第31話 おつかれさま会

「それでは依頼達成を祝って!! かんぱーい!!」


 山小屋内にグラスがカランカランと当たる音が響く。


 俺達はロードドレイクとウォータードラゴンのドラゴンの討伐を終え、俺達の山小屋に帰ってきた。


 ブルドー村の人達には依頼が達成したことを伝えたら、ワインとブドウに似た果実を頂いた。


 コール山の山頂近くに住んでいることとワイン造りに興味があるって話をしたら、ご近所ならば……ということで今度タルを持ってきてくれるという話になった。ありがたい。


「ぷはっ!! 久しぶりのユキトさん家でのエイル!! 最高です!!」


 エリカさんは相変わらずの飲みっぷり。


 山小屋に帰ってからはまず各々のやりたいことを行った。


 エリカさんはギルドから来たリーファさんとエルフのラティアさんと共に露天風呂に向かった。


 ユイちゃんと俺は帰って早々に水やりに向かった。


 ウェザーコントロールの精度が上がったおかげで水やりの効率を上がったのは心強い。


 水やりを終えた後は、ユイちゃんをお風呂場に向かわせて俺は台所に向かい飯を作る。


 シロはソファで丸くなっていた。


 そしてそんなこんなで俺も飯作りやらお風呂やらを済ませた。


 久しぶりの露天風呂は硬くなった筋肉に染みた。やっぱり温泉こそ至高。


「なんすかこのエイル!! めっちゃ美味いっす!!」


 ラティアさんも喜んでくれて何よりだ。


「あの……本当に私も参加して良かったのでしょうか? こんな素晴らしいお風呂にも入れさせて頂いた上に……」


 リーファさんはおそるおそる俺に尋ねる。


「むしろ参加して頂いて俺は嬉しいですよ。リーファさんがシロを見て頂いたおかげで俺は安心して依頼をこなせましたので。それに……」


「それに?」


「ちょっとくらい羽を伸ばしても良いと思いますよ。今回、リーファさんも頑張ってここまで来てくださったのですから」


 リーファさんの立場は客先の出張と同じだ。


 でも俺はそういうの抜きにして楽しんでくれたらと思う。


 立場上矛盾してしまうかもしれないけれど、せっかく異世界で仕事だとは思ってほしくない。見知った仲もいるのだから楽しく過ごしてほしい。


「そうですよ!! ユキトさんが良いって言ってるのですから、遠慮なんてしちゃもったいないですよ!!」


 エリカさんは缶ビールを片手にリーファさんの腕を組む。


「え、エリカさん?」


 リーファさんは少し困惑気味の様子。


「エリカ。ステラみたい」


「ステラさんみたい!? それはさすがに心外ですよ!!」


 ユイちゃんの一言にショックを受けるエリカさん。


 類は友を呼ぶと言うからな。まぁ、そういう明るいところがエリカさんとステラさんの良いところなんだけど。


「お!! エリカ先輩が次期ギルド長ってことっすか!! 自分応援するっすよ!!」


「なんでよ!! 私はユキトさんの家に骨をうずめる覚悟なんですから!! 絶対にやらないですよ!!」


「ユイがいるからあんしんしていい。かわりにユイのほねをうめる」


「私の意志は!?」


 なんか漫才みたいになってるな。


 でもユイちゃん……さすがに年の差が離れてるからエリカさんといるならエリカさんと一緒にいてほしいな。さすがに罪悪感がすごくなるし。


「ふふっ。そうですね……ちょっとくらい良いですよね」


 リーファさんはみんなのやり取りを見て笑う。


 良かった。


「あ、でもこういう会が苦手だったら言って下さいね」


 元居た世界にはアルハラというものがあるらしい。


 多分だけどアルハラは異世界でも適用される。


「大丈夫です。ただちょっと慣れていないだけなんです。むしろこれで良いのでしょうか?」


「飲み会に正解も不正解もないですよ」


「そうですか……ありがとうございます」


 そんなに恐縮して貰わなくてもいいのに。


『へっへっへっへっ』


「お、シロもお腹空いたよな」


 シロにも忘れずにお肉をあげる。


『はふっ! はふっ!』と少しがっつくように食べる姿は今日も可愛い。


