第24話 尾行

 

 どこまでも広がる青空が嫌いだった。


 自由に飛び交う鳥達が妬ましかった。


 自分は何故そこに居ないのだろうといつも考えていた。


 いっそ死んで自分も空へ行こうとも考えた。


 ーーーだが、それは出来ない。自由を欲することは出来ない。自分はそれを手にする資格がないからだ。


 そして今日も夜の闇に紛れて自分が為すべき事をする為に仮面を被る。この仮面の中でなら自分を誤魔化さずに済む。何も考えずに済む。この仮面を被っている時だけ本当の意味で眠ることが出来る。

 

 「ま、ま、ま、待ってくれ!金ならいくらでもある!だからこ、殺さないでくれ!頼む私はまだここで死ぬわけには行かないんだ!!!」

 「罪は裁かれるべきだ。お前の罪もな」

 「い、ぎぃぁぁぁ!!!」


 そして眠っている間にいつも全てが終わっている。自分がやったかもしれないと思いつつもそうじゃないかもしれないと錯覚してしまう。そうする事で精神を保つ。そうする事で現実から目を逸らす。

 パトカーのサイレンの音が聞こえへやっと警察が来たのだと呆れる。


 「警察だ!大人しく投降しろ!」

 「・・・今頃来て何を」


 忠告を無視してそのままビルとビルの間を飛び闇に紛れて姿を消した。警察はいつもの様に姿を見失い街中を走り回っている。

 その滑稽な姿をビルの上から一通り眺めた後に立ち上がり帰ろうとしたその時だった。


 「よぉ」


 後ろからの声に振り返るとそこにはあの船で自身の仮面の一部を割った男が立っていた。


 「・・・いつから」

 「あんたがここでのんびり警察眺めてる時にだよ。にしてもあの船の時以来だな。仮面、治ったんだな」


 勿論、背後には警戒をしていた。

 警戒していた筈なのだが、どうやら今日は少し調子が悪いらしい。この鎧を着ていると本来なら感じることがない強い憤りをこの男に覚える。


 「今日はもうお前と闘う理由もない悪いが帰らせてもらう」

 「そうはいかねぇんだよなぁ。これでも依頼を受けて来てんだよ。あんたを捕えろってな」


 男は準備運動をしながらこちらと会話を続けた。


 「おっし!んじゃあん時の続きをやるか!」

 「人の話を聞け。お前になど様はない」

 「悪りぃけどこっちは用があんだよっ!!!」


 男はこちらとの距離を一瞬で詰め、あの時と同様に拳で殴りかかってきた。

 ガキンッ、と拳と刀の鞘がぶつかり合う音が静寂の闇夜に響き渡った。

 男とこちらの力は拮抗しておりギチギチと音を立てながら二人は間合いをどんどん詰めていった。


 「邪魔をするなら切る!」


 鞘から刀を取り出した縦に男を斬りつけた。

 男は咄嗟に避け、斬撃はビルに直撃しビルを真っ二つに割った。


 「ッ!!?」

 「おわっ!?」


 真っ二つに割れたビルはそのまま崩壊を始めてしまい仕方なく別のビルへと飛び移った。

 崩れるビルを眺めながら闇夜を歩き姿を消した。


 ーー

 次の日


 昨日の夜、あの鎧武者と闘って崩壊してしまったビルのことがニュースで流れていた。


 「えらいこっちゃな」

 「あんたがやったんでしょ。葵ちゃんごめんねお茶とって」

 「ん」


 いつもの様に朝食を皆んなで食べながらニュースを見ていた俺達はその事で盛り上がっていた。


 「幸い怪我人がいなかったらしいじゃないよかったわね」

 「あぁ助かったよ。まさかあんな事になるとは思わなかったからな。前も中々やばかったが、今回は更にヤバさが増してたぜ」

 「あんた前も会ったことあるの」

 「ちょっと船でな」

 「行ってくる」


 食事をした後、葵は席を立ち家を出た。

 通学路を進んでいる中、後ろから青と緑の二人が葵に声をかけた。


 「葵ちゃーん!おっはよっ!」

 「・・・朝からうるさい」

 「まぁまぁそう言わずにさ!」

 「ちょっ!」


 葵は青によって手を引かれ走って学校に向かっていった。

 教室に着き息を切らしながら席についた葵は自分の隣に同時に男の子が席に座った。


 「葵ちゃーん!あ、おはようハヤテ君」

 「・・・」


 青の挨拶に対して隣の少年であるハヤテは何も答えず無視して本を読み始めた。


 「相変わらず愛想悪いねぇ」

 「それよりも何?」

 「え?お話ししたくて」

 「はぁ…」


 その後、葵は青とたわいもない会話を続け授業が始まり放課後にまで時間が過ぎた。

