ゾンビゲームを神々が作った結果、終末世界でサバイバルホラー配信ができるようになった件~ゲームみたいな世界で過ごす俺は、命がけの配信で人生をやり直す~
矢島やじ
プロローグ
第1話 ゾンビ世界へようこそ
目を開けると見慣れた天井が視界に映り込む。
だが起き上がると、強烈な違和感があった。
そこにはベッドがあった。ソファーがあった。しかもテレビの横にはお洒落な観葉植物まであった。
おかしい。どれも見覚えがない。
俺――
「誰の部屋なんだ? 天井も内装も俺の部屋と同じだけど、家具が違うし……」
自分で言うのもなんだが、俺はかなり貧乏だ。
部屋には家具がほとんどないし、あるものといえば床に敷いた布団と扇風機、あとはパソコンくらいだった。
だというのに、この部屋は普通すぎる。ただの若い男の部屋だ。
(……あれ? じゃあ俺ってもしかして、知らないうちに他人の部屋に上がり込んで図々しくベッドで寝てたの? ヤバくね?)
そう思うと、俺はベッドから立ちあがった。
「ん? これは……」
『プロジェクトセブンデイズの世界へようこそ』
目の前に突然パソコンの情報ウィンドウのようなものが開き、その中に文字が浮かび上がった。
『世界は終末を迎えました。あなたはこの世界で一週間、生き延びなければなりません』
「ああ……本当に飛ばされたんだ、この世界に……」
やっぱりあれは現実で、俺はデスゲームに参加したんだった。
講堂に転送されたかと思ったら妙な女にゲーム内容を説明されて、ゾンビ世界で一週間生き延びたら賞金千万円だとか言われ、俺はこの世界に送り込まれた。
(借金返済のためにも何としても生き延びないとな……俺はこの賞金で人生をやり直すんだ)
そう思っている間も、投影された情報ウィンドウに文字が浮かび上がっては消えていく。
『あなたはまもなくゾンビと遭遇するでしょう。彼らは両目を黄色くぎらつかせ、あなたの血肉を求めて襲い掛かってきます。そのとき、あなたは恐ろしい死を迎えるかもしれません』
「誰が死ぬかよ、こんなところで……」
『ですが安心してください。そうならないためにあなたの身体にナノマシーンを埋め込み、こうして情報ウィンドウを認識できるようにしました。この機能を利用し、様々な危機を切り抜けましょう!』
「このウィンドウそういう設定で開いてるのか。便利そうだし、ありがてぇな」
『ではあなたのステータスを見ていきましょう。ウィンドウ端の人型アイコンをタッチしてください』
言われた通りタッチしてみると、
『キャラクターネーム、
「ゾンビ世界で生き残れそうじゃねぇ……!?」
キャラネームは俺が
「そりゃ俺はパチンカスだし、ギャンブルもするけど、職業にした覚えはねぇぞ。つーかなんだよ、このアビリティとスキルは……!?」
『続いてタブのスキル画面をタッチしてください』
「いや、それより俺の職業とアビリティをどうにかできないのかよ――って、これは……」
自分のステータスに困惑しながら言われた通りタッチすると、いくつかに区分けされたスキルメーターが見て取れた。
どうやらレベルゼロからレベル十まであるらしくスキル名の横に目盛りある。ちなみに今の俺のスキルレベルはどれもゼロだ。
「さすがに弱くないか? 移動スキルの『忍び足』も『駆け足』もゼロって……説明文によると、忍び足が移動中の足音が小さくなる……駆け足が走る速さが上がるか……そのまんまだな」
俺がそう言う間も、ウィンドウの文字が消え、新しい文字が浮かび上がる。
『この世界では、プレイヤーの行動によってスキルポイントを獲得し、各分野のスキルをレベルアップできます。単純に戦闘スキルをアップさせてゾンビと戦うことも、生活スキルをアップさせて暮らしを豊かにすることもできます』
「だったらまずは……なんのスキルを上げようかな。とりあえず生き残るために戦闘スキルを優先して――」
ガシャ……ガシャ……。
「ん? 何の音だ?」
窓際に歩み、カーテンを少し開けて覗いてみる。
「あ……」
見覚えのある光景だった。
いつもコンビニのバイトで通る道。四角い二階建ての家に、まだ新築の家だって俺の部屋の窓から見えるものと同じだ。
