第27話 ハヤテの過去

 カケルと黒武者が衝突する数時間前、カケルはとある自宅に足を運んでいた。


 「すんませぇん!この前のお礼にきましたカケルでーす!」


 家の玄関の前に立ちカケルは大きな声で叫んだ。しばらくして扉が開き、中からハヤテの祖父にして師匠でもあると言う人物が現れた。


 「ほっほっほっ、これはまた珍しいお客様ですな。ささ、お入りなさい。主とは少し話してみたかったんじゃ」

 

 師匠に連れられて居間にお邪魔したカケルは出されたお茶を啜りながら一息ついて、早速本題について話し始めた。


 「まずは葵達が迷惑かけたなありがとう。これ、お礼です」

 「ほっほっほっ、ご丁寧にどうもありがとう」

 「んじゃあ次だ。あんた黒武者だろ?」

 「ほっ???」


 俺の突拍子もない発言に師匠とか呼ばれてるこの人は驚いて一瞬だが動揺した。


 「やっぱりな、あんたが昨日放っていた殺気と船で初めて会った時の殺気が似てたんだよ。まぁそんだけなんだけど俺の勘があんたって言ってんだ」

 

 どうやら正体がバレた事が相当意外だったようで師匠は変わらず硬直していた。


 「固まってないで何とか言ったらどうなんだ?」

 「おぉ、すまんすまん。殺気だけで黒武者なる者の正体をわしだと決めつけられた事に驚きを隠せなくてのぉ」


 心底驚いた言った感じでうなづきながら師匠は俺に笑顔でそう言ってきた。

 それを見て何か感じが違う事に気がついた俺だったがあそこまでの腕を持つ奴はこの街でもそうそうお目にかかれない。

 更にあの殺気だ殺すと言う事以外何も感じさせない冷たく鋭くそれでいて寂しいあの殺気、少し違うところもあったがこの人から感じた殺気と同じだった。


 「今更誤魔化しても無駄だぜ?」

 「ほっほっほっ、誤魔化すも何もわしは黒武者じゃありゃせんよ。惜しくはあるがな」

 「あ?でもよあの感じは、」

 「ほれ、思い出してみなさいお主に怒りを見せとった相手を」


 怒りを見せてた相手?、あの時、初めてこの家に来た時に俺に怒ってた奴?

 俺はあの時の事をもう一度思い返しながら腕を組んで考えた。


 「・・・あ」

 「お、分かったようじゃな」


 あの時、俺を明らかに知っているような態度をとって敵意を剥き出しにしていた人物、それは・・・


 「あんたんところのやつか?、確か名前は・・・サブロウ?」

 「ハヤテじゃよ」

 「あーはいはいハヤテハヤテ、ハヤテね。それでそのハヤテにあんた人殺しさせてんのか」


 敵意と軽蔑の視線を送られながら師匠はそれを飄々と躱すように笑顔を崩さなかった。

 

 「仕方なかろう。ハヤテを守る為にはあやつ自身がそうするしか手が無かったんじゃよ」

 「どうゆう意味だ」

 「ハヤテとわしは東部から逃げて来たんじゃよ。東部を支配するあの男からの」

 「支配する?」


 師匠は自分の手元にあるお茶を眺めながらゆっくりと自分達の事を話してくれた。


 「お主も名くらいは聞いたことあるじゃろアーサー・アルトグレイアスは」

 「何か授業で言ってた気がするわ。あれだろ円卓の騎士の」

 「それとはまた別じゃよ。第三次世界大戦を終戦させた現代を生きる英雄と呼ばれてる男じゃよ」

 「ほへー」

 

 アーサー・アルトグレイアスの名すら聞いた事がないカケルに少し呆れながらも師匠は話を続けた。


 「ハヤテはその者の子供なんじゃ。因みにわしの義理の息子でもある」

 「あんた英雄のお父さんってことか」

 「そうじゃよ。だからこそハヤテは不幸な運命を辿ってしまったんじゃ」


 師匠はハヤテと自分の事について色々と教えてくれた。

 アーサー・アルトグレイアスは数多くの女性と婚姻し、多くの才能に恵まれた子供達が生まれ自身の子供達を自分の次に高い地位につけているらしい。

 そんな中、師匠の娘との間に生まれたのがハヤテだと言う。

 しかしハヤテには父であるアーサー・アルトグレイアスが求める才能を何一つ持っていなかった。

 その為、ハヤテは昔から他の子供達からも蔑ろにされいじめられていたらしい。師匠はそんなハヤテを見て少しでも抵抗出来るようにと剣術を教えていたらしい。


 「わしの娘もあの子を産んですぐに亡くなってしまっての。あやつもハヤテに振り向きもしなくてな、剣術も教えたはいいがハヤテはそれでも生傷がたえなくてのぉ」

 「それを見かねたあんたがハヤテを連れてここに来たのか」

 「・・・そうじゃよ。じゃがあやつはわしの知らないところでハヤテにある命令を下しておった」

 「それが・・・」

 「人殺しじゃ。あやつは邪魔となる人物をハヤテに殺させていたのじゃ」


 初めて師匠の目に強い怒りのような感情を見る事ができた気がした。


 「でもよ。ハヤテも辞めたいなら辞めれるんじゃないのか?」

 「無駄じゃ。わしも初めてあやつが殺しをした時にそう言ったんじゃが、父親にこれ以上いらない存在だと思われたくない気持ちが強すぎてな」

 「止まらなかったと」

 「うむ。あれは一種の呪いじゃよ。わしが介入しても良かったんじゃが、あやつが何をするかわからんくてのぉ」

 「あんた相当強いだろうからぶっ飛ばせばいいじゃんか」

 「ほっほっほっ、そう簡単に行く話でもないんじゃよ。先程も言ったじゃろ。あやつは才能ある子供達を下につけているとな。そやつらを倒す事がまず今のわしにはもう無理じゃよ。特に長男にはわしでさえ敵わんよ」


