「生きる」のは性に合わない

翅音

0,日没と満月

 月は自然と欠けるし、日は毎日昇る。

 雨も雪も、いつかは降りやむ。

 俺なんかが何かしたところで、それは変えられない。


「私たちって、なんで生まれてきたんだろうね」

 彼女は唐突に、そう問いかける。

「生まれてきて、生きて、その結果が、こんな不幸な生き方なら――、死ぬときだけが幸せな人生なら、生まれた意味なんて……あったのかな?」

 その言葉に込められた感情は――、寂しさ? 悲しさ?

 いや、違う。きっと、楽しさだ。

 きっと彼女は、不幸な人生を、本気で楽しんでいる。

 俺は問に答える。

「不幸な人生だからこそ、幸福な生き方を目指すために生きるんだろ。生きることに幸せを見出すために、俺たちは生まれてきたんだろ」

「そっかあ……っはは、たしかに」

 俺の答えに、彼女は相変わらず、楽しそうに返事をした。

「君はどうなの? 幸せを見出すことはできた?」

「少し前まではできてたんだけどな。もう見失ったよ」

「ふーん。じゃあ、私とお揃いだね」

 そう。俺たちは、不幸な人間だ。

 だからこれから、死ぬ。


 これは、俺と彼女の――、東雲しののめ 透夜とうや曇坂くもりざか みぞれの、不相応で不格好な、人生のお話だ。

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