第7話 黒武者

 甲板では爆発音と共にカケルとアルダーが死闘を繰り広げていた。

 カケルは手にしたドアを爆風から身を守る盾にしながらアルダーに近づこうとしていた。


 「HEY!HEY!HEY!どうしたボウイ!さっきから全然俺に近づいて来れてないじゃないか!」

 「だったら少しくらい銃打つのやめやがれ!!!」


 アルダーによる銃弾の嵐によって攻めあぐねていたカケルは傷を押さえながら攻略手段を考えていた。

 

 「くそっ!このままじゃもたねぇな。だったら!」


 そう叫びながらカケルは甲板を破壊破壊して、下に降りた。


 「無駄だぜ!?その程度で銃弾の嵐を防げるわけないだろ!?」

 

 そう叫ぶと共にアルダーは甲板に向かって銃弾を放った。


 「残念だったなボウイ?甲板の下は一本道の通路、逃げる場所もなかったろ」

 「あぁ!知ってるよ!だから降りたフリして開けた穴にしがみついてたんだよ!」

 「何!?」


 アルダーが顔を上げると真っ直ぐにカケルが走って向かってきていた。

 アルダーはすぐに応戦する為、銃火器を向けカケルを今度こそ撃ち殺そうとした。しかし投影した銃弾が既に無くなってしまっていた事に気がついたアルダーは銃火器を捨て、ナイフを取り出した。


 「させるかよ!」


 カケルは持っていたドアを投げ飛ばし、ナイフを持っていた腕にぶつけた。ゴキッボキッという音を出しながらナイフを持った方の腕の骨をドアによって砕かれた。


 「ぐあっ!?」

 「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!」


 渾身の一撃をアルダーに向けて撃ち放ちアルダーは船の後方部まで飛んで行った。


 「はぁ、はぁ、ぐっ!やっべ、血が足んなくて意識朦朧としてきやがった・・・」

 「それは良いことを聞いた。貴様を殺すには今が絶好のタイミングと言うことだな」


 そう言いながら現れたのは数十人のspを引き連れたアンドレアスだった。


 「まさかアルダーを倒してしまうとはな驚いたよだが!貴様はここで終わりだ。その傷ではもう立つことすらままならんだろう」

 「チッ!あのハゲやられたんだから諦めろよボケが!!」

 「ふんっ、馬鹿め!最後に立っていた奴こそが勝者なのだよ!」


 高笑いを決めながらsp達にカケルを打つように命令した瞬間、アンドレアスの高笑いは悲鳴へと変わった。驚いたてsp達がアンドレアスの方を振り向くとそこには黒い髪をなびかせた女性が立っていた。


 「く、九条!?何でここに!?」

 「ふぅー、よくやったなカケル。作戦通りだ、後は我々警察の出番だ。ここにいるもの達を一人残らず捕まえろ!」


 九条がそう叫ぶと警察官達が一斉に現れ、豪華客船に乗っていた人々を次々と逮捕していった。


 「くっ、何故警察がここに!?」

 「ああ、それなら出てきてくれても構いませんよ警部」


 九条がそう言うと破壊されたドアの所から一人の男性が現れた。


 「やっと終わったようだな。全く、潜入捜査ってのは年寄りには答えるぜ?」

 「ん?このおっさんって??」


 現れたのはカケルが豪華客船内でウエイターとしてワインを配っていた時に急かしてきた客だった。


 「あんた警察の人だったのかよ!?」

 「そうだぜ?あん時は悪かったな。同じく潜入捜査してる奴の顔を確認しときたくてな!後はワイン早く飲みたくてな!」

 「おい、何で俺に話さなかったんだ」

 「ん?言ってなかったか?すまんすまん」

 「お前いつか復讐してやるぞ九条」

 「さんをつけろ。さんを。それで状況は?」


 走ってきた刑事が九条に状況を説明して直ぐに持ち場に戻っていった。


 「どうやら船に乗っていた者達は皆捕まえたらしいぞ?アンドレアス大人しく投降しろ」

 「き、貴様ら、この俺にこんな事してタダで済むと思うなよ!」

 「何を言ってるんだ。私達はあくまで騒ぎを聞きつけて来ただけの善良な警察官だよ。何故そうなる事情聴取するだけさ。まぁその過程で少しくらい船の中を見させて貰うけどな?」

