第34話「茜が魔物を倒したと思ったら、そのせいで新たな問題に巻き込まれた件」


「や、やった…!」


 茜はタコの魔物が地面に倒れ込むのを見て、勝利のポーズを決めようとしたその瞬間――。


「ヒーロー様!」「救世主だ!」「すごい!」


 街中の人々が一斉にわーっと押し寄せ、茜を取り囲んだ。


「え、ちょ、なにこれ?」


「我らが救世主! あなたが魔物を倒してくれたおかげで、我々は救われました!」


 住民の一人が感動した様子で涙を流しながら茜の手を握りしめる。


「えーっと、うん…でも、ちょっと待って。私、そんな大層なことしてないよ!?」


「いいえ! あなたは真の勇者です!」


「ま、待って待って! 勇者とかそういうの、私のキャラじゃないから!」


 茜は両手をブンブン振りながら否定しようとしたが、街の人々は全く耳を貸さない。それどころか、次々に感謝の言葉を投げかけ、最終的には彼女を肩車して街中を練り歩く騒ぎにまで発展してしまった。


「やめて! 高いところ苦手だから!」


「ヒーロー、万歳!」


「いや、だから私はただの一般人…!」


 そんな茜の悲鳴も虚しく、住民たちは盛大に彼女を讃え続けた。茜は心の中でため息をつきつつ、アレックスの姿を探すが――


「…あれ、アレックス?」


 どこを探しても、彼の姿が見当たらない。タコの魔物を倒したことで、いきなりアレックスが消えた? いや、そんなことある?


「どうせまた勝手にどっか行ったんでしょ、あいつ…」


 やれやれと首を振っていると、突然、ドカンと大きな音が響き渡った。


「な、なに今の!?」


 空を見上げると、なんと巨大な飛行船が街の上空に浮かんでいる。船から降りてきたのは、あまりにも派手な衣装を身にまとったおっさん。頭には不自然に大きな王冠をかぶり、無駄にひらひらとしたマントを翻している。


「私はこの国の王、レオナルド三世である!」


「え、王様? こんなタイミングで!?」


 茜は驚きのあまり目をパチパチさせる。王様は自信満々の表情で茜の前に立ち、ドーンと胸を張って言った。


「我が国の民を救った勇者よ! お前に褒美として、この国の『最高の宝』を授けよう!」


「え、最高の宝!? なにそれ!? まさか、めちゃくちゃ強い剣とか!? それとも、魔法が使える杖とか!?」


 茜はテンションが上がり、次の展開を楽しみにした。しかし、王様が差し出したのは――。


「この、わが国で一番美味しいカボチャだ!」


「カボチャ!? いやいやいや、もっと他にあるでしょ! なんでカボチャなの!?」


 茜はあまりの期待外れにガックリと肩を落としたが、王様はニコニコと微笑んでいる。


「カボチャは栄養満点で健康に良いぞ! しかも、このカボチャは特別に甘い!」


「いや、そういう話じゃなくて! 私、魔物倒したんだよ!? もっと…こう…特別なものくれないの!?」


 王様はキョトンとした顔をし、一瞬考え込んだが、やがて頷きながらこう言った。


「ならば、このカボチャを3つに増やしてやろう!」


「いや、そういうことじゃないってば!」


 茜は頭を抱えたが、周りの住民たちは「さすが王様!」「なんて寛大な!」と大盛り上がり。誰も茜のツッコミを聞いてくれない。


「もう、なんなのこの世界…」


 その時、再びどこからともなく声が響いた。


「お前、そろそろ学べよ。ちゃんとツッコミ入れないから、こんなことになるんだぞ!」


「え、神様!? また出てきたの!?」


 空からズボラな神様(見た目はどこにでもいる普通のおじさん)が現れ、浮遊しながら茜に指を差して言う。


「そろそろちゃんと自分の願い、考えたほうがいいんじゃないか? カボチャばっかりもらっても仕方ないだろ」


「そんなこと言われても! あなたが最初からちゃんと説明してくれないからこうなったんでしょ!」


 茜が抗議すると、神様は「まあまあ」と手をヒラヒラさせて誤魔化した。


「次こそはうまくいくさ。たぶん」


「たぶん、じゃ困るのよ!!」


 茜の叫び声がまたもや空に響く。神様はそれを無視して、再び雲の上に消えていった。


「はぁ…もう、いい加減にしてよ」


 茜は肩を落としながら、手に握られたカボチャを見つめる。どうやらこれで終わりじゃないらしい。


 +++++


 次回予告:「茜がカボチャを使って予想外の事態に巻き込まれた件」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る