第21話 お散歩
「あ。おはようございます。ユキトさん」
翌日の朝。まだ眠たげなエリカさんが声をかけてきた。
「あ、エリカさん。すいません。起こしてしまいました?」
「え? あぁ、そんなことないですよ。私もともと眠りが浅いんですよ。だから起きちゃいました」
「それならいいんですけど……」
「あ、ひょっとしてユキトさん。私のこと疑ってます? ほら冒険者やってるといつなにが起こってもおかしくないように無意識に準備しちゃうんですよ。だからユキトさんが起こしちゃったかな~? 申し訳ないな~? みたいなことを思う必要はまったくないんですよ」
そういえば、いつもエリカさんは俺が起きる前には起きていた。
出会った日に冒険者は野宿することが多いからお風呂があるだけでもありがたいみたいなことを言っていたよな。
そういうところも含めて、常に気を張らないといけないのは大変だっただろうな。
「じゃあ、なおのこと安心ですね。朝ごはんの用意でもしましょうか?」
「あの……もしよかったら少し歩きませんか? お忙しいならいいんですけど……」
エリカさんは少し
「俺とですか?」
「ユキトさん以外に誰かいますか?」
それもそうか。他の二人は寝てるしな。
「じゃあ、シロの散歩ついでに歩きましょうか」
「はい……! ありがとうございます!」
エリカさんは嬉しそうに笑った。
「あ、でも行く前に水飲みましょう。朝起きてからの一杯は大事ですよ」
アルコールを入れた後に寝ると脱水がひどくなる。
曰く、二日酔いは肝臓でアルコールを分解する時に水分を使うことに加えて、寝てる時に水分を失ってる時に起こる。
今は大丈夫そうでも、歩いている時に体調を崩すかもしれない。
だって歩いている時だって、身体の中の水分は失くなるのだから。
「ユキトさん。なんだかお母さんみたいですよね」
「どちらかというとお父さんじゃないですか?」
そんなお世話してるつもりはないんだけどな。
「というか、むしろお母さんはエリカさんになりませんかね??」
「……ふぇっ!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
そんな驚かれることを言った……かもしれないな。
「あ、嫌な思いをしたらすいません」
「いえ、嫌ではなかったですよ……?」
「そうですか……次からは気を付けます」
俺は蛇口を捻り2つのグラスに水を入れる。
エリカさんはグラスを受け取ると、
「気を付けなくてもいいですよ? 私もユキトさんに甘えてもらえるママになれるよう頑張りますね?」
「ははは…… ありがとうございます」
なんか別の意味に聞こえそうになる。
「はい!! 期待していて下さい!!」
エリカさんは屈託のない笑顔で言う。
エリカさんは純粋そうだから、きっと他意はないのだろう。
二人で水を飲み干す。
「じゃあ、行きますか」
「はい!」
玄関で靴を履き替えていると、シロが駆け寄ってくる。
「ほら、シロも行くよ」
「わふっ!」
シロは今日も可愛く返事をする。
というわけで、俺とエリカさん、そしてシロのパーティで散歩に出かける。
特にゴールなんて決まっていない。行く宛てのない散歩。
ただ一直線に。真っ直ぐ歩く。
思えば、シロは俺が畑作業と魔法の練習をしている時にしか外に出ない。
基本的にシロは俺から離れないから、散歩らしい散歩は初めてかもしれない。
風で葉々が揺らされて心地良い。
異世界の小鳥達も日本の鳥と変わらず『ちゅんちゅん』と鳴いている。
のどかだと思った。
ただ歩いているだけなのに、すごく心地いい気分になる。
「ユキトさん。今日もいい天気ですね」
「そうですね。すごくいい天気です」
「私、今まで天気って雨が降っていたら歩きづらいってことくらいしか考えてなかったんですけど、こんな日が毎日続くならずっと晴れててほしいって思っちゃいます」
エリカさん達から聞いた限りだけど、冒険者という仕事に天候はあまり関係ないらしい。
危険なモンスターが出たら、速やかに倒さないといけない。
近くに住んでいる人達の安全と生活のため、きっとエリカさんには俺には分からない重圧があったのだ。
「奇遇ですね。俺もそう思います」
「そういえば、ユキトさん知ってます? いつも入ってる露天風呂って聖水らしいですよ?」
「聖水……?」
聖水ってあの? ゲームや漫画とかでよく見る、あの??
「つまりすごい回復アイテムらしいです」
「へ~。どうりで疲れが取れやすい訳だ」
うん。効き目がすごそうだ。
「あ、そういえばシロと初めて会った時すごいケガをしてたんですけど、一日で治ったのはもしかして……」
「ユキトさん。そんな話してましたね……多分、シロちゃんの怪我が治ったのは聖水の効果かもしれませんね」
おそらくだけど、温泉だけじゃなくて台所の水もきっと聖水なのだろう。成分の濃さは違うかもしれないけど、効能は一緒だったのだろう。
「おぉ……すげぇ。シロ、お前ラッキーだったな!!」
「本当にシロちゃん良かったね」
「わふっ?」
シロは俺とエリカさんが言ったことに尻尾を振りながら首を傾げている。
なにが? と言ったような目をしている。まぁ、可愛いからなんでもいっか。
それと、ありがとう神様。神様が俺のために用意してくれたご褒美のおかげだ。
おかげでシロと出会えて命も救えた。感謝しかない。
かと言って、世界を救いたいなんて大それた夢もない。
俺の手の届く範囲の人が幸せで過ごせるならば、なんでもいい。
そのためだったら俺ができる限り……伸ばせる限り、精一杯手を伸ばしたい。
「ユキトさん。そろそろ戻りますか?」
「……そうですね。戻りましょうか」
俺とエリカさんは後ろを振り返る。
「シロ。帰ろっか」
「わふっ!」
そうして進んだ道を引き返す。ただ一直線に、それでいてゆっくりと。
俺達の
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