第46話
「その、お嬢のこと凄く好きです。」
たどたどしくだけど真っ直ぐ言葉を紡ぐ淳志さん。里江さんはうれしそうだ。
「ただ、自分はどう頑張っても真嶋の若頭みたいになれる気がしません。」
そりゃそうだろ。こんな侍みたいな男。秀一郎以外に私は知らないし。
「自分が工藤の上に立てる器だと思えなくて。」
まだ19だもんな。秀一郎みたいにガキのころから真嶋の代紋背負うと聞かされてた訳じゃないし。
「淳志…」
これには里江さんも困惑気味。
「つまり山路は里江が好きだが組は継げないと言う事か。」
秀一郎の声に淳志さんは首を振る。
「自信ありません。」
「つまり里江は山路か工藤組か選ばなきゃなんねえ訳だ。」
秀一郎の声に里江さんはうつ向く。
「…そうなるかもと思ってはいたわ。」
ため息をつく里江さん。
「本来私は工藤組を率いる男の妻になるべき定めだし。それで嫁き遅れたとも言えるわ。でも淳志と会って淳志と一緒になるために嫁がずに居たんだと思えたの。」
「お嬢。」
「だから私は淳志を選ぶ。工藤は捨てるわ。」
はっきり口にした里江さんはにっこりと淳志さんに笑いかけた。淳志さんは驚いたように固まって、やがてうつ向く。
「お嬢に組を捨て捨てさせるなんて。」
淳志さんの声は揺れ迷いが見えた。
まだ19だもんね。彼女に家(組もだけど)捨てさせて良いのか迷うのは当然だし。
里江さんのお腹には赤ちゃんがいるし何とかしてあげたい。組を捨てたらたちまちお金に困りそうだし。
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