第35話 歴史に記されぬ存在

 研究所


 「貴様らは何をしているんだ!!!どれだけ高い金を払ったと思っている!!?」

 『理解している。少々、邪魔が入ってな』


 研究所中でトサカ頭の男の怒鳴り声が響き渡っていた。数日前に研究所から逃げ出したとある研究サンプルを取り戻す為に八咫烏を通じて回収を依頼していた。


 「邪魔だと?貴様ら八咫烏機関はその道のプロだろうがそんな嘘が通じると思っているのか!?」

 『我々は嘘などつかん。今から送る男達二人の情報をよこせ』


 そう言った仮面の忍からスマホに二枚の写真が送られて来た。


 「この二人が貴様ら八咫烏機関を倒したと言うのか?」

 『そうだ』

 

 男はそれを聞いて腹を抱えて笑った。八咫烏機関は今や日本に限った話だが、裏の世界においてはトップクラスの暗殺成功率を誇る組織だ。それがこんな何処にでもいるような二人組に撤退されるまで追い込まれたと言う。


 「これが本当の話ならば、貴様らも地に落ちたものだな!」

 『・・・話はこれだけだ。その男達二人の情報を迅速に頼むぞ』

 「あ、おい待て!私の話はまだッ」


 最後まで話を聞かれずに通話を切られた男は手に持ったスマホを投げ捨てた。

 八咫烏機関といえど、現在の日本では暗殺する意外取り柄のない集団だ。それが一度、失敗したのならば価値はもうない。男は何かを閃いたのか今度は何らか装置に設置されていたマイクから何処かに連絡を入れ始めた。


 「私だ。成功例を一体放て。標的設定は・・・」


 ーー


黄昏荘


 忍の男を連れて帰ってきたカケルは、帰って早々に住民全員からダイと共にお叱りを受けた。

 その後、一ヶ月トイレ、風呂掃除を二人で分担してやっていく事を約束としてその場からは解放された。 どちらがどれくらいやるのかで殺し合いの戦いに発展し、黄昏荘をボロボロにしたのはまた別の話。

 リビングで早速、自分たちの目の前にいる忍の格好をした男が何者なのかを知るために話を聞く事となった。


 「拙者の名は砕蔵。砥石城城主、大石忠景様の元石鬼衆に所属し活動しております」

 「と、いし?どこだそれ???」

 「どこと言われもうしても、拙者もここが何処だがわからぬ故、説明ができんのです」

 「ここはネオ・アストラルシティっていう所だよ」

 「ねお?、あ、あす、な、何処ですかそこ?」

 「はぁ?知らねーのかよ!?」

 「ぜっんぜん知らぬ何だその名前は。そもそもここはどうなっている。白く長いものが多くあったり、拙者達忍に勝とも劣らない速さで走る何かなど面妖な物ばかり。・・・一体誰の領土だ!」


 カケルと黄昏荘の住民はネオ・アストラルシティさえ知らない砕蔵に驚き、更には聞いたことの無い城の名前や城主の名前などを出されて困惑していた。

 

 「お前まるでタイムスリップして来たみたいだな」

 「たいむ、すりっぷ?何ですかそれは?いやそれよりも我が主はどこでしょうか!」

 「待て待て!砥石城なんて聞いたことねぇし、大石忠景何て奴も知らねぇよ!」

 「馬鹿な!?一体全体どうなって・・・」


 頭を抱えその場でうずくまる砕蔵を見て、黄昏荘の面々は少し離れた場所で集まり砕蔵が何者なのかを話し合う事にした。


 「あれ何なんだよ」

 「知るかよお前らが持って来たんだろ」

 「困りましたねぇ」

 「でも今までの話全部嘘ついてない」

 「たく、金ヅルだと思ったら疫病神じゃねーかどうすんだよカケル」

 「それよりもお腹空いたyo」

 「・・・右に同じ」

 「はぁ、まぁ考えても仕方ないか。ご飯にするか」

 「お前も腹減ったんだろ」

 「うん」


 その後、砕蔵にも話をつけとりあえず今日のところは食事をしてここで寝る事にした。

 次の日からは早速、砕蔵のいたと言う城の情報を集める為にカケルとダイの二人は図書館に赴いていた。

 

 「くそ、あいつら俺達が連れて来たんだから俺達だけでやれって冷たい奴らだよ全く」


 図書館の歴史書や城の本などを一冊一冊、入念に調べながら既に八時間が経過していた。

 しかし砕蔵がいたと言う城の名前も城主の名前も何も出てこず、残り二冊となった。


 「はぁ。何も出てかねぇじゃんか。本当にあんのかよお前のその城」

 「無礼な!我が主も城もしっかりとこの目に焼きついておるッ・・・あ、れ?」


 やけ燃える城、叫ぶ人々、そして捕虜となり何処かへ連れてかれる美しい着物を着た女性・・・。

 脳裏に突然様々な光景が次々にフラッシュバックされていった。

 それが次々と浮かび上がっていった瞬間、砕蔵は頭を抱えながら倒れのたうちまわった。

 

