モブキャラの僕が実は女子が噂しているヒーローな件

オリウス

第1話

 僕、影野かげの真守まもるはどこからどう見てもモブキャラだ。クラスの窓際の席に座りながら、ラノベを読んでいるようなそんなどこにでもいる地味なモブキャラ。顔だって特徴のない普通の顔だし、無個性が逆に個性だというぐらいの男だ。

 だからクラスメイトも僕の名前なんて知らないだろうし、僕に興味もないだろう。

 だけど、そんな僕には秘密があった――


 窓際の席で読書をしていると、教室が騒がしいことに気付く。見ると、学校一の美少女、姫宮ひめみや杏奈あんなさんを中心に輪ができていた。声が大きいからこちらにまで話声が聞こえてくる。


「今日怪人に襲われたんだけど、またゼロ様が助けてくれたの」


 興奮気味にそう話すのは学校一の美少女、姫宮杏奈さん。美しい桃色の髪に、小悪魔のような顔。それから大きな胸と、男の心を引き付ける美少女だ。実際、男子からは凄くモテるらしく、何度も告白されているところを目撃したという証言があるぐらいだ。だが、本人はその全ての告白を断っており、その理由について「好きな人がいるから」と言っているそうだが、彼女の好きな人が件のゼロ様だというのは周知の事実だった。


「ゼロ様やっぱりすっごくかっこいい。怪人に襲われてたらいつも助けてくれるし、その辺の男子とは違うわ」


 目をハートにしてそう語る彼女の話を、友人たちは笑顔で聞いている。

 姫宮杏奈は男女問わず人気者で、その明るい性格は周囲の人間を引き付ける。

 さっきから気になっていると思うが、僕たちの住むこの世界には怪人が存在する。怪人は可愛い女の子だけを狙う改造人間で、よく街に出没する。姫宮さんは群を抜いて可愛いから怪人を引き寄せてしまう。

 そしてそんな怪人から女の子たちを守っているのが、件のゼロだ。ゼロは正体不明の仮面を付けたヒーローで、全身を黒を基調とした衣装に身を包んでいる。


「ゼロ様のあの仮面の下はどんなお顔をしているのかしら」

「そりゃやっぱりめちゃくちゃイケメンなんじゃない」

「絶対そうよね。モテすぎて困るから顔を隠してるのよ」


 残念ながらゼロの仮面の下はイケメンではないし、なんならとてつもなく普通の顔だ。

 何を隠そう女子たちの噂の的であるゼロの正体は僕、影野真守なのだ。

 僕は普段はこんなモブキャラをやっているが、ヒーローの家系に生まれている。幼い頃からヒーローになる為に様々な訓練を積んだ結果、家族の中で最強のヒーローになってしまった。素質があったと父さんは言っていた。


「うちの男子じゃああはいかないものね」


 クラスの女子たちの言葉に、男子たちが背を縮める。

 男子たちが怪人たちに立ち向かえないのは無理もない。怪人は改造人間で力も人間の何倍もあるし、体も大きい。普通の人間では対処できないのは仕方がないだろう。

 僕だってヒーロースーツが無ければまともには戦えないだろう。それでも普通の男子たちよりは戦えるだろうけど。


「決めた。私、ゼロ様の正体を突き止める」


 姫宮さんがそう宣言すると、クラスメイトたちから歓声が上がる。誰にも正体を晒したことのないゼロの正体を突き止めると姫宮さんは言っている。まさか姫宮さんもこんな近くにその件のゼロがいるとは思わないだろう。しかもこんなモブキャラだとは夢にも思わないだろうし。

 でも、絶対に正体を悟られないようにしないとな。まあ、そんなへまはしないけどさ。ゼロの正体が僕だと知ったら、姫宮さんだけでなく全ての女の子の夢を壊してしまうだろうし。

 僕が仮面をつけているのにはそういう理由もある。女子の憧れのヒーローがこんな冴えないモブキャラとか夢が壊れるだろう。あとは単純に僕が恥ずかしいからだ。父さんたちは仮面をつけたりしてないから、これは完全に僕のエゴだ。

 僕がそう決意すると同時にチャイムが鳴る。先生が入ってきて姫宮さんのもとに集まっていた生徒たちはそれぞれ自分の席についた。


「今日は言ってたと思うけど、クラス委員を決めるわね」


 入学してからまだ日が浅い僕たちはまだクラスの諸々の役割が決まっていない。その中でもクラスをまとめるクラス委員を決めるのは重要だろう。


「それじゃ立候補ありますか」


 先生のその問い掛けに手は上がらない。


「立候補がいないならくじで決めるわね」


 そう言うと先生は穴の開いた箱を二つ取り出した。


「この中にくじが入っているから男女に分かれて引いていってね」


 先生の指示通り、全員がくじを引いていく。僕もみんなに倣ってくじを引いて開くと丸が書かれていた。


「嘘、だろ」


 まさかモブキャラの僕がクラス委員になってしまうとは。


「丸が書いてあった人は誰ですか」


 先生に言われて僕と姫宮さんが手を上げる。まさか姫宮さんとクラス委員をすることになるなんて。

 姫宮さんが僕のもとに近寄ってくる。


「よろしくね、えっと」

「影野です」

「うん、よろしく、影野くん」


 眩い笑顔を向けてくる姫宮さんに僕は思わず顔を背けた。

 絶対にこの子をがっかりさせたくない。僕は絶対に正体をバレないようしようと心に誓うのだった。


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