第41話「アレックスとのお別れが思いのほかあっさりだった件」


 なかなか魔王(犬)と住める物件が見つからない。というよりもそもそものお金が無さすぎる。

 さらに男女二人と犬一匹というのがさらに追い打ちをかけてくる。


 見つからない中でアレックスは新しい仕事を見つけてきた。しかも住み込みのリゾートバイトって。一人だけずるくない?ちょっと!!


 +++++


「じゃあ、アレックス。またいつか会うことがあれば…って感じで」


 茜はそう言ってアレックスに手を振った。彼との別れは、思ったよりも淡々としたものだった。まさか、こんなにあっさりと彼を見送ることになるとは思わなかったが、それも仕方ない。あまりに騒々しい日々が続きすぎたのだ。


「うん、元気でな…ま、特に言うこともないけど、楽しかったぜ」


 アレックスは何とも言えない表情で軽く手を振り返す。彼のいつものクールな態度が少しだけ寂しげに見えたけれど、相変わらずのテンションの低さだった。


「もう少しこう…感動的な別れとか、泣きそうになるような雰囲気とか、ないわけ?」


 茜は軽く不満を口にしたが、アレックスは鼻で笑っただけだ。


「いやいや、泣くとかそういうの、俺らには似合わねぇだろ? それに、お前だってそんなに寂しがってないじゃねぇか」


「まぁ、確かにね」


 そう言って、茜は再び苦笑した。正直、アレックスとの別れにそこまでの感傷はなかった。彼とは妙な仲だったが、彼がいなくなることで一旦落ち着けると思えば、むしろ少しホッとしている自分がいた。


「そういえば、神様の玉、まだ持ってんだろ?」


「え? うん、持ってるけど…」


 茜は神様からもらった例の玉をポケットから取り出し、アレックスに見せた。小さく光るそれは、何の役に立つか全く分からないまま持ち歩いていたものだ。


「それ、使ってみろよ。もしかして、今まで使わなかったのが間違いだったんじゃねぇか?」


「はぁ? 今さら言う?」


 アレックスの唐突なアドバイスに、茜は呆れて玉を見つめた。しかし、このままアレックスがいなくなる前に何か使ってみるのも悪くないかもしれない。そう思った彼女は、玉を手のひらに乗せてじっと見つめた。


「じゃあ…試しに使ってみるか…」


 茜は心の中で軽く願いを込めて、玉をギュッと握りしめた。すると、玉が突然輝き始め、辺りが不気味な音とともに揺れ始めた。


「え!? なにこれ!? ちょ、ちょっと待って! 何か間違えたかも!」


 玉の光がさらに強まり、茜の体を包み込んでいく。アレックスは興味津々で眺めていたが、茜はただただパニック状態だ。


「お、おい! アレックス! 何か助けてよ!」


「いや、まぁ、頑張れよ」


 アレックスは相変わらずのクールさで、そのまま黙って見守っているだけだった。茜が叫びながらも玉の光に包まれて消えかけている中で、彼は軽く肩をすくめた。


「じゃあな、茜。次、またどこかで会えたらな」


 彼のその一言を最後に、茜は完全に光の中に飲み込まれてしまった。


 次回予告:「玉を使ったら変な場所に飛ばされた件」

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