 「ぐ、あぁぁ、がぁぁぁぁぁぉ!!?」

 「お、おい!大丈夫か!?」


 突然倒れた砕蔵に近づいたカケルは砕蔵の様子が尋常じゃない事に焦り直ぐに病院に連れて行こうと考え肩に腕を回し図書館を出た。

 砕蔵はその間もずっと頭を抑え何かを呟きながら苦しんでおり、近くに停車していたタクシーに乗りダイに連絡を入れて病院に向かった。

 

 ーー


 その後、病院で検査をしてもらった砕蔵は先生が言うには突然、昔の記憶が蘇った事によって混乱してしまっていたのだろうと言われた。ただし、その記憶についてはかなり凄惨なものだったのかも知れないと話していた。 

 病院で合流したカケルとダイの二人は砕蔵から少し離れた場所で話し合っていた。


 「どうもあいつ変だよな」

 「あぁ、昔の人が現代に転生した感じだな。・・・もしかしてそうなのか?」

 「現代転生ってか?馬鹿らしい」


 あながち間違ってないかも知れない。城の昔の名前なのかも知れないと思い歴史書などを調べていても出てこない名前を知っていたり、城の城主なんて現代には居ないはずなのにまるでいるように話をしていた。

 そうゆうことを考えるとあいつがもし本当に昔に生きた人物だと言うのなら少々強引かも知れないが辻褄が合う。


 「・・・城も城主も歴史に名前すら記載されないくらい小さかったのかも知れないな」

 「現代にすら残されなかったって事か」

 「あぁ、多分何処かの奴らと戦って何も残らず負けたとか・・・」

 「そんなはずはない!!!」


 怒鳴り声に驚いた二人が振り返るといつか間にか砕蔵が怒りを露わにしながら後ろに立っていた。


 「そんなはずはない!あの戦いは勝ったはずだ!絶対に負けてなどない!」

 「お、落ち着けよ。な?」

 「そ、そうだぜ。負けてても別にいいだろ」

 「慰めになってねぇよ馬鹿!」

 「・・・そうだ、この記憶は嘘なんだ。姫は助かったてる。直前で仲間達が助け出してくれたんだ。きっとそうだ。これは嘘だ」

 

 何かを繰り返しぶつぶつと呟く砕蔵を見て、二人は覚悟を決めて本当のことを話す事にした。

 後ろにでじゃんけんをして負けたダイが。


 「・・・な、なぁ、お前、あのよぉ、言いづらいんだけどよ、多分お前がいた領地、どっかの戦いでもう滅んッ」

 「黙れ!滅ぼされたなどおらぬ!我々はあの戦いに勝利したはずだ!」


 ダイの言葉を遮るように砕蔵は否定の言葉を繰り返した。何度も繰り返し言い続ける砕蔵にめんどくさがり始めていたダイをため息を吐きながら、カケルは肩を叩き後ろに下げた。


 「お前いい加減に現実を見やがれ。お前は負けて死んだんだよ。お前が住んでた領地だって、どっかの誰かに負けて全部奪われて滅んだんだよ。その証拠に歴史の本とかに、」

 「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 怒りによって我を忘れた砕蔵はカケルの胸ぐらを掴みながら壁にぶつけた。

 その音を聞いた病院内にいた人達は皆驚いて一斉にこちらを見た。


 「いい加減にせよ!貴様に我が領土の何がわかると言うのだ!!?我が領土は負けてはおらぬ!必ず、勝って天下を統一したはずだ!」

 「だったらテメェの国が歴史書に載ってねぇのはおかしいだつってんだろうがッ!!!」


 壁に押し付けられていたカケルは砕蔵の腹を蹴り飛ばし、今度は逆に倒れた砕蔵の上に乗り胸ぐらを掴んだ。


 「テメェらは負けたんだよ!現実を見やがれ!」

 「負けてはおらぬ!絶対に負けてなどおらぬ!!!」

 「お、おい!お前らもうやめろ!あ、す、すんません」


 何度も周囲に頭を下げながらダイは、ヒートアップする二人を見て何とか止めようと割って入ろうとするもうるせぇ!!!と一蹴されそのまま顔を殴られ席まで飛ばされた。


 「いい加減にしろ!負けたんだよお前らは!今ここに生きているお前がその現実を受け止めねぇと命を賭けて戦った奴らが浮かばれねぇだろうが!!!」

 「ぐっ!!?だまッ!」

 「今!ここで!生きてるお前が!当時を知ってるお前が!ここで嘘をつき続けて勝ったと言い張って命を賭けた奴らが浮かばれると思ってんのか!?お前はそんな奴らの誇りを踏み躙るのかよ!!?」

 「ぐっ、黙れ!それッ!!?危ない!」

 「あ?」


 カケルが後ろを振り返るとメスを握る男がそこには立っていた。そしてそのメスをカケルに向かって振り落とした。

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