第21話

ぼんやりとベッドに座り込んでる私。


コンコン!

ノックの音に我に返る。


「はい。」


ノックして入ってくるなんて…、


「やっぱり凪砂さん。」


さっき桐生仁と部屋を出た凪砂さんが立っていた。

手に持ってるのは…?


「加湿器なんですが。気管支が弱いと仁様に伺って。取り付けてよろしいですか?」


「…ありがとうございます。」


部屋は空調管理されてるから空気が乾いてる。加湿器は嬉しい。

やっぱり好い人だ。

監禁してる人の部下だけど。つい忘れてしまいそうになる。

加湿器をセットした凪砂さんは少しベッドから離れて私の側に立つ。


「少しお話をいいですか。」


「はいっ。もちろんです!」


ごく普通の会話に私は飢えていた。

知りたいことだって沢山ある。


「そうですね、何から話しましょう?」


「あの、教えていただけるなら日付と時間を。」


私の言葉に凪砂さんは驚いた。


「ご存知ないんですか。」


「ここに来たときは熱を出して交通事故にあった日なものですから。」


寝込んでる間に何日経ったのかはまったくわからないのだと苦笑すると、


「報告を受けてない。」


ポツリと呟くと、私が答えを待ってるのに気が付いて凪砂さんは嵌めていた腕時計を外して私に手渡してくれた。

国産の男ものの大きな時計。


「4月25日。郊外学習で美術館に行ったのは20日だっけ。嘘っ、5日も経ってる!」


5日も食べて無かったのか私は?


「病気だったなら医者が呼ばれた筈です。おそらく意識がなかったなら栄養剤位は点滴されたはずです。」


凪砂さんは落ち着かせるように私に言った。

そっか。だよね。


「出入りの医者は初老の内科医で女医ですから、ご心配なさらず。」


にこりと笑う顔は相変わらず怖いけど優しい目に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る