第31話「よくよく考えたら、元の世界の私が火葬されてる件」
「…はぁ」
茜は大きなため息をつきながら、広がる草原をぼんやりと眺めていた。フェスの騒ぎから離れ、再びどこか知らない異世界に飛ばされた彼女は、突然押し寄せてくる考えに悶々としていた。
「やっぱり願いを叶えておけばよかったかも…」
アレックスと神様の言葉が脳裏をよぎる。あの時、全ての願いが叶うというあの巻物を断った自分を、今さらながら責め始めていた。永遠に異世界に閉じ込められるなんて、確かに怖かった。でも…。
「でも、もし元の世界に戻ったとして…私の体、どうなってるんだろう?」
茜は不意に思い出した。自分がこの異世界に飛ばされたのは突然の事故で、元の世界ではすでに数日が経過している。
「…もしかして、私、もう死んでる?」
そう考えた瞬間、茜の背筋がゾッとした。あの世界では、事故で死んだと思われているはずだし、遺体があれば間違いなく葬式も行われているに違いない。
「いや、待てよ。もし火葬されてたら、私、もう戻れないじゃん! 肉体がなくなってるんだもん!」
茜は一気に頭を抱え込んだ。元の世界に戻れる可能性があるとしても、自分の体がもうないなら意味がない。あの時、神様の願いを叶えていたら、何か違う展開になっていたのかもしれない。
「もう遅いけど…なんでちゃんと考えなかったんだ、私…」
アレックスが、ピンク色の玉を手に持ちながら茜の横に座っていた。彼は黙って彼女を見つめ、ため息をついていた。
「なあ、茜。お前、ほんとに帰りたいのか?」
彼の問いに、茜はしばらく黙り込んだ。帰りたい…と思っていた。でも、その「帰る先」がもうない可能性があることに気づいてから、茜の心には迷いが生まれていた。
「どうせ私の体、もうないんでしょ? 戻っても幽霊みたいに漂うしかないんじゃない?」
アレックスは少し困ったような顔をしてから、ゆっくりと口を開いた。
「元の世界に戻ることだけが、全てじゃないだろ。お前がこの異世界で生きるって選択肢だってあるんだ」
「…でも」
茜は立ち上がり、少し歩いてみた。草原は広がっているけど、何もない。現実感がないこの世界で、これからどうやって生きていけばいいのか全く見当もつかなかった。
「何かが足りない。何か、私にできることが」
その瞬間、ポケットに入っていた小さな玉がピカッと光った。茜は驚いてそれを手に取り、しばらく見つめた。神様からもらった、あの玉だ。
「そうだ…これ、まだ使ってなかった」
アレックスも興味深そうにそれを見つめ、微笑んだ。
「そいつ、まだお前の願いを叶える力が残ってるかもな。もしかしたら、元の世界に帰れるかもしれないし、新しい人生をこの世界で始める手助けになるかもしれない」
茜は玉を見つめながら、悩み続けた。元の世界に戻る選択肢がないなら、この異世界で新しい人生を見つけるしかないのかもしれない。でも、その決断をする勇気が、今の彼女には足りなかった。
「…やっぱり、元の世界がいい」
茜はそう呟きながら、玉をぎゅっと握りしめた。
「それが無理でも、私は自分の人生を取り戻したいんだ」
その瞬間、玉がパァッと強い光を放ち、茜の手の中で暖かく輝き始めた。
「おい、何か起こるぞ!」
アレックスが声を上げたが、茜は玉の光に引き込まれるようにして、再び意識が遠のいていった。
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次回予告:「茜がついに現実世界に帰れると思ったけど、予想外な場所に着地した件」
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