(じゃあここは俺の部屋じゃねーか……でも家具が違うってことは本当に別の世界に……)
ガシャ……ガシャ……。
「あれは……」
ラフな格好の男が何度も玄関にぶつかっていた。
(あそこは新築の山田さん
ガシャガシャと頭をぶつけている光景は壊れた機械のようだ。インターフォンを押す気配もないし、玄関を開ける気配もない。ずっと玄関にぶつかっている。
「もしかして……あれがゾンビか?」
『最後に、あなたの視点はライブ配信されています。服の襟についたバッジ型デバイスがあなたの視界と同期してリスナーに伝えています』
「これのことか……」
ワイシャツの襟に親指の先くらいの大きさの黒いバッジがついていた。
こんなので配信できるなんて、よくできてんな。
そう思っていると視界の端にコメントが流れ出した。
『映像めちゃリアルじゃん』
『今来た。これ何してるの?』
「チャットかよ……ゲーム配信だな」
『こいつ普段パチンコとかスロットの配信ばかりだったけど、今日は配信者限定のゾンビゲーって急にどうした? まぁ面白そうだから見るけど』
『ギャンカス、ゾンビ世界に行く』
『ゾンビまだ? 早く戦えよ』
「こいつら、気楽なもんだな……」
いつもよりチャットが賑やかで、同時接続はは物凄いことになっている。
って、今六百人くらい見てるの!? すげぇっ!
『デイリー任務について説明します』
「そんなのがあるのか……」
『一つ目は、移動です。一日一キロ以上拠点外を移動してください。二つ目は、一日十体のゾンビを倒しましょう。三つ目は、拠点を作ったり、拠点の整備をしましょう。最後に四つ目は、食事をしましょう。この四つのうち一つでも失敗するとペナルティがあります』
「え? ちなみにペナルティって?」
『それでは、よいサバイバーライフをお楽しみください』
「うわ、肝心の説明を端折って閉じちゃったよ……」
これでチュートリアルは終了ってことだろう。
情報ウィンドウは閉じてしまったが、くよくよしてもしょうがない。今は生き残ることだけ考えないと。
「ゾンビと戦うときって噛まれても大丈夫なように厚手の服を着た方がよさそうだけど……」
現在の服装、白いワイシャツの上に黒いパーカー。そして黒いチノパンだ。長袖長ズボンだから噛まれても大丈夫そうだが、これで手袋があれば完璧だ。
俺は部屋を見渡した。
間取りは見慣れた1Kアパートの一室。クローゼットは一つだけだ。そこを開けて服や収納ケースを漁る。
「手袋はないな……おっ、でもケースの横にリュックあるじゃん」
ゾンビサバイバルにおいてリュックは重要だ。漁った物資を入れたり、ゾンビと戦うとき両手が自由に使えるし、持っていくならこれしかない。
「あと収納スペースっていったらシンクの下か……」
玄関の方へ歩き、キッチンスペースに行くと、収納棚を開いた。その中には、鍋やフライパンに混じってプラスチックのケースがあった。
「お、やった。武器になりそうじゃん」
開けてみると、ガムテープやトンカチ、それに釘やドライバーもが入っていた。
「この部屋の住人は、DIYでも趣味なのか? それなりにそろってるじゃねぇか」
その他に引き出しを開けると、一応食糧になりそうなポテチやビスケットがあったのでありがたく
「よし、とりあえず外に出てみるか」
準備もできたし、靴箱からスニーカーを出して玄関に立つ。
「誰のか知らないけど、靴のサイズも悪くないし、今のところ順調だな」
『やっと家から出るのか』
『早く行け、今のところただの空き巣だぞ』
「うっせぇよ。これからだこれから、しっかり見とけ」
チャットのコメントにそう言うと、俺は玄関を出た。
近くには誰もいない。だが遠くの通りで何人かの人影がゆらゆらとさまよっている。
(ここは目立つな。早く移動しないと)
玄関前の廊下を進み、外階段を下りていく。
「ウゥゥゥゥ……ウゥゥゥゥ……」
「――っ!?」
アパートから離れた瞬間、俺はブロック塀に身体を押し付けて息を潜めた。
反響するようなうめき声だった。まるでハウリングしたような感じ、生身の生き物から出るような声じゃない。
(俺が知ってるゾンビと違う……! なんだよこの声っ、超怖ェ……!)