 自分の力不足をを嘆くようにして悲しげな目をした師匠はお茶をいきなり一気に飲み干したと思ったら少し明るい口調で今度は話しかけてきた。


 「じゃからわしは嬉しかったんじゃよ。ハヤテが友達を連れてきてくれた事がのぉ。父親の呪縛に日々人を殺している自分へのストレスからの精神の摩耗、それらからハヤテを救い出せるのはそれに変わる何かが必要だとわしはずっと思っておった」

 「それが葵達か?」

 「うむ。ハヤテを変える事が出来るのはハヤテを真っ直ぐ見てくれる友人達しかおらぬとわしは思っておる。といかんそろそろハヤテが帰ってきおる。すまんがしばらくそこで隠れててくれんかのぉ?」

 「そこってここか?仕方ねーなぁ」


 俺は急いで押し入れの中に隠れて扉を閉めた。しばらくして本当にハヤテが帰ってきて師匠と何やら会話をしながら食事をして自分の部屋に行った。

 俺はそれを確認してから静かに押し入れから出た。


 「ハヤテには今晩も暗殺の命令が来ておる。本来ならお主にこんな事頼める間柄ではないんじゃがハヤテを解放してあげてくれんか?」

 「俺に?」

 「友として共に歩んでくれる者達はあの子達しかおらんがハヤテをあの鎧から助け出す事が出来るのはお主しかおらぬ」


 師匠は俺の顔を見ながらそう答えた。

 鎧、確かにあの時ハヤテと顔を見合わせた時とあの鎧であった時では何かが違ってた。


 「鎧に何かあるんだな?」

 「ほっほ、正解じゃ。あれはかつて平安の時代に貴族達に裏切られた鬼と化した存在、怨月鬼と呼ばれる鬼をアーサーが鎧として復活させたものじゃ」

 「おん・・・げつ・・・きぃ?」

 「陰陽師のトップのみ見る事ができる書物にその名が記載されておる怪異の一種じゃ。知らぬのも無理はない」

 「ふぅん」

 「・・・本当ならもっと早くにハヤテをこんな役目から解放してあげるべきじゃった」


 確かにその通りだ。

 この人がハヤテにこんな事をさせなかったらそもそも今のような事は起きなかったのも事実だと思う。

 だが、大人というのは多かれ少なかれ色々なしがらみがあって結果、何も出来なくなってしまう事なんてよくある事だ。と昔ある人から聞いた。

 じゃあどうしたらいいのか?大人も子供も助けたい人を助ける事が出来ないなら自力で助かるしかないのか?

 残念、それすら無理だ。そもそも助けが必要としている人は自力で解決出来るならしている。

 じゃあ誰も助ける事が出来ないじゃないかって?

 それは違う。そんな状況に陥った人達の為に俺がいる。


 「・・・安心しろよ。あんたみたいなしがらみで雁字搦めになって助けたい人も助けに行けない人の為に俺がいるんだ。任せてくれよ必ず助けるよ」


 ーー


 そして今に至る。


 「グッ!?邪魔をするな!!!」

 「お前こそ!師匠が心配してるぜ!?そんな物騒なもん脱いで帰ったらどうだ!!?」

 「だまれぇぇぇぇ!!!」


 ぶつかり合って拮抗していた拳と刀は黒武者の怒りと共に増した力によってカケルが押し倒される形で崩された。


 「ぐっ、!?いってぇなコラ!?」

 「無駄だ」

 「うおっ!?」


 押し倒されたと同時に蹴りを決め込んだカケルだったが、それを見抜いていた黒武者によって受け止められてしまった。

 

 「これで終わりだ死ね」

 「ちょ、ちょ、ちょっとタンマ!タンマ!」

 「死ね」

 「お、おぉぉぉぉぉ!誰か助けてぇぇぇ!!!」


 カケルが叫ぶ瞬間、壁を斬り裂き外からカケルが勝手手合わせをしたこともある人物が入ってきた。


 「誰だ」

 「あ、あんたは確か・・・」

 「十二司支が一人、天辰」


 そう名乗ると同時に天辰は二人に向かって斬撃を放った。寸前で二人は避け三人は三角形を作るような位置にそれぞれがついた。


 「くっ!!?」

 「おわっ何でッ!!?」

 「拘束する。抵抗するならば斬る」

 「え、ちょ、ちょっと待って!何で俺まで???」

 「邪魔するならお前も斬る!・・・あんたもだ」

 「えぇ〜」


 俺は天辰を倒し、鎧からハヤテを助ける手段を考えながら立ち上がった。

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