第56話

「……何か見えますか?」


「それが…残念ながら、ここからではマリウスのいる部屋が見えない。」


フェルナンさんは背伸びをし、さらに窓の中をのぞいた。




「ずいぶんと無作法な男だね。

人の家の中をのぞくなんてさ。」




急に聞こえて来たしゃがれた声に、私はびっくりして振り向いた。

そこには、さっきの魔法使いのおばあさんが立っていた。




「……す、すみません。」


「なぜ、こんなことをした?」


「実は……」




「フェルナン…なんで、ここに?」


フェルナンさんが話そうとした時、マリウスさんが外に出て来た。

それを見て、フェルナンさんはバツの悪そうな顔で苦笑した。




「なんだ、おぬしたちは知り合いか。」


「はい、実は、マリウスがあなたの所に行くと聞き…

ちょっと心配になって、様子を見に来たんです。」


「心配だと?

わしが、この男に何か危害でも加えると思ったのか?」


「いえ…そういうわけではないのですが…」


フェルナンさんは、言葉を濁した。




おばあさんはそんなフェルナンさんを見て、そのまま私に視線を移し…

私の腕のバングルを見て、目を丸くした。

それは、本当にすごくびっくりしたような顔だった。




「とにかく、皆、家の中へ…」


おばあさんはそう言って、私の背中を押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る