02 姉がブラコン過ぎて
俺は基本的に、家に帰る時は階段を使う。
駅のすぐ近くにあるマンションの6階に住む俺は、家を出る時はエレベーター、家に帰る時は階段、というルーティンを日々こなしているわけだ。
「おっかえりー!」
ドアを開けた俺は柔らかいものに包まれた。
姉さんの胸だ。
ここ数日でさらに大きくなったような気がする。
「呼吸できないから、ちょっと離して」
「嘘だぁ。お姉ちゃんの胸、まだそんなに大きくないから」
「少なくとも昨日よりはでかい」
「そんなことまでわかるの? もう、秋くんったらシ・ス・コ・ン」
簡潔に言えば、ひとつ上の姉、
俺が腕に力を込めて離れようとしたら、Dカップの胸をさらに強く押し当ててきた。ちなみに、Dカップ情報は聞いてもないのに本人が教えてくれた。
「母さんは?」
「仕事だって」
へぇ。
母さんのシフトは休日には入れてないはずだけど。
「ブラック企業だ」
「なんか今日はスペシャルサンデーだから人手が足りないんだって」
日曜に大型セールだなんて、大変そうだな。
レジ打ちに忙殺されているであろう母さんに祈りを捧げる。
「それじゃあ父さんは?」
「さあ? パチンコとか?」
「それで納得できてしまうのが最悪だな」
母さんも父さんもいないということは、今姉さんと家に2人きり。
正直、いつ押し倒されるかわからない状況である。貞操の危機だ。
とりあえず、筋トレの成果が出たと言えるだろう。姉さんを強引に引き剝がし、自分に部屋に入った。
「秋くんってば、乱暴なんだから」
と言って、鍵などない男子高生の部屋に堂々と侵入してくる現役JK。
姉さんは弟である俺から見ても綺麗だ。
小さい頃から美人だの可愛いだの言われてきているので、今更意識することでもない。
耳を覆い隠すくらいの長さのショートヘアで、顔立ちは人形のように整っている。美人な姉とは、まさにこの人のことをいう。
今日は白いラフなTシャツに、超絶短いショートパンツ。
瑞々しい生の美脚が光を反射して輝いている。
「姉さん」
「どうしたの? そういえば、ユウイタの続き買ってきてくれた?」
「もちろん。はいこれ」
斜め掛けのバッグからラノベを2冊取り出し、姉さんに手渡す。
姉さんは俺がデートに行ってきたということを知らない。
そもそも、俺に彼女がいる――いや、
本屋でじっくり本を選び、そのまま喫茶店によって読書して帰る、というおひとり様満喫プラン。
姉さんはすっかりそのプランに騙され、俺がデートに行くことを察知できなかった。
「姉さんって、男子が好きそうなやつばっかり読むよね」
「そりゃあそうでしょ? 秋くんが読むのなら、お姉ちゃんも読まないと駄目なんだよ」
「読まなかったらどうなるの?」
「死ぬよ、多分」
それは大変だ。
俺も読むラノベには気を付けよう。少なくとも、今日買った『勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい』の4巻と5巻に変なシーンはなかった
「秋くん、今日なんか悲しいことでもあった?」
「……なんでそれを?」
俺のベッドに横になり、やたらと匂いを嗅いでいる姉さんがニヤリを口角を上げた。
ていうか俺のベッド、臭いのかな?
「秋くんのことならだいたいわかるから。秋くんが悲しい時、お姉ちゃんも本能的に悲しくなるんだ」
姉さん、超能力者だ。
「別に悲しいわけじゃないけど、少し……落ち込んでるというか? 疲れてるというか?」
「大丈夫。自分のペースでいいから。お姉ちゃん死ぬまで待ってるよ」
流石に死ぬまでには何か話すから安心して。
「大したことじゃない。明日には忘れてると思うし」
そんなことはないだろうが、姉さんにいろいろと詮索されるのも御免だ。
これから読書でもして気を紛らわせようと思っている。
実際、想像よりは辛くないものだ、失恋って。
肩の荷が下りたような気もするし、きつく縛り付けていた鎖から解放されたような心地もする。
千冬は少々束縛が強い子だった。
俺が隣の席の
いい加減うんざりしていたのも事実。
元々、俺は自由でありながらも孤高な男だ。
世界中の海を渡って旅をしたいのに、千冬というひとつの港に囚われて船を動かすことができていなかった。
「いや、むしろ今の方が気が楽なのか?」
「秋くん……ひとりでブツブツ……やっぱり頭がおかしくなったんだね。大丈夫、頭がおかしくても、秋くんは世界で1番の弟だから」
独り言くらいで頭おかしい認定しないでほしい。
それなら姉さんや千冬は完全に狂人の域である。
「――え、あの、姉さん?」
今度は姉さんが俺をベッドに押し倒してきた。
それに抵抗しなかったのは、それだけ疲労が溜まっていたということ。
柔らかい女子の体が、自重トレーニングで鍛えた俺の体を包み込む。
ていうか今の状況、傍から見たらかなりヤバいのでは?
「秋くん、大丈夫。お姉ちゃんがキスしてあげるから」
「全然大丈夫じゃないんですが」
姉さんの美脚は俺の腰をがっちりホールドしている。細くて繊細な脚なのに、しっかり筋肉がついていて、いちいちエロい。
――って、我が姉にエロスを感じてどうする?
「ほら、何があったのか言いなさい」
「それは流石に――」
「言ってくれないなら、お姉ちゃんこのまま秋くんを襲っちゃうよ?」
始まった。
姉さんの二択は、いちいち理不尽過ぎる。
「わかった。話すから離して」
「え、今のダジャレ? もう、可愛いなぁ秋くんは」
あ、この人頭空っぽだ。
「実は……俺、彼女に振られたんだ」
「……秋……くん……?」
――あ、俺、殺される。
この瞬間、姉さんの瞳から光が消え、そして俺は死を覚悟した。
《次回3話 ファーストキスは奪われている》
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