第32話「茜がついに現実世界に帰れると思ったけど、予想外な場所に着地した件」


「まぶしい! まぶしすぎる!!」


 玉から放たれた光に包まれた茜は、叫び声をあげながら目をぎゅっとつぶった。さっきまで草原にいたはずが、光に飲み込まれて体が浮き上がるような感覚に襲われる。


「これって…まさか、元の世界に帰れる!? やったー!」


 そう思い、茜は胸を高鳴らせた。だって、これだけ光が派手なら、きっと何かすごいことが起こるに違いない。現実世界に戻って、家族や友達と再会できるかも! もしかして自分の体も奇跡的に無事で、みんなが泣きながら迎えてくれる展開?


「えへへ、私は奇跡の生還者だわ」


 茜の頭の中は完全にハッピーエンドモード。キラキラした未来が待っている…と思いきや。


「…え、あれ?」


 突然、足元に重力が戻り、茜はドサッと地面に着地した。しかもかなり強引に。


「痛たた…って、ここどこ?」


 茜は目を開けて、周りを見渡す。そこは広々とした草原…いや、どこかで見覚えのある景色が広がっていた。ふわふわと漂う白い雲、青々とした空。そして、茜の足元には見覚えのある石畳。


「え、ここ…あの異世界の街じゃん! えー!? 帰れてない!!」


 大声で叫びながら茜は膝をついた。あんなに期待したのに、元の世界に戻るどころか、また同じ異世界に着地してしまったのだ。


「おい、茜。大丈夫か?」


 声に振り向くと、そこにはやっぱりアレックスがいた。彼は腕を組んで、ニヤニヤと茜を見下ろしている。


「アレックス! なんでまたここにいるのよ! 私、元の世界に戻れるはずだったんだよ!」


「はは、玉の力を過信しすぎたんじゃないか? それに、お前が『もう一度やり直したい』って思いながら玉を握りしめたから、元の場所に戻ったんじゃないか?」


 アレックスはケラケラと笑いながら、まるで「そりゃそうだろ」みたいな顔で言ってくる。


「な、なにそれ! そんな解釈あり!? 元の世界に帰りたいって思ってたんだよ!」


「まあ、思ってたのは『やり直し』かもしれないがな。神様だって、全部がうまくいくわけじゃないさ」


「そんなズボラな話、ありえないでしょ!」


 茜は地面に転がって、天を仰いだ。確かに、願いの使い方をもう少し慎重に考えるべきだったかもしれない。でも、こんな展開は予想外だ。


「まさか、またこの世界に戻されるなんて…」


「ま、悪いことばかりじゃないだろ」


 アレックスがしゃがみ込んで、茜を見つめる。


「どうせまた異世界でやること山積みなんだし、焦らなくてもいいんじゃないか?」


「はぁ…」


 茜は深いため息をつきながらも、もう一度立ち上がった。もう諦めるしかない。


「結局、私はまたこの世界で何かをしないといけないのね。まさかこれも神様の計画…?」


 その瞬間、上空から声が響いた。


「お前、いい加減学べよ! ちゃんと願いを使わないからこうなるんだぞ!」


 神様のズボラな声が天から降りてきた。どうやら見守っていたらしい。


「なんでそんな投げやりなのよ! もっとちゃんと説明してよ!」


「いやいや、あんたが勝手にやらかしただけだから! 次の機会に期待してくれ!」


「次なんてないよー!!」


 茜の叫び声が空に響いたが、神様はすでに黙ってしまった。茜は空を見上げながら、何とも言えない表情で肩を落とした。


「もう、どうすりゃいいのよ…」


 +++++


 次回予告:「茜がまた新しいトラブルに巻き込まれたけど、今回はうっかり解決しちゃった件」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る