 「どこが善良なんだよ。善良な市民を餌にしといてよ」

 「ふぅー。どこが善良?」


 カケルと九条が言い合いをしていると後方部に飛ばされたアルダーを捕らえに行っていた一人の刑事が現れた。


 「九条さん大変です!アルダーが!」

 「「ん?」」

 「ひぃーーーーーー!?」

 「「あ?」」


 報告を聞いて後方部に向かおうとした時だった。アンドレアスが声を上げて叫んだ。

 カケルと九条は振り返るとそこには黒い侍が立っていた。


 「こ、コスプレイヤー?」

 「そんなわけないだろ。落武者だアレは」

 「もっとあるわけないだろ!お前ら真面目にやりやがれってんだ!ありゃ黒武者だ」

 「なんそれ」

 「少し前からネオ・アストラルシティで要人の暗殺などをしてやがる野郎だよ」


 警部が説明している矢先、黒武者はアンドレアスに向かって刀を振り落とそうとしていた。

 カケルと九条は咄嗟にアンドレアスを襲う凶刃から身を守った。


 「あっぶね!何してんだお前!」

 「あまり、私を働かせるな疲れるから」

 「・・・邪魔をするな」


 そう言うとカケルと九条の二人がかりで止めれた筈の刀で二人を押し飛ばした。


 「うぉっ!?なんつー力だよ!」

 「チッ、面倒な相手だな」

 「邪魔をするならまずはお前達から・・・斬る」


 そう言って黒武者はカケル達に斬りかかって来た。

カケルと九条は応戦するが、凄まじい速さで振るわれる刀に二人は防戦一方となってしまっていた。


 「あの二人を援護するぞ!お前ら発砲許可貰ってるだろうな!」

 「いえ!貰っていません!」

 「ならば、俺が許す!好きなだけ撃ちやがれ!」


 カケル達を援護する為に現場にいる刑事達は皆、拳銃を抜き黒武者に照準を向けて発砲しようとした。


 「無駄だ・・・!」


黒武者はカケル達を再び押し飛ばすと拳銃を持った刑事達に狙いを定め凄まじい速さで迫って来た。

 刑事達は発砲するが、その弾は黒武者に当たる前に刀で斬り裂かれ撃ち落とされていった。


 「な!?馬鹿な、」

 「クソ!怯むな!撃て撃て撃てぇ!」

 「無駄だ」


 刑事達の元に辿り着いた黒武者は一太刀で次々と刑事達を切り捨てていった。

 カケルは直ぐさま止めにはいり再び黒武者と対峙した。


 「いい加減にやめやがれ!」

 「邪魔をするなと何度言えばわかる!?」


 カケルの拳と黒武者の刀が互いに交差しぶつかり合った。


 「馬鹿か!素手で我が刀に触れれば、な、何!?」


 これまでどんな相手だろうと一撃で斬り伏せてきた黒武者は驚いた。自分と対峙している相手はあろうことか拳で刀を受け止めたのだ。本来ならばその時点で腕を真っ二つにしているはずだった。

 しかし目の前の男は拳を真っ二つに斬られるどころか自分を刀ごと押していたのだ。


 「く、な、何者だ貴様!」

 「お、れ、は〜!ネ、ネオ・ア、アストラルシティでな、何でも屋を営む、こ、今世紀最強のお・と・こ・だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「がっ!?」


 カケルはそう叫ぶと黒武者の刀を横に振り払いアルダーに与えた一撃以上の力を持って黒武者の顔を殴り飛ばした。


 「ハァ…ハァ…も、もう無理ぃ〜」

 「無茶しすぎだ馬鹿者」


 カケルは全ての力を振り絞って放った拳によって力付き倒れた。


 「くっ、貴様よくも!?」

 「く、そ、まだ立つのかよ・・・」

 「チッ、総員一斉に構えろ。立って来たとしても今の一撃をモロに喰らったんだ無事ではないはずだ」


 ひび割れた仮面部分を押さえながら起き上がってきた黒武者は今度こそカケル達を斬ろうとしたが、突如その動きが止まった。


 「・・・わかりました。撤退します」


 そう言った黒武者は刀を鞘に納め、カケルと九条達を後にした。


 「ハァ…何だったんだアイツは」

 「し、しらねぇよ・・・で、でもとりあえず一件落着って事で良いんじゃね?」

 「はははは、よくアレから俺を守ってくれたな!褒めてやるぞ!その功績を認めて今回のオークションを潰したことは不問にしてやる!」


 後ろから現れたアンドレアスの言葉に俺と九条はやれやれと首を振りながら一発ずつ殴った。

 殴られたアンドレアスは最初何が起きたのか分からないような様子だったが直ぐに我に帰りキレた。


 「貴様ら!この俺を誰だと思っている!それに警察共もだ!今ここにいる者達は皆全てなくなると思え!特にそここガキお前はもう許さんお前の人生は無いものだと思え?」


 ニヤリと下卑た笑みを浮かべながら俺を指差して豚が何かを叫んでいたのでもう一発殴っといた。

 どうやらそれで完全にキレちゃったようで俺を襲おうとしていたが、ある人の声がそれを止めた。


 「やめなさい!」

 「サーシャ何故止める?今回のこのオークションを・・・まさかお前か?お前が警察に協力をしていたのか?答えろサーシャ!!!」


 顔をトマトの様に真っ赤に染めながらアンドレアスはサーシャに投げかけた。

 サーシャはこくり。と顔を下に下げその投げかけに対する返答を行った。

 アンドレアスは激昂し、サーシャに近づこうとしたが、俺が脛を蹴り飛ばしたことによりアンドレアスはサーシャにひれ伏す形となりながらサーシャの目の前で倒れた。


 「アンドレアス。これ以上はもうやめましょう。あの日からあなたは変わってしまった」

 「それは違う!あの方はこの俺に本当の自分を教えてくれたのだ!」

 「共に罪を償いましょう。アンドレアス、警察は十分に証拠を掴んでいます。逃げ切ることはできませんよ?」

 「クソッ!俺を誰だと思ってる俺は!俺は!」

 「誰だと思ってる?そんなもんガキを売りに出して金稼ぐロリコン変態嗜虐趣味の中年じじぃだよ」


 俺はアンドレアスを見下ろしながらそう答えた。アンドレアスは勿論、キレ散らかしたが警察が強制連行していった。

 サーシャさんとアリーシャも事情を聞くのと今までの行いを警察に全て話す為に出頭した。


 「カケル君今回は本当にありがとう。全部貴方のおかげよ」

 「貴方、わたちのお婿さん候補にちてあげてもいいわよ?」

 「それはありがたいね。それに俺はただ殴っただけだからさ、勇気出して警察に伝えたあんたが一番の功労者だよ」


 俺とサーシャ、アリーシャは最後に別れの握手をして、二人はパトカーに乗って警察へと向かっていった。・・・あれ?


 「ちょ、ちょっと待って!?俺は!?オイコラ九条!俺も送ってってくれよ!何だよこれ!?頑張ったのにこんなんありかよぉ〜」


 そして俺は黄昏荘までかなり距離がある道を半泣きしながら帰っていった。

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