戦場で輝く王女は隣国の冷徹魔法騎士団長に溺愛される

ぜぶら。

第1話

 セラフィス王国、朝日が昇る頃、静寂を破るように戦の鐘が鳴り響く。王国の中心に位置する壮麗な城には、剣を手にした王女、セレスタ・ルクレシアが立っていた。彼女はこの国の美しさと豊かさを守るため、前線で数々の戦いを経験してきた。仲間たちを鼓舞し、厳しい戦況を乗り越えるその姿は、国民たちの心をつかんで離さなかった。




 しかし、北方の強国ヴァルグリムが再び動き出したとの報告が、国中を緊張させる。彼らは、セラフィス王国に眠る魔法の力を秘めたストーンを手に入れようと、再び侵攻を試みているらしい。セレスタは、これまで何度も王国を守ってきたその経験を胸に、仲間たちと共にまた立ち向かう覚悟を決める。心のどこかで、これが彼女たちにとって最も過酷な試練となることを予感していた。



「...私たちがこの地を守らなければ、誰が守るのか。」



 セレスタの声は、自らを奮い立たせるための呪文のようだった。彼女の心の奥には、戦争の影が迫り来る不安が静かに潜んでおり、無意識に小さく息を吐く。


 ふと誰かの気配に振り向けば、側近であるオリバーがこちらに向かって走ってきていた。


「オリバー、どうしたの?」


「王女殿下、陛下がお呼びです。」


「お父様が?...分かった。すぐ行くわ。」






 部屋に行けば、すでに錚々たる顔ぶれが揃っていた。重々しい空気が漂い、皆が一様に真剣な表情をしている。



「ヴァルグリムの動きについて報告がある」父、セリオス王が低い声で語りかける。


 セレスタはその言葉に耳を傾け、心が引き締まるのを感じた。部屋の中央に設けられた大きな地図には、セラフィス王国とその周辺の地形、そしてヴァルグリムの領土が描かれていた。


「彼らは、私たちの国境に近づいてきている。すでに数回、偵察部隊が侵入したとの報告もある。」王の言葉に、セレスタは改めて緊張感を抱いた。


「私が前線に出ます。」彼女は毅然として宣言した。


「しかし...」兄であるアルフレッドが心配そうにセレスタを見つめる。


「私がこの国を守るために戦うことは決して無謀なことではないはず。私の経験を生かして、仲間たちと共に戦います。」セレスタの言葉には強い決意が込められていた。


 セリオス王は、セレスタの瞳の奥に宿る炎を見つめ、彼女の覚悟を理解した。「ならば、私たちも準備を整えなければならん。敵が来る前に、こちらからも動く必要がある。」


 部屋の雰囲気が引き締まり、皆の視線がセレスタに集まる。彼女の心の奥底に秘められた不安が、仲間たちの信頼と期待によって支えられ、少しずつ和らいでいく。


「私たちの力を結集してヴァルグリムに立ち向かおう。私が指揮を取ります。」セレスタの声は、堂々としていた。彼女は、家族と共に新たな戦局に向けて決意を新たにした。








 しかしその翌日。セレスタは再び陛下に呼ばれた。城の広間に足を踏み入れると、そこには厳しい表情を浮かべたセリオス王が待っていた。彼女は、心の奥底で何か重大なことが告げられる予感がしていた。




「セレスタ、来たか」王の声は重々しく響き、彼女の心を締め付ける。


「お父様、何かお知らせですか?」彼女は緊張を隠しきれずに尋ねる。王の表情からは緊迫感が漂い、まるで国の運命がかかっているかのように感じた。




「我が国の未来を考え、アルバリアとの婚姻が決まった。」王の言葉が静寂の中で響く。





 彼女は一瞬、言葉を失った。王の言葉には重みがあり、国の未来がかかっていることを彼女は理解していた。


「アルバリアとの同盟は、我が国にとっての最善の策だ。北方の強国ヴァルグリムの脅威が迫る今、婚姻によって結ばれることで、我々の防衛が強化される。私の判断を信じてほしい。」王の言葉は冷静で、だが彼女の心を締め付けた。


 セレスタは、自らの使命感と父の言葉の間で揺れ動いていた。自国を守るためには、何が最善なのか、そして自らの意志がどのように影響するのかを考え込む。


(私が結婚することで、本当に国が守られるのだろうか…。)彼女は、頭の中で何度も自問自答する。


アルバリアとの関係は良くも悪くもない。隣国でありながら交流はほとんどなく、互いに争う意思も見られないため、主に食糧の輸出入を行う関係にとどまっている。



「この選択が、必ず私たちの未来を開く鍵になるのだ。」王の言葉が彼女の心に重くのしかかる。彼女は目を閉じ、心の中で葛藤を繰り返す。果たしてこれが最善の道なのか、心の中での苦しみが彼女を襲った。



(国を守りたい。でも、私は…)


 言葉にできない思いが胸に詰まる。




 小さく息を吐き、セレスタは静かに頷いた。心の中の葛藤を抱えながらも、この運命を受け入れるしかない。これが本当に国を守るための選択であるなら、彼女はその道を進む覚悟を決める。



「分かりました。この婚姻を受け入れます。」



 その言葉が広間の空気を震わせる。セリオス王は柔らかな微笑みを見せた。



「セレスタ。お前の強さは、我が国の宝だ。」











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