とコメント欄には 応援しか書かないのがファンとしてのお作法だと思ってやっていたが、やはり持論での物語の予想などはある訳で、そういったものはブログで思いの丈を書いていた。

その予想が当たれば嬉しいし、外れても嬉しいのだが、まさかそれを知られているとは。

チラリと先生たちを見れば、大きく頷きながら微笑んでいらっしゃる。


「あの予想を見て よく読み込んでくれているなと思ったし、裏設定になりそうなことは鍵をかけて書いてたでしょう?その辺りの配慮も素晴らしいと思ったんです。

実際 あの予想を読んで 変更した部分もあったんですよ。」


先生の発言に目頭が熱くなる。

本人に読まれていた恥ずかしさよりも、直レスを頂けた喜びと、まさかの予想に合わせてくれたという驚きで胸がいっぱいだ。


「我々は書くことは出来ても 他の作品を読みながら合わせることは出来ないのです。

神々のご要望を聞いていると、纏まる物も纏まらなくなりますし……。」

「そうなのです、なので読むのも早くて、読解力もあり、予想も立ててくれる人を希望したのです。」

「僕たちのデビュー当時から応援してくださっている人の共通読者が、も~り~君 あなただったのです。」


先生たちに肩をポンポンと叩かれ、俺のやるべき仕事が分かった。


「僕たちはこれ以上口出しするなって言われてるからさぁ。も~り~君 お願いね~。

君の席はそこね。彼らの今書いている物語が始まるのは この砂時計の砂が落ちた時からね。体感で1か月後ってとこかな。よろしくね~。」



神々ってやつは、本当に勝手な生き物なんだな。

ラノベあるあるではあるが、まさか異世界転生でもなく、召喚とかでもなく、異世界製作の裏方とはな。

人生何があるか分からんな。


「では、先生方の作品をしっかり確認させていただきます。どうぞ、宜しくお願い致します。」


「「「「「よろしく~」」」」」


こうして読専の俺と作家先生たちによる大変すぎる作業が始まった。





※続きませんwww

このジオラマの世界が【ヒロ退】の世界とつながっているかはご想像にお任せいたします

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