第17話 異世界にわとりの味

「ぐやじい。ごんなに美味じいだなんでぎいでない」


 ステラさんは涙目でそう言った。


 俺達はご飯を食べ終わった後、後片付けをしていた。


 シロもお腹が膨れたようで気持ちよさそうに横になっている。


「なに? あの止まらない味。一見味が濃いように見えて、癖になる美味しさ……ずるいわ」


「お口に合って良かったです」


「しかもいい人だ」


「そうですかね?」


 俺がそう言うとステラさんは俺に微笑みを向ける。


 たしかにステラさんがボソッと言ったように、グランドターキーは美味しかった。


 言うならば、サラダチキンに近い。


 ニワトリなのだけど淡泊な味に加えて、噛めば噛むほどうま味が口の中に広がる。


 異世界の食材も悪くない。


「なぁユキトくん。良かったら私と結婚してヒモにならないか? 今なら料理さえ作ってくれたら私が養ってあげよう」


「あ、それなら私が養います!! ユキトさんは譲りませんよ!!」


「いや、普通に養ってもらうのは遠慮しておきますよ」


 なんか申し訳なくなるし。


「ユイもやしなう」


「ユイちゃんもありがとう。お気持ちだけ受け取っておくね」


 とはいえ、今回の料理は色々と勉強になった。


 殺したばかりの食材は血抜きをしないといけない。


 問題の血抜きは水魔法で解決した。水魔法を注ぐのではなく吸い取るために使った。


 徐々に透明の水の球体が赤く染まっていくのは、ちょっとしたホラーだったことを除けば便利だった。


 その後はフライパンで焦げ目がつくまで焼いてクレイジーソルトをかける。


 クレイジーソルトは塩コショウだけではなく、ハーブやスパイスも配合されているから美味しいのだ。


 火もいちいち摩擦で起こすのではなく、魔法を展開して火を点ける。


 火の魔法はなれなかったけれど、手に体温を集める感覚で魔法陣を展開したらなんとか火を点けることができた。あとは火種に火を移して終わり。


 魔法の練度は数をこなすだけ。


 やればやるだけ上手くなる。そんな予感がしている。


「でもやっぱり……ユキトさんのご飯を食べるとエイルが飲みたくなりますね」


「家に帰れば飲めますから、もうちょっと我慢してくださいね」


「我慢します!! 晩御飯も楽しみにしています!!」


 エリカさんは単純だった。


 そういうところが、気負いしないから助かる。


「おかしい。胃袋を掴んで正ヒロインの座を奪ってやろうかと思っていたのに、むしろ私が奪われるなんて……」


 ステラさんは何故かショックを受けてうなだれていた。


「なんですか。正ヒロインって」


「気にしないでおくれ……これでも料理には誰にも負けない自信があったのだよ。いつでも誰かの嫁に行っても問題ないようにな。それなのに……ぐすん」


 本人が気にするなと言うならそうしよう。


「ではお腹も膨れましたか行きますか」


「早く!! 行きましょう!!」


 エリカさんの目には『お酒飲みたい』って書いてある。


 とはいえ、俺も早く帰って畑に植えた植物に水をあげたい。


 1日くらいでは枯れないかもしれないけれど、俺としては水をあげて安心したい。


「そうですね。早く行きましょうか」


 そうして、山小屋に向けて歩き出す。陽が落ちるまでには帰ろう。


 きっと歩き疲れた後の温泉は、さぞ気持ちいいはずだから。


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