 葵と青、緑は机を囲みお弁当を食べていた。ふと、葵は隣に座る少年、ハヤテが気になり青に聞いた。


 「あの人、誰?」

 「ん?ハヤテ君のこと?」

 「どんな人?」

 「珍しいね葵ちゃんが他の人に興味を持つなんて。んーハヤテ君かぁ、小学校の高学年からこっち引っ越して来たんだけどあんまり喋らない子って印象かな」

 「ぼ、僕は剣道が強いってイメージです。確か全国大会出てましたよね」

 「そう言えば、・・・」

 「青さん?」


 緑のいった事にうなづこうとした青だったが、突然押し黙ってしまった。


 「ん?あ、ごめんごめん!何でもないよ!」

 「何かあったんですか?」

 「いや少しね?ほら前に話した」

 「夢の話ですか?」

 「何それ?」


 青は昨日見た夢の事を話した。

 そこに出てきた同じ制服を来た少年が刃物を使っていた事を思い出していた事を話した。


 「そもそも本当に夢?」

 「私にも分かんないんだよねぇ。それにその刃物持ってた男子、何となくハヤテ君に似てる気がするんだよね」


 三人はハヤテの顔を見た。

 ハヤテは相変わらず物静かに読書をしていた。


 「そうだ、そうだよ!確かにハヤテ君に似てたよ」

 「え、じゃあ夢の中にハヤテさんが出てきたって事ですか!?」

 「そうなるね。でもなんで」

 「夢じゃないって事じゃない?あの日、あの人も来てなかった」

 「あ、そう言えば」

 「え?そうなの?それじゃあ」


 青は席を立ちハヤテの座る席の前に立った。

 ハヤテは特に驚く事もなく本を閉じた。


 「・・・何の様だ」

 「ハヤテ君さ、昨日私と同じ電車乗ってた?」

 「知らん」


 そう言ったハヤテは席を立ちそのまま教室を出て行ってしまった。

 

 「怒らせちゃったかな?」

 「そ、そうかもしれないですね」

 「怪しぃ〜、絶対何か知っている気がする!」

 「お、落ち着いてください」

 「よし!帰り後つけよう!緑君、葵ちゃん一緒に行こう!!!」

 「「え?」」


 下校時、三人は早速ハヤテの後をつける為、尾行を開始した。


 「絶対ハヤテ君、何か知ってる行こう!」

 「は、はい」

 「私は帰る」

 「そんなこと言わないで葵ちゃんも付き合ってよぉ〜」

 「めんどくさい」

 「あ、帰りますよ」


 ハヤテが校門から現れたそのまま真っ直ぐ進んでいった。三人はその後を追って同じ道を進んで行った。

 その後、バス停でバスに乗り込んだ。


 「そう言えばハヤテさんってどこに住んでるんでしょうね」

 「ハヤテ君って地味に謎多いもんね」

 「何故、私がこんなところに・・・」

 

 ハヤテと一行はそのままバスに揺られ三十分後、駅の前で降りてそのまま今度は電車に乗り込んだ。


 「今度は電車ですね」

 「何処に向かってるんだろ」


 更に数十分電車に揺られついた場所はネオ・アストラルシティでも珍しい森林地帯がある場所まで辿り着いた。


 「ここがハヤテ君の家がある場所?」

 「見渡す限りの木々ですね・・・」

 「あそこ」


 葵が指差した方向ではハヤテが森の奥に進んでいた。三人は直ぐに後を追った。

 森の奥をハヤテの後を追いながら進んでいると木造建ての一軒家が現れた。


 「あそこってまさか?」

 「多分ハヤテさんの」

 「もう充分だろ帰れ」

 「「「うわっ!」」」


 いつの間にか背後に回っていたハヤテに声をかけられた三人は驚いて後ろを振り返った。


 「いつから!?」

 「校門前からずっとだ」

 「バレバレじゃないですか」

 「何のつもりだ」


 ハヤテは辺りにまだ他に人がついてきていないか警戒しながら三人に問いかけた。


 「え、えっとほら昼聞いた事あるでしょ?」

 「それがどうした」

 「い、いや、ハヤテ君がやっぱ怪しいなーって思ってさ」

 「だから跡をつけて来たのか」

 「ごめんなさい」

 「はぁ…帰れ」

 「ハヤテ帰って来ておったのか?」


 その時だった、ハヤテの家の扉から一人の老人が姿を現した。


 「師匠」

 「「し、師匠〜!?」」

 「ほっほっほ、お友達かね。ようこそ上がりなさい」

 「なっ!?し、師匠!!?」

 「まだ時間はあるじゃろ?」


 ハヤテから師匠と呼ばれた老人に誘われ青達三人は家にお邪魔する事にした。

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