 シロにご飯を与え終えて横を見るとラティアさんは缶ビールをグビグビと飲んでいた。


「というか、ラティアさんもお酒飲まれるんですね」


「飲みますよ!! お酒超大好きっす!!」


 当たり前の話だけれど、俺はエルフのことはよく分かっていない。


 種族間、あるいは宗教間でお酒は飲まない可能性も十分にあると思っていたけれど。


 そんなことはないのだろうか。


「麦は穀物で自然の恵みっすからね!! ワインも果実で自然の恵みっす!! マジ感謝っす!! 自然を愛するエルフ的にオールオッケーっす!!」


 ラティアさんはグッと親指を立てる。


 あ、なるほど。むしろ推奨されているパターンか。


 そうして飲み会は続く。


 俺は定期的におつまみやお酒を持ってきたりと動いていた。


 なんだかんだリーファさんも楽しんでそうで良かった。


「おかわりいりますか?」


 俺は缶ビールを片手にリーファさんに尋ねる。


「あ、すいません。いただきます」


 リーファさんは缶ビールを受け取り、缶のプルを引く。


『プシュ!』と壮快な音が鳴る。この音は何回聞いても飽きそうにない。


 俺はブルドー村の村長から頂いたブルドーワインを1本開ける。


 グラスに注ぐと綺麗な真紅色が揺らめいた。


 一口、口に含むと芳醇なワインの香りが口に広がる。


 普通に美味しいと感じた。そういえば元となったであろう果実も頂いたから、明日あたりに植えてみよう。


 どんな風に成長するのか楽しみだ。


「いいですね。こういう賑やかな空間も」


 リーファさんは目の前の風景を見て呟く。


「私、さっきも言いましたけど、ギルドの職員になって……こういう大人数の飲み会はしたことなかったんです。あ、だからと言って飲みの席はない訳じゃなくて、ステラギルド長がたまに飲みに連れて行ってくれるんです。ただ、それだけなんです」


「それだけ……?」


「はい。私にとって、お酒を飲む場面はステラギルド長と二人で飲む時だけで……もちろん、ステラギルド長は尊敬しているんですけど……私でいいのかな? きっとエリカさんとか、そういう人と飲んだ方が楽しいんじゃないかなって思ってしまうんですよね」


 人には人の悩みがある。かつて俺にも俺の悩みがあったように。


 誰しも悩みがある。エリカさんにもステラさんにも悩みはあった。


「すいません。少し喋りすぎました。酔ってるんですかね? 私」


「別に酔ってても良いんですよ。今は……飲みの席なんですから」


 エリカさんの悩みはエリカさんにしか理解できない。


 きっと俺達の悩みは世界の中ではちっぽけな出来事かもしれない。


「あの……また遊びに来てもいいですかね?」


 リーファさんは俺の顔色を伺うように聞いた。


 たしかに今を生きる俺達に悩みは影のようにつきまとう。


 影の濃さは人によって違うけれど。たしかに存在する。


 その悩みの影が……せめてここにいる時くらいは薄くなってくれるだけでもいいなって俺は思う。


「もちろんです。俺はここにいるんで、いつでも遊びにきて下さい。賑やかなのがお望みならラティアさんと一緒に来てください」


「ありがとうございます。次来るときは何か手土産を持っていきますね。お酒のつまみにピッタリなやつを」


 リーファさんは柔らかい笑みを浮かべて答える。


「そうですか。楽しみにしています」


「二人は何の話をしてるんすか!! ラティアも混ぜてほしいっす!!」


「そうですよ!! せっかくの飲みなんですから私達も混ぜてくださいよ!!」


「エリカもラティアもステラみたい」


「心外です!!」「心外っす!!」


 ユイちゃんの一言が刺さる二人。こんな賑やかすぎる飲み会も楽しい。


 次やるときはステラさんを入れて飲もう。


 そうしたらリーファさんの悩みの影も薄くなっていくだろうから。


 こうして俺達は朝まで飲み明かしたのだった。


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