第30話 ブルドー村(後編)

 翌日の早朝。俺達はウォータードラゴンの討伐に出た。


 シロとソフィアさんはブルドー村に残ってもらった。


 安全のためだから仕方のないことだとはいえ、ブルドーの村から離れる時にシロは


『くぅん……』と寂し気な声を出していた。


 少しの別れであるけれど、ちょっと辛い。


 罪悪感に近い感情を抑えて先に進む。


「ユイ。はやくかえりたい。みずやりやりたい」


「そうだね。早く終わらせようか」


 曰く。ウォータードラゴンはブルド―の村から1時間ほど歩いたところにある湖を住処にしているらしい。


 そういう意味では近場で助かった。


 幸い(?)にもロードドレイクは倒している。


 あとはウォータードラゴンを倒すだけ。


「この湖がウォータードラゴンの住処っす!」


 森のような場所を抜けると大きな湖が現れた。


 ちなみに、ここまでの道案内はラティアさんに任せている。


 なんでもエルフの人は感覚が鋭いらしい。


 地図でおおよそな場所が分かるのも大事だがなにせ迷う。


 意識すればエリカさんもルナちゃんもモンスターのおおよその位置を掴めるらしいが、何もすることがなさそうだから……ということでラティアさんが進んで「やるっす!!」と言ってくれた。本当にありがたい。


 とはいえラティアさんもA級。


 冒険者の中でも十分高ランクらしいんだけど。


「ここが……」


 湖の真ん中には水色のドラゴンが咆哮をあげていた。


 ウォータードラゴンは縄張り争いをしているロードドレイクが倒れたことを知らないのだろう。十分に殺気立っていることが分かる。


「すいません。一度、俺が攻撃してもいいですか?」


 せっかくだし、新しく考えた魔法を試してみたい。


「わかった」


「分かりました!! じゃあ私は何かあった時のために横から攻めておきますね!!」


 エリカさんはそう言って、飛び出して行った。


「まじっくしーるど」


 ユイちゃんは俺達を中心に半球状の盾を展開した。


「ありがとう、ユイちゃん。助かるよ」


「ユイのたてはさいきょう。あんしん」


 ユイちゃんは片手でピースをする。本当に頼もしいな。


 俺は右手に風と水の魔法陣を展開させる。


「ウェザーコントロール」


 俺は湖の上に雲を作り出す。俺は自然に漂うマナを意識する。


 風は湖の水を巻き込み雲を生成する。


 雲は湖の水に含まれている塵や砂を絶えず巡回させる。


 巡回している塵や砂は摩擦を起こし、熱エネルギーに変換する。


 俺はその熱エネルギーをマナとして捉えて、一点に集中させて解き放つ。


「サンダーボルト」


 俺はウォータードラゴンにサンダーボルトを放った。


『GYAAAAAAA!!!』


 雷鳴はウォータードラゴンを貫き、一撃で倒れた。


「いやぁ……マジやばいっす……。ユキトさん。本当は高ランクの冒険者だったんすか……!」


 ラティアさんは目を輝かせている。


「いや、俺はまだ冒険者になって日が浅いので、ランクは低いんですよ」


「いやぁ、能あるファルコン……爪大きすぎても隠せるもんなんすねぇ……」


 言っている意味が分からないけれど、褒めてくれているんだろうか?


「いや、一つだけ訂正させて下さい。僕に能なんてないですよ。僕の魔法はみんなのおかげなんです。エリカさんが俺に魔法の楽しさを教えてくれなかったら……ユイちゃんの魔法を見なかったら……俺はここまで練習しようとは思わなかったでしょうし」


「なんと!! 聖人っぷりに目が痛いっす!」


 ラティアさんは目を抑えていた。ちょっとリアクションがオーバーすぎやしないだろうか?


 ちなみに、エリカさんは……。


「わわっ!!」


 ウォータードラゴンが倒れた拍子で大きく上がった水しぶきに巻き込まれていた。


 確実にトドメを刺すためにウォータードラゴンに飛び込んでいたみたい。


 その後、エリカさんはゆっくりとウォータードラゴンの上に乗る。


 エリカさんはウォータードラゴンの首を剣で斬り刻み、何かを取り出した様子だった。


 なにを取り出したのかは見えないけど、倒した証みたいなのを取っていたのだろうか?


 しばらくすると、エリカさんは足元に風の魔法を展開し、ひとっ飛びして俺達の方に戻ってくる。


「ユキトさん~!! 服がびちゃびちゃになっちゃいました~!!」


「とりあえず、俺ので良ければ使って下さい」


 俺は念のため持ってきたタオルと上着を渡す。


 エリカさんは「あ、ありがとうございます」とお礼を言った。


 なるほどな。てっきり魔法は手でしか展開できないものだと思っていたけれど、足からでも展開できるのか。


 場合によって、全身のどの部位からでも魔法陣を展開できるかもしれない。


「あと、おめでとうございます。これがウォータードラゴンの討伐の証……『水龍の宝玉』ですよ」


 エリカさんは球状の水色の宝石を俺に渡す。


 既にカット加工がされたようにキラキラとしていた。


「水龍の宝玉?」


「貴重なアイテムなんですよ? 杖に使えばマナ効率が上昇した杖も作れますよ?」


「すごい……!! それなら作物に水やりするのも楽になりますね!!」


「ぷっ……!! あっはっはっは!! ユキトさんらしいです!! 普通ならこれでもっと強くなる!! とか言うんですよ!? それなのに……もう、本当にそう言うところが……」


 俺の発言にエリカさんはめっちゃ笑っていた。


 そう言うところが……なんだろう?


 その先はちょっと怖くて聞けそうにない。


 できれば一刻も早く山小屋に帰って、日常に戻りたい。


 山小屋でゆっくり暮らしながら、本気で趣味魔法に打ち込む。


 こんな生活を送れるなんてブラック企業時代は夢にも思わなかった。


 だから俺は神様だけではなく、みんなに感謝している。


「ともかくみなさん。お疲れ様でした。早いところ帰りましょう」


 そうして俺達は依頼を終わらせて、帰るのであった。

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