第12話 優しい、王子様
あの後、沙樹に嫌われてないか不安になったが気にする必要はなかったようで、むしろ少し距離が縮まった気がしていた。
(そういえば、今日だったな)
早乙女は、沙樹が好きな本の最新刊の発売日が今日だった思い出した。
沙樹の好きな本を読んでおけば、さらに仲良くなれるかもしれない。
早乙女は早速学校帰りに本屋へ向かった。
本屋でお目当ての本を探していると望月が声をかけてきた。
「早乙女君、偶然だね」
(こいつ…)
早乙女は警戒モードを発動させたが、望月は全く気にしている様子もない。
「早乙女くんのおすすめはどれ?」
「普段本読まねえならこれが読みやすい」
早乙女は昔読んだことある小説を呼び出した。
「えー、そうなんだー」
望月は妙に距離が近い。
早乙女は少し距離を置きながら、お目当ての本を探していると、懐かしい本が目に入った。
“王子様の大冒険”
小学生向けの小説だ。
沙樹に王子様って思ってほしくて、王子様の研究を始めた頃に母に買ってもらった本だ。
(懐かしいな)
思わず微笑んでしまう。
誰かの視線を感じる気がしたが、辺りを見回しても誰もいない。
気のせいだろう、早乙女はお目当ての小説を買って帰った。
神様、どうしてこうなったんですか。
早乙女は心の中で神に問うたが、答えが返ってくるわけもない。
(沙樹ちゃんに避けられてる)
図書館でも仕事は一緒にしてくれるが、目も合わせてくれない。
校門までいつも歩いて帰るのに、「今日は急いで帰らなきゃいけないから」と走って帰ってしまった。
胸が痛い。
沙樹のことがこれほど好きなのに、上手くいかない。
(沙樹ちゃんは僕のことどんな風に見えてるの?)
ため息をついて、空を見上げると一番星が輝いていた。
翌日には、沙樹がコンタクトから黒縁メガネに戻っている。
伏目がちで元気がない。
早乙女は理由がわからず、いつも通り過ごしながら考えを巡らすことしかできない。
図書委員の仕事も一緒にしてはいるが、淡々と仕事をこなしているだけだ。
「あの、早乙女君。放課後に屋上に来て欲しいんだけど」
突然、望月に呼び出された。
(告白スポットに呼び出して何するつもりだ…殴られるのか…)
早乙女は憂鬱な気持ちになったが、来いと言われた以上行くしかない。
行かなかったら何を言われるかわからない。
早乙女は約束の時間になると、屋上へ向かった。
扉を開けると、望月がすでに待っていた。
夕暮れで海が夕陽でキラキラと反射している。
夕陽のせいか望月の頬が赤い。
「あの、早乙女君…」
この瞬間に早乙女は理解した。
(あ、告白される)
「ちょっと待って」
早乙女は望月の言葉を制した。
「望月さんとは、仲の良いクラスメイトでいたいと思ってる。こんな不器用で無愛想な僕にたくさん話しかけてくれてありがとう」
真っ直ぐに気持ちを伝えようとしてくれてる望月に嘘はつけない。
王子様キャラも捨てて、本音で話した。
「…優しいね、早乙女くんは」
望月は涙を浮かべて屋上から去っていった。
そして振り返ると、入れ違いに立っていたのは
「沙樹ちゃん…」
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