化け物のうめき声が右から左へと通り過ぎていく間、俺はぷるぷると震えていた。
『なんだあれ? 声ヤバ』
『わくわく』
『通り過ぎただろ。後ろからバクスタきめろ』
(そんな技能俺にねぇよ! これがゲームだったら背後から一撃だろうけど……!)
チャットは盛り上がっているが、すっかり腰が引けた俺は通りの反対側にある塀を見ていた。
(こっち無理だ。ここら辺はあいつらが徘徊してるし……向こうの塀から行こう)
忍び足で塀まで歩き、俺の身長より少し高い塀をよじ登り、隣の家の庭に飛び降りる。
ここにはゾンビはいない。ウッドデッキがある芝生の庭だ。
庭を横切り、さらに塀を越え、隣の民家の庭に行く。そうやって何軒かの庭を入っては出ていくと、裕福そうな一軒家までたどり着いた。
「とりあえずここを漁ろう……最初の家よりは色々揃いそうだし」
そう言うと俺は玄関に行った。
「ん……閉まってるな。当然か……逆に鍵が閉まってた方が、誰も入れないから安心だからいいけど……これじゃあ窓を割って侵入するしかねぇな」
庭に行くと、大窓の前に立つ。
「このままトンカチで割ったら音でゾンビが来るな……じゃあこれを使うか」
俺はリュックからガムテープとタオルを取り出した。
窓ガラスにガムテープを貼っていく。
これでガラスが飛び散らないし、ガラスが割れると音も軽減される。さらに窓にタオルを押し当ててトンカチで叩く。
パリッ……。
「よし、いけそうだ……」
小さな音を立て穴が開く。そこに指を入れ、窓の鍵を開けて民家に入る。
そこはリビングになっていた。全体的に落ち着いた雰囲気のある内装だ。
土足で歩いて行き、カウンターキッチンを尻目にソファーを横切ったところで、どんどん……と足音が聞こえてきた。廊下からだ。誰かいる。こっちに近づいて来てる。
「家主か、それともゾンビか……こうなったらやるしかねぇな……」
俺がトンカチを構えたところでそいつは現れた。
ぬっと廊下から顔を出したのは中年の男。小太りで背は低めだ。
「おい、あんた――」
「グゥウウウ……」
俺が話しかけたところで男は唸り出し、そして目が合った。
黄色く光る瞳だ。明らかに普通の人間じゃない。
「ガァァァァ……」
「このっ」
迫り来る男の腹を蹴飛ばし、廊下に押し戻した。男がよろけ、廊下の壁に背中を打ちつける。その隙に俺は頭に向かってトンカチを振り下ろした。
ガンッという衝撃が手に伝わってくると頭が陥没し、そこから血が流れだす。だがそれでも男は腕を伸ばし、襲い掛かってくる。
「くそっ、オラ……!」
俺は頭を殴り続け、ようやく男が動かなくなると震える膝に手を置いた。
「やっと倒れたか……この野郎……」
トンカチで殴った感覚も、血の臭いも、どれも生々しい。人を殴るなんて初めてだし、やっぱり最悪な気分だ。
『ナイス! キル!』
『つぇやっぱ武器あると違うわ』
『すごいですね殴る音が』
『こいつ
チャットは盛り上がっているが、そんなリスナーのテンションとは裏腹に俺は震えていた。
「くそっ、なんでこんなことに……借金がなかったら誰がこんな世界なんか……あーあ、平和な日常に戻りてぇな」
男の死体を見下ろしながらそう言うと、まだ普通に暮らしていた頃の自分が頭によぎる。
親が借金を作って蒸発して、俺も自暴自棄になってギャンブルに手を出し、大学も中退。それで借金が一千万円まで膨れ上がった……そのせいで、こんなゲームをする羽目になったんだった。
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何卒よろしくお願いします。
これからどんどん面白くなるので期待していただいて大丈夫です。
一緒にこの作品を盛り上げていきましょう!
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